「あれ？……ヴィゴは？」
「街娼にヤボなこと聞くもんじゃないわよ、オーリィ」
目当ての人の姿がないことに不安そうな目をしている青年に、まだ客を捕まえられていないヒマな街娼たちはキャラキャラとわらい転げて答えた。
「………っ！」
まさかまさかまさか、とオーランドの顔が夜目にも青ざめた。それを気の毒に思ったわけでもないだろうけれど。
「ついさっき、お客拾って行ったわよー」
「おアツイ感じだったわよねー」
「アタシたちのアイドルもついに食われちゃうのね！泣けちゃうわ！」
そう言いあってまた笑う。でも新たなる通りすがりが現れるとたちどころに上玉風を吹かせて男を誘い出すのに余念はなかった。「……ヴィゴ」
「伝言を頼まれたわ」
「……えーと」
「ルーシーって呼んでって言ったでしょ。ヴィゴならショーンと行っちゃったわよ」
「……ショーン？」
まさか？男と？という疑問も露な顔でオーランドは問い返す。
この通りは、男がその道の女や男を買うところであって、その逆はない。でもヴィゴは本職じゃないから、適当な時間にオーランドが迎えに来ることになっていて。
「ここらのオンナたちの隠れたアイドルってとこね」
「そいつとなんでヴィゴが！」
女性願望が強いこのゲイの友人が、ヴィゴが街角に立つにあたっての指導をしていたのはオーランドも知っていた。だから『』も伝言を託したのだろう。現在は引退しているが、まだこの辺に知り合いも多いのだった。「ヴィゴのことをちらちら見てたのは知ってたけどね、まさか本当にあの初心そうな人が街娼に声をかける度胸があったとは驚きだったわ」
「そうじゃなくて！」
いつまでも商売のためのストリートにいては邪魔になる。自称ルーシーはオーランドを上手く誘導して歩き出した。
「いい年の人間２人が夜の街に消えてったら目的はひとつでしょう」
何ヤボなこと言ってるの、とたしなめられてもオーランドは収まらなかった。
「だって……」
「『無駄足踏ませて悪かった。今日は先に帰るから。明日以降のことについては、また連絡する』って。まーさーかヴィゴもだなんてねぇ。縁なんて分からないものねぇ」
縁の不思議さについて自称ルーシーはつくづくと感嘆していた。「だって……相手も男だろ！」
「ふふふ、映画みたいね♪」
オーランドの超失礼な発言はスルーされた。
「だからどーして！？」
「恋なんてそんなもんでしょ？いいわねぇ、若い人は」
自称ルーシーはホホホホホ、と品よく笑った。
「ヴィーゴー！」
「うるさいわよオーリ。さっ、今日は飲みましょ！つきあうわよ」
「……うそだぁ……」
「しつこいってば！」
オーランド君いとあはれ。