「そっちはどう？」
「あとこれ刻んだら終わりー」
「じゃあもう生地焼くね。トッピングは何にする？」
「トマトとマッシュルームは基本だろー。えーとピーマンとベーコンも欲しいしー、コーンとー」
「……自分で冷蔵庫から出してね、オーリ」
「オーケー。ルッコラも入れようか、ヘンリー？庭にあっただろ？」
「ああ、今ちょうどいいかも、取って来てくれる？ソースとペースト塗っておくから」
「はいよー」ちーん♪
「……ねえ。今頃あの２人どうしてるかな？」
「さあねえ、多分いちゃいちゃしてるんじゃない？」
「……そんな身も蓋もナイ」
「もう知らないよ。好きにしてもらうしかないじゃない？彼の人生なんだし」
「まあねー」
「だいたい、帰ったら置手紙なんて、これが初めてじゃないもの」
「……苦労するねぇ、ヘンリー」
「……いまさらだよ？オーリ」
びー、びー、びー。
チャイムの音なんでいうのは間抜けか色気もそっけもないと相場が決まっている。
もちろんこのホテルも例外ではない。
面倒くさいので服はあれきり着ていない。でもさすがに、裸でドアを開けるのはちょっと。通行人がいてもちょっと。
なので大急ぎでシーツをひっぺがしてまきつけた。……映画でよくこんなことしてる女の人がいるよな、そういえば。そう思うとおかしくて、胸高にぐるぐるにしてみた。ショーンは驚いてくれるかな？と。
ヴィゴがロンドンにいると分かるやいなや電話を切ったショーンだったが、相手が現在どこに投宿しているか知らないことに気づくのには少々時間がかかった。何しろほとんど仕度をして、夜来てもらっているシッターに出かける旨伝えて、財布を持って玄関をとびでようとノブを掴むまで気づかなかったのだから。
じりじりしていると、また電話がかかってきた。実に受話器に手をかけて待っていたショーンはワンコール鳴るのすら待たずにとったものだった。
必ずかかる。またかかってくるはずだと、破れるのではないかというほどにズボンの膝を掴んでいなければ、おそらくロンドン中のホテルに電話をかけてしまいそうだったからだった。
早く来いよ、という、言わずもがなの指令を受けて、ショーンはあたう限りにすっとばしてやってきた。
フロントには人がいなかったのが幸いだった。その剣幕ではとても、おそろしくて「お客様はどちらへ？」とは聞けなかったことだろう。
それでも廊下を歩く時と（走るに近かった、とも言う）呼び鈴を押すときは少しばかり遠慮した。ここはホテルで今は夜中だったからだ。
ブザーを押して、まさか寝ているわけはあるまいと思う時間の、なんと長かったこと！
そして、待望久しいドアが開いて、目の前にヴィゴがいるのを見た瞬間、会ったらああもしようこうもしようと考えていた、すべてのプランは吹っ飛んだ。
「よっ、ショーン」
その声を、電話線によらず聞いた瞬間１歩を踏み出して、きつくきつく抱きしめていたのだから。よしよし、と誉めるように後ろ頭をぽんぽんされるのも構わずに、そのままヴィゴを押し出していった。もう、今すぐにベッドに押し倒して……、と頭の中はそれでいっぱいになってしまった。ヴィゴの肌に触れて、匂いを嗅いで。しかし。
「おいこらちょっと待った」
当のヴィゴに止められた。
密着していた頭を、割り込ませた手でぐいぐいと押しのけられた。
「ヴィゴ？」
恋人の仕打ちに、恨みがましい声になってしまったのはこれはもう致し方なかった。天から降ってきた幸いのような出来事なのに、まったがかかったのだから。
「さっき勝手に電話を切った分際で何をする」
それにまだ、俺は怒ってるんだぞ、とたいそうな格好をして、ヴィゴは仁王立ちになった。その、ショーンにとっては扇情的極まりない立ち姿に、あらためてくらくらした。「……それじゃあ何をすれば機嫌を直してくれるんだい？膝まづいて許しを乞おうか？」
