Just a Dream
長引かなくても深刻な問題な時もある。しかも今回は長いことが分かっている。
それなりのおつきあいの人がいればまだしも、いないとどうするかは個人の裁量だ。
もちろん身持ち固く持している者もいる。特にキャストの場合、どんなスキャンダルにつながるか分からないのだ。うっかりファンとそんなことになったら……じっくり考えたくもないことだった。
「……ここだけの話どーしてるの？」
「ナニが」
「とぼけるなよー、セックスだよー」
「俺ぁおまえほど若くたぎってないからな」
「嘘つけー。それに俺だって昔ほどガツガツしてないもーん」
「昔、ね」
それは２０代のオーリにとって１０代の頃は立派な『昔』だろう。しかし当年とってその倍近くを生きている者にとってその発言は、悪いとは思いながらも失笑の対象にしかならない。そしてこんなビロウな話は、もちろん酒でも入ったときにしか出来ない。
「昔でも今でもいいからさー。ねぇーどうしてんのー？」
「どうもしてないよ。……そういえばこないだしたのっていつだろう……」
ホンキで考えてしまった。
確かにずっともうしなくていいというほどキヨラカではないし、かといってそのためにガールフレンドを作ろうとも思わない。それこそオーリではないがそれはもう『昔』のことだ。身持ちというのは、世間と息子に恥じない程度には良くしておいたほうがいい。「うわっ、信じられない！その年でもう枯れちゃってるわけ！？」
「……まあ別に、しなくたって死ぬわけじゃなし……」
「まさか、アイのないセックスはとか言うつもりじゃないよね？」
レンタハウスでの飲み会で、もうかなり進んだ酒のままに皆あちこちでごろごろしていて、人の話なんて聞いちゃいないだろうにオーリはさらに声をひそめた。
「ナイよ。そりゃ好き好きだろ」
「俺きっとこの映画が公開されたら人気が出ると思うのヨ。顔はいいしレゴラスはカッコいいし」
「そうだな」
しょってるとは思わなかった。自分のセールスポイントを正確に掴んでいなければ、この業界は渡っていけない。確かにこの若さとこのマスクと『レゴラス』役ということで、オーリはイライジャに続いて若手スターとして認知される存在になるだろう。
「だからあんまり不行跡は残したくないんだよね」
「賢明だな」
「でしょでしょ？だから困ってんのさ。うっかりガールハントも出来やしない。ヴィゴ俺としない？」
「嫌だ」
「……そんなはっきりしかもあっという間に……。１０秒くらいは考えてよ」
「やなこった」
酒は美味いし酔ってもいるんだが、この日は妙に頭がクリアでしようがなかった。面子にショーンがいるせいだろうか？
うっかりしたことをしたり言ったりしないようにという用心なのか？「手近で間に合わそうとすんな。しかも俺はおまえの枕友達になる気もゲイになる予定もないぞ」
「あんたそんな畳み掛けるように……」
「こういうことははっきりさせたほうがいいんだ。希望をもたせない方が親切なこともある」
「……親切すぎて涙が出そう……」
「おう。感動して泣いてもいいぞ。自分の下半身の面倒は自分で見ろ」
こちとら自分のことで忙しいんだ。
「おーい、ドムビリが寝ちゃったよ。そろそろお開きかな？」
「なにぃ？だらしないなぁ。毛布持ってくるよ」
また残っちゃったな、とショーンはアイコンタクトしてきた。よく飲むやつと、さほど飲まないやつ。残るのはたいていそんなメンバーばかりだった。
「オーリと何話してたんだい？」
レンタハウスが近いから、帰りは自然一緒になる。ぶらぶらと、酔いを醒ましながら歩くには、ちょうどいい距離だった。
その発想に、年を感じたりもするんだが。
酔いを醒まそうなんて考えは若い頃にはないものだったからだ。
「おや、気になる？」
わざと冗談めかして聞くと。
「オーリが膝を抱えていただろう？あれは悩みごと相談のしるしだからね」
という大変洞察力に優れた答えが返ってきた。
「ああ、若者のセックスライフについてちょっと」
隠してもしようがないのであっさりと。本当に隠しておきたいことがあるんなら、そうでない部分はオープンにしておくにしくはない。
