「あ……っ」
　例によって乗っかって、その前にもさんざんに、イアンの服を歯やくちびるで剥いて、そのままイアンの肌に噛み付いてくちづけて、舐めて捏ねて、さんざんにじらして育て上げたものを、またいで導いて、自分で存分に準備しておいた場所にあてがって、それから挿入のタイミングも全部自分の好みの速度にして、これで満足していないとしたらたいした欲張りだった。もっともそれこそが『キング』というものだったが。
「ど…だい？身体は…へ、いき……？」
　なにしろつい一昨日まではベッドの住人だったのだ。それが昨日一日はどうにか我慢していたみたいだったのが、今日になって耐え切れなくなったらしく、イアンを押し倒してきた。そろそろ調子を崩す頃だろうと開けておいたキングのスケジュールにあわせて、イアンも仕事の予定を入れないようにしていたから、キングの目の前に『さあ食べちゃってください、貴方のお好きなように』とリボンをかけたような状態でイアンがうろうろしているから、それがキングの理論武装だった。
　屋敷の奥の、落ち着いた一翼、そのさらに奥にあるキングの寝室にも大きな大きなベッドがあるというのに、今日はイアンのベッドまでやってきていた。この部屋はイアンの部屋なのでどこもかしこもイアンの匂いがしていて好きなのだそうだった。

「だめでもへいき……あ……イア、ンがいっぱい、あぁっ……」
　イアとするセックスで、、キライなことなんてないよ、と言い張るキングだったが、それには括弧書きで厳然と『自分主導でなら』という但し書きが入る。まあそれは瑣末なことにすぎなくて、キングの望みが叶うことがイアンの望みでもあったし、キングとのセックスの主導権がどこにあるかもささいなことだった。こうして、元気になったキングをすることが出来ることに比べれば。
「ダメでも、ってなんだいそりゃ」
　調子が悪いんなら、やめるよ、とイアンがあお向けられた状態から、上体を起こそうとすると。
「ダメ！」
　それだけはダメ！お願い止めて、止めないで、大丈夫だから平気だから、と泣かれてもイアンのほうも困ってしまうわけで。第一自分との房事でキングに何かあったとなったら、仲間たちに殺される。少なくとも、時ならぬブラッディカーニバル間違いなしだ。何しろみんな、自分のこともボスのリーダーのと立てて親しんではくれているが、何より大事なのはこのキングなのだから。
（うーん、ちょっとイタイ……）
　泣き出してしまったキングは、それでもイアンを逃すまいと両足でイアンをはさんでいるし、きゅうきゅうとひっついて、しかも泣いていて逃がすまいとしているものだから。

「キングあのね……すまないけどもうちょっとゆるめてくれるかな？」
　イアンがおずおずとそう言うと、キングは泣くのをいったん棚上げにした。
「あ、ごめん！」
　ぱっと顔を上げると、嘘泣きではなかった証拠に、キングの目と頬はちゃんと涙でぬれていた。擦っていた手にもきっと、涙はついているのだろう。その手は今、ベッドにつかれてゆっくりと深呼吸して腹の力を抜こうとしているキングの手助けをしていた。
「ど……？」
「イイね」
　実はまだちょっと、痛くはあったのだが、イアンはウィンクしてそう言った。たちまちキングが笑った。
「ごめ……俺もちょっと、いた、い……かも？」
　でも止めるとか言うのはなし！これ１回にするからあと大人しくしているから！！とキングは必死に言い募った。
「了解……今日のところは１回にしておこう、……病み上がりなんだから」
「ただの風邪だよ？」
「ただの風邪でも」
　そのただの風邪がクセモノなのだ。キングは昔から風邪に弱かった。まず喉の痛みからはじまって、鼻水せきのフルコースだ。間にもちろん熱も出る。季節真っ只中よりも、変わり目に弱いようなので、まわりも本人も気をつけていた。それでも引いてしまうのが風邪というものなのだったが。

「起きるよ」
「え？」
　キングを脅かさないようにそっと、イアンは振動を与えないように身を起こし、それでもちょっと響いてしまったようで、また涙目になったキングを抱きしめてキスをした。
「これで抱きしめられる」
「いたいのやだ……」
「もうしないから」
「こわいのもやだ……」
「あとは好きにしていいから。こうして、抱きしめられていればいいから」
「ん……」
　何しろ初体験が暴漢による強姦の輪姦だったものだからなのか、それとももとからの性格だからなのか、キングのセックスの趣味は少し変わっていて、それを言うならそもそも、自分を相手にしようというところが、すでにちょっとどうしようもないほど変わっているのではないか、とイアンは思うのだった。自分にとっては、有難いなどというものではないけれど。

