「……あ、れ……？」
目が覚めたということは、眠っていたということで、アラゴルンは自分の視界が見馴れた天井であることをいぶかしんだ。
「目が覚めたか」
ぎし、っと寝台に重みがかかった。ボロミアだった。
「ボロミア……わたしは……」
確か、子供たちとかくれんぼをしていて、最後の鬼はボロミアで、仕事ではないのだからいいだろうと玉座の間に入って隠れて……そして、それから？
「かくれんぼは終わった。あなたはよく寝ていたら私がここに運んだんだ」
理解できたか？とアラゴルンを覗き込んで、そのままボロミアはアラゴルンにくちづけた。
「ああ、待っている間、ちょっとだけ目をつむろうと思って……そのまま寝てしまったのか」
「そのようだな」
口にはしなかったがボロミアが連れてきたアラゴルンを見て誰もが、よほど疲れているのだなと思ったものだった。なんにでも全力であたるアラゴルンは、仕事に子供にと、加減するということを知らずにあたる。それがボロミアたちには心配なわけで。「子供たちはもう休んだ」
「そうか……」
「ずいぶん遊んだからな。はやくからもう舟を漕いでいたぞ」
「悪いことをしたな……」
「なんの。珍しいあなたの寝顔が見れて楽しそうだったぞ」
枕元には、その子供たちからの差し入れらしきものがあった。
「この花はアルウェンとルシアンから。こちらの飲み物はエルダリオンからだ」
そう聞かされて、アラゴルンの顔が輝いた。起き上がり、ボロミアが杯に注いだそれを、美味しそうにあおった。
「ああ……うまい」
「だろう？滋養強壮にいいそうだ。アセラス入りだとか」
「ああ、それでこんなに甘いのにすっきりとしているのか」
いいな、これ、みなにも分けられないかな、などとすぐに考えてしまうアラゴルンだった。「腹は減っていないか？軽いものならすぐに用意出来るが」
「すいた、食べたい」
アラゴルンはにこにこしながらボロミアの甲斐甲斐しい給仕をうけていた。
「ボロミアは気が利くな」
幸せそうに、パンやスープを口に運んだ。
「うん、うまい」
「それはよかった」
ほらついているぞと、アラゴルンの口元についたパンくずを取ってやったりしながら。ボロミアは世話焼きだから、身内や国の面倒を見るのが好きなのだだった。伴侶にして女王なアラゴルンなど、その筆頭だった。
「それからこれを」
「すごいな、どこで見つけたんだ？」
ボロミアが差し出したそれは、高所にのみ実る果物だった。この時期らしく汁気の多そうなそれはみずみずしく、歯を立てないではいられないようなつやを放っていた。「かくれんぼあのときにちょっとな」
あとは秘密だ、とボロミアは笑った。アラゴルンは、受け取るとすぐに、嬉しそうにかぶりついた。ボロミアもそれにならった。
「これもうまいな」
「そうだろう。昔からの秘密なんだ」
「子供の頃の？」
「そう、子供の頃の」
ボロミアが、重々しくうなずいた。
「それならファラミアも知っているのか？」
「ああ、２人で遊んでいるときに見つけたものだ」
「そうか……ではいずれ、子供たちに伝えてくれるか？ファラミアの許可が下りたら」
「そうだな、秘伝も誰かに伝えなければな」
笑ってボロミアは言った。そのまま果物の汁まみれの手をふいて、アラゴルンの肩を抱き寄せた。「どうだ、休暇は？」
「うん、楽しいな」
アラゴルンも、引き寄せられるままにボロミアによりそった。そうされても、ボロミアの頑丈な身体はびくともしなかった。その頼もしさを、今は１人で楽しみながら、アラゴルンはうっとりと言った。
「すごいな、ボロミアは」
「うん？」
アラゴルンは、上を向いてボロミアにくちづけた。
「どうして分かるんだ？わたしが、こうされたがっているということを」
「それはやはり……勘かな」
「すごいな、ボロミア…は……」
「眠るか、アラゴルン？」
「ああ。食べたらなんだかまた眠気が……」
休暇のはじめと言うか、仕事期の終わりにアルウェンの看病があったので、さしものアラゴルンも寝不足のようだった。「このまま眠るといい」
「でもボロミアが……」
「あなたの寝顔を眺めながら、私も休むから」
「……そ……し…て、くれ……」
アラゴルンの言葉は、だんだんとむにゃむにゃしたものになっていった。
ボロミアはずりずりと力の抜けていくアラゴルンをささえ、横にしてやった。そして、寝入ったアラゴルンの額にくちづけた。
「おやすみ、アラゴルン」
アラゴルンがむにゃむにゃと返事をした。
その言葉はいつもの就寝の挨拶のようではなく、ボロミアへの率直な気持ちを述べているように聞こえた。
だからボロミアは、夜食を片付けながら、人知れず頬を赤らめていたのだった。
夜は夫婦の時間♪
お疲れのようで、色っぽい展開にまでは
なってくれませんでしたけど（笑）。