「……そりゃあ重大な問題だ」
「あんたも相談に乗ってやってくれよ、イギリス組。お国柄ってのもあるだろう？」
「基本的にはそんなに変わらないよ。若者は固定観念を嫌うし、年配者は保守的だし……」
「いずこも同じか」
通いなれた道だから迷わず歩けるが、本当なら夜歩く為には出来ていない道だ。街灯と街灯の間は、本当に暗い。
「それで君は？」
「は？」
正真正銘虚を突かれた。なんのことだか、分からなかった。「夢見が悪いって言ってただろう？まだそうなのかい？」
「……まあ、ね」
「それで相変わらず内容はわからないのかい？」
「そう。悪夢だってのは分かるんだがな」
以前にも、そう言った。あからさますぎるほど、よく眠れていない顔をしていた頃には。
「……そりゃあ困ったな」
「もう慣れたよ。これで俺もなかなかナイーブだってことなんだろう」
「悪夢に慣れないでくれよ」
「でも現実になっても困るだろう？」
「違いない」
そう言って笑いあった。
困るよなぁ、やっぱり。
「なあ、ショーン」
「なんだい？」
「俺とセックスしてみないか？」
「………降参だ、ヴィゴ。それのどこにジョークが潜んでるのか分からない」
ずいぶんだんまりが続いて、その間中まじましと見られるのにずっと耐えていた。
バカなことを言ってしまったが、撒いた水はもう元には戻らない。
これくらいなら大丈夫。意気地がひっこんでしまっても、冗談への分岐点はたくさんある。
言葉にして「冗談じゃないよ」というよりも効果があるだろうと判断して、ずっとショーンを見つめていた。
こうしていると、姿勢と、履いているもののせいで、ショーンは少し背が高そうに見えた。
「ヴィゴ？」
「……冗談にした方がいいか？」
相手が、少なくとも仕掛けているんじゃないのなら、こちらも真剣でなければいけないだろう。作戦修正。
「ヴィゴ」
「気持ち悪くなったらすっぱり忘れること、OK？」
ショーンはなんとかうなずいた。真意を知るほうを優先したんだろう。
「夢っていうのはあんたとセックスしてる夢なんだ。これが夢とも思えないほどリアルでね。いや、夢だからなのか？まあそれはどっちでもいいんだけど、はじめのうちはそりゃあおかしくなったのか願望の表れなのかと驚いてたんだけどさ。本当にああなのかな、と思って。――――ここまに嘘偽りなし」
「……それでためしてみたくなった、と？」
「そう。大丈夫か？」
話を続けても？と小首を傾げると、了承の証に軽く手を上げられた。「いきなりだしそんなアナルセックスまでしろとは言わないから、古式ゆかしくかきっこあたりからどうかと……、おいショーン大丈夫か？」
「あ、いや、なつかしめの単語や聞きなれない単語が飛び交ってるもんでつい……」
「オーリとたまったときはどうするのかなんて話したもんだからついなー。悪いな、なるべく黙ってるつもりだったんだけどな−。こんなに何度も見てるのに夢自体に嫌な気持ちはしないってことはもしかしてOKなのかもしれないと思ってさ。あんたのことは好きだし」
「友達に風俗店に誘われるのだってこんなにあっけらかんとはしてなかったよ、ヴィゴ……」
「得がたい初体験だな。で、どうする？忘れる？それともためしてみてくれるか？」
「……今決めないとダメなのか……？」
「うーん。そうだな、出来れば今。でないと気まずかったりくじけたりしそうだからなー」
「君はくじけないんじゃ……？」
「ほらタイミングとか、ノリとかってのがあるじゃないか」
「それはあるだろうね……」
「で、どうする？」
断られたら、酔いつぶして今度チャレンジしてみるか、とちらりと思った。
バスルームでしたほうがいいんじゃないかと言い出したのはヴィゴの方だった。
確かに、居間でやって汚すのもなんなので同意した。いきなり裸のつきあいですかい……、と思わないでもなかったが、断らなかった時点で同罪なのだから。
「あんたの身体見るのはじめてってわけでもないけど」
由緒正しい一人用のバスタブに大の男２人で入ると当たり前だが狭い。