「動きづらい……」
　イアンに抱きしめられながら動くのはさすがに不自由だったらしく、キングが抗議してきた。
「そのほうがゆっくり楽しめるだろう？」
　頬にキスすると、そんなもんかな、と顔をに書いたような顔をして、それでもキングは自説をひっこめた。
「じゃあそれでもいいから、もっと大きくして、イアン」
「はいはい」
「返事はひとつ」
「はーい」
　伸ばさない！とか言われる前にイアンはキングの口を塞いだ。ぎゅうぎゅう抱きしめて、キングを味わって、キングの匂いを嗅いで、キングの肌に触れて、キングのすべてを感じて。
　そうすれば大きくなる。風船のように、とはいかないけれど。
「あ……あっ……っ」
　かくかくと動かす腰のせいで、キスしていたくちびるはすぐに離れてしまった。それでもくちびるを舐めたり、触れ合った瞬間に音をさせたりはしていたが、そのうちにキングの意識は下肢の一点に集中して行った。

「ね……つか…った……？」
「使う？」
「あれ……つか、ったぁ…あ…？」
「あああれね。……使うわけがない。あれは、老後のために取っておいてあるんだから」
　座ったまま抱えたまま、勢いをつけて突き上げるとキングは抱きしめた腕の中で捕まえたばかりの魚のように跳ねた。その喉元に頭を置いて、思い切り背骨を締め上げる。そうするとますますたまらないようで、キングは息だけで喘ぐことを続けた。
「それに当分、必要ないだろう？あんな……あやしげなもの」
「でも…っ…ああ、イアン……」
　もっといっぱいにして、もっとついてと、キングは目に涙を浮かべながら訴えた。そう言われなくとも、イアンはそのつもりだった。キングをもっといっぱいに満たし、そしてゆさぶり、欲しいというなら何を使おうとも。
「みんなの気づかいは嬉しいけれどもね……」
　その昔、キングにねだられて寝床を共にすることになったときに、キング大事の連中は実に見事にお節介を焼いてくれたものだった。男同士の房事について調べてくれたり、その時に使用すべき塗り薬を手配してくれたり、あまつさえ。

「だからって催淫剤はいきすぎだと思うんだがな……どう思う？キング？」
「あ、……あっあ……イイ……っ」
「いい？まだ、これでもいい、かな？これで、ナマで……」
「イア……ン、……アン、かん、で……ねがっ……かんでぇ……」
　望みどおりイアンは、目の前でふるふるとゆれている喉を食み、それから喉をくすぐるように下り摘み取られるのを待っている果実のようにつきだした乳首をかるく噛んだ。
「も……っとつよ……くぅ……」
　とにかくもう、ひっきりなしにキングは下半身を動かして、それでいて終わるのは嫌なようで、何しろ１回だけだと言ってしまってあるので、それならせめてと、その１回を少しでも長引かせようと必死だった。それなら、と思わないでもないイアンだったが、ここでもし続けてしまってそれでまたキングが寝込むなどということになったら、仲間たちにどうされるか分からないという恐怖がそれを押し止めた。
（地下牢くらいにはいれられるかもしれないな……）
　舌はキングの果実を舐めねぶりながら、一方の手指は背筋を下りて結合部までをなぞり、もう一方の手ではキングの後ろ髪を首後と掴み。

「ひ……うぁ……あっ、あ……んん……」
　もっと、もう少し、と思ってしまうのは、何もキングだけのことではなくて。
「あ……イアン……イ、アン……っ」
　背中に立てられた、キングの爪に甘やかな痛みを感じつつ。
「ダメ……も……ダ、メ…ぇ…」
　駄目になんてなっているのは、もうとうに。
「イ…アン……ああ、すご……あ、…す…き………」
　それこそ、これがおまえの守るべき存在生きる意味なんだよと引き合わされたあの日からずっと。
「愛してるよ、キング……」
「イ、ァアン……イア、ンぁ……」
　次代の当主のためにだけ集められ生き延びた彼らに。
「イアン……」
　ふと動きを止めてイアンを見る、キングのその、涙で潤んだ眼差しこそが。
　生きる意味だった、生きている証だった。
「愛してる――――」
　ほかにためしたいことなどないのだから、何も。

　

　

　

えーと何かあったよな。キングの家のシステムに近い物が。
眉間に皺寄せて考えました。
分かったぁ！守護聖さまだ！！
どっかにあったよなこんな感じーと思ったんですわ。
先代が自分の跡を継ぐべき次代を見つけてきて育成するの。
守護聖さまたちよりも、育成機関は長かろうと思いますが。
だからキングの先代もイアンたちの先代も、血のつながりはないのが大多数で。

キングの家は金持ちそうだけど何をして金持ちなのかというと
ヤバめのことをしていたり、スレスレのことをしていたりと
色々であろうかと。どちらかというと、秘密結社めいた感じの
ごくこじんまりした感じかな〜と思って書いているのですが
この調子で行くとそれが出てくることはあるのだろうか？（汗）
と思ったので、ここに書いてしまいました。本当ならそういうことは
作品の中で語りたいものなのですが。己の修行不足ですお恥ずかしい。

モドル＞＞