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「ヴィゴ……どこへ行くつもりだい？」
上着を持って車のキーを持って、財布を持ってさあ出かけよう、という段になって、ショーンはやいそう控えめにそう言ってみた。
もちろんそう聞かれたヴィゴはきょとんとした顔で見つめ返す。
「どこって……、買い物に出かけるんじゃなかったのか？食料の買い出しに」
撮影中は外食が多くとも、いつもそれでは身体を保てない。なるべく自炊するようにはしているが、それもオフの日でもないとままならない。
幸い、レンタハウスについている冷蔵庫はどこも大きなものだったから、車で買いに出て、たんまり買い込むのが常だった。
今日も、そういった日のひとつで、昨夜から今に至るまでにかけてでめぼしい食料は食い尽くしてしまったので、ブランチというのも……という時間に本日最初の食事は済ませた、夜と、それ以降の食材を、どうしてもそろえる必要があった。
それの何がどうなのか、心底不思議そうに聞いたわけだが。
「いや！買い物なのは分かってるよ、一緒に行こうっていうんだからね。……でも、まさかその格好で行くつもりじゃないだろうね？」
ヴィゴはさらに不思議そうな顔をして自分の格好を見下ろした。「……ダメなのか？」
何がいけないのか、本気で分かっていない声だった。
それが分かってしまうのもまたつらいことだと、ショーンも経験上よく知っていた。
ヴィゴ・モーテンセンとつきあっていれば、こんなことはしょっちゅうだった。
「……ヴィーゴ、それはパジャマじゃないのかい？」
しかもわたしの。という続く言葉は飲み込まれた。
現在のヴィゴの格好。ショ―ンのパジャマのシャツ＋イエローオーカーのチノパン。
そしてそのパジャマは青白ストライプにサッカーボールが散乱しているという、サッカーファンならではのものだった。
４０代男性としていささかファンシー路線なのでは？という気がしないでもないシロモノなのは、もらいものだからだった。
ショーンのサッカー好きは、ファンならずともつとに有名なことなので、誕生日のプレゼントにとファンから送られたものだった。
あまり他所では見ないところをみると、もしかしてそのファンの手作りなのかもしれないというシロモノだった。昨夜はヴィゴがショーンのレンタハウスに泊まり、バスルームを使ったので着替える必要があって、ショーンのパジャマを借りて着替えたのだが何故かその後の寝るときには裸になっていたりもしたのだが、問題のパジャマはほったらかされたままになり、今日になってヴィゴはそれを着替えよろしくずっと着ていたのだった。
寒くないから、という卓抜した理由で上しか着ていない状態で家の中をうろうろし、食事をし、貸した本人をいろいろな窮地に陥らせていたりもしたが、さて出かけようか、という段になってはじめて、ヴィゴはその格好にズボンをはく、という行動に出たのだった。
「パジャマだけど？」
それが何か？という意思表示の為に小首を傾げられて平静でいられる者は少ない。特にヴィゴを知れば知るほど。
このときのショーンもまさにそんな状態だった。
しかし、伊達や酔狂でつきあってきたわけではない。それなりに経験も積んでいた。故に立て直しも若干早かった。
「……パジャマは外出には不向きだと思うんだけどね」
だから着替えて欲しいという意味を、出来る限り込めてみるショーンだった。「別に汚しても破けてもないよ」
ヴィゴにとっての外出時のあるべき衣服の条件とは、目立つほどに汚れていないこと、見苦しいほど破損していないこと、胴体部分と足の露出は避ける、以上３点までだった。もちろんこれは、無自覚な本人に代わって、外付け仕様の良識・常識管理者の努力のたまものだった。
「でもそれは外出着ではないだろう？」
「そんなこと言ったら『外出着』ってのはジャケットだけになるぜ」
「きみにいつもジャケットを着ろなんて無茶をいうつもりはないよ。……ただ、パジャマを着て買い物に行くのは……」
やめにしてほしいんだ、とはっきり言えないところが、ショーンのショーンたる所以だった。
「じゃあ脱ごうか？」
ちなみに下には肌着すら着ていないのはショーンも知っていた。
「そうじゃなくて！なにかわたしのものを貸すから……」
昨夜着ていたものは洗濯中でまだ乾いていないから、普通なら、そうなるところだった。普通なら。「かわいいショーン」
ヴィゴはボタンにかけていた手を止めて、ショーンの首に腕を回して頬にキスした。
「人がなに着てたって、まわりは結構気にしたりしないもんだよ」
そう言って、くちびるにもキスを。軽く。
「それにこのシャツ気に入ったんだ」
だからそれはシャツはシャツでもパジャマ……、というショーンの言葉はキスで封じ込められた。
以来めっきりそのサッカーボール模様のパジャマが気に入って、来るたびに借りていたヴィゴが、いつの間にかそれを、持っていってしまったと気づいた時にも何も言えなかったように。
某月某日某英国俳優。
「……だからそれはパジャマだって、ヴィゴ……」某月某日某ファン。
「……これってもしかして……」
ロードショー６月号の写真を見て（笑）。
相変わらずかわええのぉ、と目を細めて見ていたら
どうもシャツの柄が面白い。
なんとストライプ＋サッカーボール模様ときたもんだ！
しかも襟の縁取りを見ていると、なんかどーもパジャマっぽい。
……まさかね？
と思いつつも消せないギワク（笑）。
そして、サッカーと言えば誰かさんでしょう？（笑）