「やっぱり改めて見ると違うね」
楽しげにヴィゴは笑った。あまりにもあっけらかんとした笑顔。
それはいいとして。なんだって自分はここへ来てしまったんだろう？すっぽんぽんというのは、当たり前だが丸腰で、どうにも頼りない。ためしてみたいんだけど、というヴィゴについつきあってしまうほどの感情を持っていたっていうことなんだろうか？
触らないと、何もはじまらないのだろうし、と手が伸びた。……一応今まで同性とこういうことをしたいと思ったことだけはないはずなんだが。恥ずかしいといえば恥ずかしい。それでも、ちょっとばかり好奇心があったのも確かだった。
触れた瞬間、ひゃっという顔をされた。指が冷たかったのかと、あわてて引こうとすると掴まれて止められた。条件反射だったらしい。そしてヴィゴも指を伸ばす。
「あー、脇腹は勘弁してくれ」
「どうして？くすぐったいのか？」
「……そう」
いいことを聞いた、という風に笑う。
「じゃあ奥の手に取っておこう」
先に洗っておくかとシャワーのコックがひねられた。ざっと浴びている、その横顔のラインに目が縫いとめられた。髪を撫でつける、その手つきにも。それを振り払うように、同じように湯を浴びた。こうしていると、単にバスルームをシェアしているだけのような気がしてくる。
さてじゃあはじめるか、という段になって、どうしようもなくなった。
さてどうしようか、そこまでさせてくれるだろうか？
「あー、ショーン。悪いけどソコに座ってくれないかな？」
バスタブの縁を示してみることはみた。
「どうして？」
案の定そう聞かれる。それはそうだ。お世辞にも人に勧められる場所じゃない。
「えーとそのー、お願いだから？ね？」
かわいい子供やきれいなおねえさんにならともかくこんなのに『お願い』されてもどうか、と思ったが、意外にもショーンはなんだかよくわからないけど、とかなんとか呟きながらも座ってくれた。なんて素直なやつなんだ。
「ごめん、ちょっとだけガマンしてくれな？」
そう言って、ショーンが何かを言う間を与えずにソレを口に含んだ。
いや、なんというか。現物を目にしたらどうにもたまらなくなって、夢のはずなのにおかしなことに味まで思い出してしまって、何しろシュミレートは完璧だから。パブロフの犬のように喉が鳴ってしまったもんだから。夢の中と同じように苦い。でも楽しい。
こうしている間にもぴくぴく脈打って、どんどん扱いきれないくらいに大きくなっていって。
手も自然に伸びる。足や腹や、付近をいつも彷徨っていたもんだから。
歯は立てないようにするけれど、掠めるくらいならOKで、ときどき口全体を使って吸うようにしたり、手でしごきながら思い切り舌を出して舐めてみたりと、本物も結構楽しい。
ショーンが抑えようもなく呻いているのを聞くのも楽しい。夢のショーンと違って、卑猥な言葉を言うわけじゃないけど、それもかわいい。
感じているのが丸分かりで、しかもその感覚を与えているのが自分だと思うと誇らしくすらある。こっちまでそれで昂ぶってくるほどに。
どんどん熱く固くなってきたところで、またにじんできたものをゆっくりと舐めとった。ふさぐように音を立ててキスもした。
ああ、ダメだもうくらくらする。シュミレートが出来すぎてる。出来るわけないのに、今すぐこれを挿れたくなってきちまった。
せめてもと、思い切り頬張った。吐き気スレスレまで喉の奥に突っ込んで、多分ショーンは本当に挿れてるのの次くらいには感じてるはずだ。その代わりになるようにと口の中で存分に締め付けた。口の中だって充分に熱くて湿っているはずだから、結構にコレは効くはずだった。「ショーン？」
出されたものを、正直言うと腹がちょっと心配だったがわざと全部飲んでやった。ショーンの顔を見つめながら。
潤んだ目で見下ろしていたショーンとはバッチリ目が合ったから、これも結構効いているはずだ。
「……な、かなか強烈な体験だったよ、ヴィゴ……」
「そんなヴァージン奪われたような顔するなよ。犯したくなったらどうするんだ？」