「そーんなんじゃつまらないね♪」
おそらく誰がどう見ても、ヴィゴは最高に楽しそうだった。鼻歌のひとつも出ないのが、かえって不思議なくらいに。
「そうだなー、まずは脱いでもらおうかなー」
「脱ぐ？」
それなら別に、何がどうということもない。いつだって脱いだり脱がせたりしている仲なのだから。と、ショーンが内心首をひねっていると。
「１枚ずつゆっくりね〜」
と言って、ヴィゴはベッドに腰掛けて足など組んでさあ拝見いたしましょう！の体勢になった。
……目の毒なんですけど。とはショーンも言わなかった。かなりの高確率で機嫌を損ねることになるのが読めていたからだった。
意識したら負けなのは分かっていたが、ヴィゴのニヤニヤ笑いを見ていたらそうもいかなかった。急に自分がストルッパーになったような気がした。つとめて考えないようにして、１枚１枚脱いでいった。
まずはジャケット――――脱いだらハンガーを差し出された。
ついでシャツ――――奪われて広げられてもてあそばれてしまった。
それからベルト――――イスの背にかけられた。
次にズボン――――同じく。
これも脱ぐんだろうね？と目で問い掛ければ、そう脱ぐの、と返された。しょうがないのでパンツにも手をかけた。
――――なんだか変な気分だった。こんな風にギャラリーがいる前でわざわざ脱いだことなんか１度もない。そのせいばかりでは、もちろんなかったけれど。ついでに少々反応してしまっているからなおさら決まりが悪かったが、頬の熱いのにも気づいていたが、全部不問にすることにした。見ているのはヴィゴ１人なのだ。その相手がこんなので楽しんでいるというなら耐えてみせよう、と。「――――脱いだよ、ヴィゴ」
さて次は？と問う意味も込めて、パンツ片手に聞いてみた。ヴィゴは、日頃こんな機会のなかなかないショーンの全裸を、ふむふむなるほどとじっくり閲覧していた。やっぱりイイ身体してるなぁ、と思いながら。ちょっとヨダレ。
「じゃあちょっとこっち来て。座って」
自分の隣をわざわざ開けて､ヴィゴはベッドをぽんぽん叩いた。さて今度は、何をやらされることやら。
絶対的に部が悪いことは分かっているから、ショーンは大人しかった。まったくの事実無根のインチキ記事が元とはいえ、それを見て、遠路はるばる来てくれた恋人に見せられる誠意なんてものは高が知れている。持っているすべてであたる以外に方法などないのだ。
シーツぐるぐるの隣に座る真っ裸男。はたから見ることがあれば、かなり珍妙な眺めだろうなぁと。
座ると、何かがぺったりと貼り付けられた。「なんだい？」
挟むところがないので、ヴィゴはその紙片を抑えたままだった。
「チップ」
手のひらサイズの、硬そうな紙を手に取った。――――航空チケットの半券を。
「………、ヴィゴ」
「ん？」
「帰りのチケットをプレゼントしてもいいだろうか？」
「そりゃ早く帰れってコト？」
「ちがっ…！」
「分かってるよ、ありがとうショーン。実はちょっと期待してたから嬉しいよ」
半券を握りしめているショーンの首に腕を回して、ヴィゴは頬にキスした。「じゃあ次はだな……」
「まだやるのか……？」
「当然だろ！今日は『ショッキングな記事を見せ付けられて傷心の恋人を慰める夕べ』なんだからな！」
「……一応わたしのせいではないんだが……」
「まあそうカタいこと言うな！こっちはともかくな！」
「どこ握るんだ急に！」
「そんなこと言うと２度と握ってやらないぞ♪さぁてじゃあ次は……」
「はいはい、どうぞ……」
あれ？
入れようと思ってたのに、とうとう入りませんでした。
こないだまでいたエロ神さまは週末なのでお出かけかな？（笑）隠しを探してくれたすべての方に捧ぐ（笑）。
満足いくかどうかはおいといて♪（笑）