『ひかり』
ざぶん、と水に入った瞬間、光が見えた。
ああ、きれいだな、と思った。そして懐かしかった。
以前は何度も見たことがある。高校時代。
水泳部だったから練習中、プールから夏のまぶしい光を何度も拝んだことがある。
それに、今の家にもプールはある。
撮影にも使ったことがある。夏になるとそりゃあもう一生懸命ヘンリーとゴシゴシ掃除
しているプール。小さなものだが。
軽くもぐって仰向けになって、
水の中から見る世界は面白かった。
わけても面白いのは太陽、日差し。
キラキラと反射するそれは、水から出れば拝みようもないものだったから
よく夢中で見たものだった。目を眇めて。
「……！！」
「………！？」
なんだかものすごく名前を呼ばれているような気がした。
勢い良く体が流されていることも。
ひとつひとつ思い出す。
こういう時にはまず落ち着くことだ、と言い聞かせたので
丁寧に思い出すのに時間がかかってしまった。
えーと今は撮影中で。あいた、切りはしなかったが岩に当たったぞ。
えーと河に流されるシーンで。うーん体の向きを変えられないなぁ。
えーと救命具もなしに水に入ったら……あれよあれよと言う間に流されたんだっけ？
どうも当初の予定のように、
崖から河に落ちて、そのまま岸辺に流れ着いたアラゴルン、という図には
上手いことならないんじゃないだろうか、というほどの流れの速さだった。
『流されている、意識のないアラゴルン』という設定だから
泳ぐ訳にもいかないし。さて？
「……！」
「……ゴっ！！」
どうやら呼ばれているらしい。
元水泳部で泳ぎは好きだったから大丈夫だと思ったんだがな。
やはりちょっと無理があったか。反省。
………………。
これくらい反省すればいいかな？息も苦しくなってきたし。
足に何か当たっているところをみると岩かも。
こんなに沈んでいちゃいけないな、まわりも心配するだろうし、
俺も死にたくはない。しかも溺死だなんて！
撮影中に出演者が事故死したりしたらＰＪをはじめとするスタッフも困るだろうしな。
よいしょこらしょと足に当たる岩を蹴り上げて
顔のまわりにある水がばしゃっ、と跳ねた。跳ねたということは。
目の前には青いボート、まさしく命綱だ！
げほごほやりながらも、一生懸命そこから差し伸べられる手に掴まった。
息をするのも大事だが、安全な場所に移動するのも同じくらい大事。
「はー、やれやれ」
思わずそう声がもれる。声が出せるようになるとすぐに。
ちょっとして死ぬところだったのかな？うわぁ、それは嫌だな。しかも寒い。
すかさず毛布で身体を覆われ
その上からさらに風を通さないような謎の毛布もどきをかけらた。
「急いで岸に戻ろう。風引いちまうよ」
「あったかいものでも飲もうぜ、な？」
まったくだ。熱いコーヒーが飲みたいな。
「ヴィゴ！」
カットの声がかかるが早いかショーンはヴィゴのもとへすっ飛んで行った。
今度は成功。ヴィゴはきちんと岸辺に着いた。
そして着いた途端。
「ラヴいね」
「ラヴラヴだね。あ、毛布かけてる」
「見るからに痛そうだもんねあの格好も」
「そうそう戦闘の後って設定だから、腕とか傷だらけだし」
「それで崖から落ちて流されて生きてるの？」
「一緒に落ちたはずの魔狼はどこいったの？下流に流されたの？」
「じゃない？見つけた人ビックリするだろうねぇ」
「見つけたくないねぇ」
「いやまったく」
「今度は怪我とかなかっただろうね！？」
「あ、ありがとうショーン。ってアンタ衣装のままで……」
「さっこれでも飲んで！あつあつだから舌を火傷すないようにね！」
「ココア？……ありがとうショーン嬉しいヨ」
ふうふう言いながらココアを飲んで
まだ脱ぐわけにはいかないので衣装のままで
毛布にくるまり頭にタオルを置いて
ショーンに世話を焼かれて。
「……なんだか小さい子になったみたいだ……」
「うん？何か言ったかいヴィゴ？」
「ううん、なーんでも。おいしいね、コレ」
「監督、まだ続きがあるんですけどいつ声をかけましょうか……？」
「そうだなー、３分後くらいかなー」
「で、誰が声かける？」
「うーんやっぱりソフトな人かなぁ」
「邪魔しづらい雰囲気ですもんね」
「大体なんでここに来てるの？」
「オスギリアスの撮影が早く終わったんですって」
「あああホビットたちまで来てる……」
「あと２分〜♪」
「……で、誰が言いに行く？」
おそらくとっても懐かしいであろう流されネタ。
流されたのはアラゴルンと言うべきか、ヴィゴと言うべきか♪
この人もまあムチャキングですね〜。身体を大事にしてくれ！
歯は折るし、骨折はするし、頬は打つし（これは撮影中じゃないが）
まったくもう！ファンも心配するんだぞ！
ところで今回で１００題も９話目。
それはいいんだけどアドレスにも出てくる番号が『００９』。
……違う番組思い出したりして。
あかいまーふーらー、なーびーかーせてー♪
以下敵役か？（笑）