正確には犯されたくてたまらなくなっちまったんだが。
「……それは勘弁してくれ……。ああ、次は君の番だな……」
律儀なショーンが手を伸ばしてくるので。
「じゃあ座るか？こっちに、……そう」
今度はバスタブの中で２本のスプーンのように重なって座った。底にはまださっきのお湯の温かさが残っていた。
後ろから抱え込ませるようにして、手だけを引き取った。顔が見えないほうが、まだしもやりやすいんじゃないだろうかという読みもあったが、この方がアシストしやすいというのが１番の理由だった。
ショーンの手の上から自分の手を重ねて。嫌だとか手を引こうとする素振りを感じないですむように、とっととそこをもませた。自分で導いてるのに、実際に触っているのは違う手だとういうだけで感じ入った。
たちまち息が上がる。
やっぱりあれは願望が見せる夢だったのかな、とちらりと思った。
どっちの指だがよく分からない動きに翻弄されて、だんだん後ろに寄りかかりがちになる。体重をかけないようにと、背中が触れるたびに戻るんだが、何度めかの時には。
「いいから寄りかかって。……かまわないから」
そうかかる声はちょうど、耳の下の方で。すでに熱を持っている首筋にも熱く感じるその声が好きだった。
「あ……？」
目がくらみそうで、息は上がりっぱなしで、手はとっくに止まっているのに、そこの指はまだ動いていた。消去法でいくまでもなく、動かしているのはショーンしかいない。やがてショーンの息が、右肩にかかるようになっていった。唇が押し当てられtることも。吸ってくれてもいいし、噛み付いてくれてもいいのに。だからといって押しつけることは出来ないから、ただその息だけを感じていた。
そのうちに、もっと奥の方が、どうにも我慢できなくなってきた。正直言うと、夢の後はいつも現実がなかなか信じられなくて、独り寝があまりに淋しく思えて、出来るるところまでは自分で夢をなぞっていた。
そうは言っても前を慰めて、後ろに指を突っ込む以上のことは出来なかったが。だから、こうして前をやっていると、自動的に後ろが騒ぎ出す。早く早くと。
いまや用なしになっている手を、もっと奥まで伸ばしていく。どうにも我慢がきかない質になってしまったようだ。なるべくならショーンには知られないように。そっとたどりついた場所に、慣れと濡れた指に助けられて侵入を果たす。案の定そこも何かが来るのを待ちわびていて、自分の指だっていうのに、大歓迎を受けた。
喉が鳴りそうになるほど指を増やして、そして動かした。格好が格好なので、ベッドで丸まっている時ほどには自由に動かせたわけではないが、今は何しろ本物のショーンが手を貸してくれている。これに勝る興奮材料はなかった。
「……っ…」
ショーンの手の動きに合わせて、抉るようにするとたまらなかった。
「は……っあ、…っ…」
男の喘ぎ声なんて、気色悪いだけだろうからと、抑えていたのに限界だった。手で押さえようにもあいていない。
ショーンの息が、耳にもかかった。「ヴィゴ……？」
「も…っと……、言って……」
もっと何か言って。それだけで達きそうになるから。
夢の中のあんたは、そんなにやさしい声は出さなかったから。
「ヴィゴ……！」
きつく、抱き寄せられた。その拍子にナニかが当たった。もしかして。
「ショーン……？」
どうにか振り向いた。そのはずみで唇のわきに触れた。ショーンはすかさず手を伸ばして顔を固定した。そして。
――――キスされた。
したいなぁ、とは思っていたが一応遠慮したんだが。
「ショ…ォン……」
キスの合い間に、なんとかそれだけはささやくことに成功した。どういうつもり？と聞きたくて。まさか、そんな都合のいい展開になるわけないだろうと期待にふくらむ胸と下半身をなだめすかしながら。「……君さえよかったら……」
「ショーン、挿れてもいいか？」
「え？」
ショーンが何か言うより先に。
「コレを、俺ん中に挿れてもイイ？」
そう言って尻を、ふたたび元気になってきたショーンのものに押し付ける。
「……もう少しためしてみてもいいか……？」
