「クリスマスおめでとう！ハリー」
ハリーが起きたときにはもう、最愛の同居人ロンは起きだしてキッチンに立っていた。
「早起きだねぇ、ロン……」
「だってクリスマスじゃないか！そんな格好でうろついてると風邪ひくぞ。早く着替えてこいよ」
「うん……」
行事ごとがあると、人一倍はきりるのがロンだった。ハリーだってそりゃあ、多感な（笑）少年時代はそういった他愛もないことのすべてが目新しく、楽しかったものだったが、すっかり青年時代になってしまった今では、正直言うと、そんなに興味があるわけではないのだった。興味があるのはただ、ロンがそれを喜ぶかどうか、というただ１点のみだった。
朝食を食べて、クリスマスディナーの準備をして、それから２人は居心地のいい暖炉の前のソファに座って、クリスマスの贈り物を、ひとつひとつ開けた。
「まーたママからはセーターだ」
「色が変わったじゃないか。今年はグリーンだ。僕のはオレンジ」
「セーターっていうところが嫌なんだよ！」
「ハーマイオニーは相変わらずお菓子だな。いったいいつくだと思ってるんだか」
「んえ？何か言った？ハリー」
さっそく最新流行の魔法菓子超ビックリクッキーをほおばりながらロンが聞いた。
「なんでもないよ。ああ、ジニーからはエプロンだ。おそろいだね」
「……どうしてみんなおそろいばっかりなんだい？」
「ハーマイオニーは違うじゃないか」
「そうじゃなくてね、ハリー……」
にっこり笑われてしまえば、ロンが口で立ち向かえたためしはないのだ。
山のように来ている、ハリーのファンからのカードや贈り物は、後日改めて、ということで、ツリーの下においてあるのは、みんな友人からの贈り物だった。その中でも、お互いのものは１番最後に開けた。
「ハリー、これ！」
ハリーからロンへの贈り物は、高性能双眼鏡だった。目の悪いあなたの手元から、お月様までバッチリ！という謳い文句の最新式だった。
「これで僕の試合観戦してね」
「……ありがとう。ね、僕のも開けてみてよ」
とても高価なものだということは分かっていたが、ロンは何も言わなかった。
「わぁ……」
ロンからの贈り物は、とてもきれいな細工のほどこされているペーパーナイフだった。少し昔風なところがまたしっくりくる。
「ありがとう、ロン」
本当に、心からハリーがそう言うとロンは照れたように赤くなった。
「いつもファンレターを開けるの大変そうだろ？使ってくれると嬉しいんだけど」
「もちろんだよ！」
大きさといい重さといいしっくりくるそれを手の中でもてあそびながら、ハリーはふいに思いついた。
「ねぇ、でもロン知ってる？」
「何を？」
ビックリクッキーのひとつがかんしゃく玉味だったようで、口の中をヒリヒリさせながらロンは聞いた。
「マグルの世界じゃね、物を切るものを送るのは『もう縁切りだ』って意味があるんだよ」
効果は劇的だった。いきなりロンは真っ青になって、いったいどうしたらそんなつもりは微塵もないのだということを分かってもらえるだろうかと思案する、心配でしょうがないといった顔になった。
「そ、そんなつもりはなかったんだよ！ハリー！！ああ、どうしよう！？じゃあ、それは返してもらっていいかな？すぐにかわりを用意するから」
狼狽するあまり、泣き出しそうになっているロンに、さすがにハリーもいたずらがすぎたことを知った。
「ロン、ロン」
「ごめん、ハリー。本当にそんなつもりはなかったんだよ！」
「ロン、大丈夫だから。ロン」
身を乗り出して、ハリーはロンの手をぎゅっと握った。
「マグルにも『おまじない』っていうのはあってね。こういうときのものもちゃーんとあるんだ。だから安心して」
「そうなの？」
「うん。縁切りにしないためにはね……」
それがどんな難題だって成し遂げて見せる！という決意に満ち満ちた顔で、ロンはハリーの言葉を待っていた。
「えーっとね、贈り主はキスと一緒に贈るんだ」
大変厳かに言ったハリーだったが、どこかしらにじみ出るうさんくささは消しきれないようだった。
「……ホントに？」
ロンの声が疑わしげにひそめられた。
「まったく本当」
手を、宣誓の形に上げて、ハリーは大嘘を誓った。
「え、……と、キス、でいいんだね？」
「そう」
そういう雰囲気になってしまえば、恥ずかしがりやなロンも、もちろんキスの１つや２つや３つや４つや５つはする。でも、その前がなかなか大変なのだった。もちろん、そんなところも含めて、可愛くて仕方のないはリーだったが。
「え――――っと、目をつぶってくれるかい？ハリー」
「ＯＫ」
目をつぶって、手は膝の上で軽く組んで待った。
さて、どれくらいでしてくれるかな？と待つほどのこともなく、ハリーの手をロンが握った。あたたかくて、世界で１番触りごこちのいい手だった。
頬になにかあたたかいものが触れた。残念、これでおしまいかな、とハリーが目を開けようとすると、今度は目に触れてきた。
次は目尻。それから、耳。これは少しかじられた。また頬に戻ってきて、それから唇に押し付けられた。いつもだったら、この時点で攻守は交代になるところだったが、ハリーは大人しくされるがままにしてみせていた。
すると、今度は重みが全身にきた。ロンが覆い被さるように抱きついてきて、気がつけばキスはすっかり深いものへと変わっていた。
浅く深く。とても大事な人が、とても愛しいということを、分かりやすく示すために――――。
ポッター＆ウィーズリー家の暖炉には、その日フルーパウダー防止魔法がかかっていたので、２人の家人のクリスマスディナーがどんなに遅くなってしまったのか知る者は、誰もいなかった。
刃物ネタの出典は『アンの夢の家』。
ホントは「小額でもいいからお金を出す」でした（笑）。
……いやぁ、ラブラブって、ホント素晴らしいですねぇ。