お願い、とまた見上げてみる。都合がいいとは思うけれど、いけそうならいくべきだ。何しろ、そうしたくてうずうずしているんだから。
「ヴィゴ……いいのかい？」
「頼んでるのは俺だぜ、ショーン」
ちょん、とためらっている口にキスをした。
「お願い、挿れさせて」
反射的にぎゅっと掴まれて、ちょっとばかり痛かったのは不問にするから。
「い、てててててっ」
「だ、大丈夫かい？」
「大丈夫、痛いだけだから」
それが心配なんだが……。
押し切られたんだか押し切ったんだか。なんとついにフルコースやることになってしまった。……結構なんとかなるもんだ。
しかしもう、ここまでやってしまうともう『お友達』には戻れないわけで……少なくともこっちは。それを補って余りあるほど、たまっていたのか、魅惑的だったのか。
「……やっぱり、夢とは、……違うな……っ」
さんざん慣らしたし塗り物もしたのにと、ヴィゴは少し不満そうだった。それはそうだろう。そう簡単に夢と現実が一緒になってもらっても困る。
「でもいい、…や…できたんだから……」
逆に、お産でもしているのを見守っているような気分だった。
ゆっくりと、角度をかえつつ傷つけないように挿れているのがもどかしい。一気に進めたくなって、そのたびに己を戒める。こんなになって、汗までかきながら受け入れている相手をないがしろにするような真似は出来なかった。……相当つらかったが。「……っ、いっそ、ちょっと…くらい切れた方が…滑りが良くなるのかな……？」
「だとしてもやらないよ」
「……そうだよなー。患部も見えないし」
俺も痛いよりは気持ちいい方がいいし、と言われた。
「てっ、……ちょっと今はコレ以上大きくしないでくれる？」
「……してないつもりだがね」
「うわー、ごりごりする。ああ…じゃあこれ開かれてるだけかぁ…、あーあ、早く慣れたい」
バスルームから離れるのはどうしても嫌だからと、しようがないのでヴィゴには壁に手をついた格好で立ってもらい、後ろからという１番やりやすいとされている格好をしていてもコレだ。さっきから、どれだけ時間をかけていることやら。
「……困ったもんだよなー」
「うん？」
「痛いし、ヘンな感じだし、うっかりするとおえって来そうなのに、ナンか、…おかしい…んだ…よ。……あとどれくらい？」
「もう、少し……」
「あんたさっきからそればっか……」
くすくす笑うと響きあうのはもう何度も体験したのに、それでも止まらないようだった。また呻き合う。「今度こそ本当だよ……」
その証拠を、ヴィゴの尻に押し当てると、感触で分かったらしく。
「ああ、やっとゴールだ……」
「第１関門のね」
「だな……、うん、でも……いいよ、ちょっとこのままいて……くれる？」
「了解」
正直、すぐにもこのぎちぎちに締め付けている場所を切り拓きたくてうずうずしているのを、わざとじらすのも結構楽しかった。確実なおたのしみを取っておくという愉しみ。
「……なんかでも信じられない……」
とろん、とした声だった。まるで寝ぼけている時のような。
「ん？」
「本当にあんたが入ってる……」
顔が。見られないのが残念だった。今のこの顔が、なんとしても見たかった。
くるん、と顔を振り向かされた。その動きでちょっと突き上げられるような格好になって、眉はしかめたけれどそれでなんとかやりすごした。
「どした…？」
ショーンはなんだか妙な顔をしていた。昨夜食べたものが、どうしても思い出せなくて気持ち悪い、みたいな顔。気持ち悪い？
「……やめたくなった……？」
それでもしようがないと思った。ここまでつきあってくれたのだって充分ありがたいんだから気が変わったからといって責められない。
「違う……、そろそろいいかな？」
「ああ、……うん……」
本当言うともっとショーンの形を味わっていたかったけれど、ショーンがそう言うんならしょうがない。及ばずながら協力する。
「――――は、あっ！」
必要はないみたいだった。
ショーンはさっきまでの細心ぶりが嘘のように激しかった。それでいて痛い、とか苦しい、とかはなかったがしかし、振り回されそうで少しこわかった。
痛くもないし苦しくもない。
ただ熱くて、えも言われなくて。
多分これが夢で感じていた『イイ』ってことなんだろうとぼんやりと思う。身体はなにしろ、それどころじゃなかったから。「あ、あ、あ……ん、あ…んっ…あ―――っ！」
それがどうとか考えている余裕はなかった。
「ショ……ン、あ、ショーン……！」
擦られて勢いよく抜き差しまでされるようになって、我が声ながらやかましい！と思うのと同じくらい大きな水音もして。
「ヴィゴ……、あ……、ヴィ…ゴ……っ」
その息で火傷するんじゃないかというほどの熱い息を吹きかけられて。
「や……、もっ…と、……メ、ダメ……あ、あっ……」
夢とどっちがなんて比べられなかった。もうみんな吹き飛んだ。
「駄……目だ、も、う……」
言っていることも支離滅裂になっていても。
「ヤ―――ッ！」
終わらせたくないと思っているのだけは多分２人一緒だった。
「い、や……、もっと……、ショーン、……っと……あ、…あ…っん」
何をどうしているのかも分からずに、洗濯機の中に放り込まれたみたいな気分で。
「ごめ…ん…、も、う……」
「あっ………っ…」
ちゃんとシャワーを浴びなおす気力はなかったから、肩を貸しあうみたいにいｓてバスローブだけを羽織ってバスルームを出た。
多少は体力の残っているショーンが、冷蔵庫からありあうソフトドリンクを持ってきてくれた。なんでもいい、水分、と持ってきてくれた牛乳を、ボトル一気飲みした。
「腹を壊すなよ……」
そう言うショーンはパックのオレンジジュースをまだ持っている。日付的に不安があることは内緒にしておこう。
「はー、生き返った」
「そういや君は飲んでたんだよな……、良かったよ救急車を呼ぶ羽目にならずに済んで」
「ははははは！そりゃ傑作だ！」
今度はミネラルウォーターのボトルに手を伸ばす。うん、やっぱり水のほうが染みる感じがするな。
「ヴィゴ、そこは笑うとこじゃないよ……」
まあいいじゃないか、お互い無事だったんだから。
「もうこんな時間か……結構時間かかったなあ」
時計を見てしみじみ言うと、何故かショーンが赤くなった。変な奴。
「あ、そだ。ありがとな、ショーン」
「……？」
「いや、つきあってくれて。イロイロ大変だったけどすっげえ良かったよ」
ダメモトでお願いした甲斐があった、と言うと、ショーンはますます顔を赤くした。なんだ？いやそれは幸い、とかなんとかもごもご呟いて、それからショーンは立ち上がった。こっちはまだちょっと、立てても立ちたくない気分なのにたいしたもんだ。さすが英国俳優。……関係ないが。
「……じゃ、じゃあそろそろ失礼するよ」
「ゑ？こんな時間に？」
もう真夜中を過ぎている。
「泊まってけよ。明日は休みなんだし」
いやそのちょっと、とかまたもごもご言って、ショーンが歩こうとするもんだから。
「うわっ！っとっと！！」
座ったまま足を掴んだら思い切りたたらを踏んだ。
「危ないじゃないか、ヴィゴ！」
「無理して帰るなよ。足にきてるぞ」
「いやそのあのね」
たたらついでにしゃがみこんでしまったので、目線がまた近くなった。のをいいことにじっと見る。ふんふん、それで？
「帰るなよー、もう１度しようなんてわがまま言わないからさー」
「頼まれたって無理だよ。そうじゃなくて……」
「なに？」「……分かった泊まってく」
「サンキュウ！」
嬉しさの表現として頬にキスしたら飛びずさった。失礼な奴。
「……ヴィゴ、１回やってみて気がすんだんならそういうことは止めにしてくれ」
「えー、気はすんだけどまたしたいなぁ。って、そうかあんたの意見聞いてなかったな。ノリノリだったから大丈夫かと思って。またしないか、ショーン？」
あれ？と思う間もなくショーンが沈んだ。
「おーい、大丈夫かぁ？」
「……大丈夫じゃない。なんだそれは」
「言ったとおりの意味だよ。あんたとするのすごく良かった。だからまたしないか？ってことさ」
「……なんでそうなるんだ……」
「俺に性的魅力ない？そんなことないよなぁ？」
「……ヴィーゴ」「あんたも好きだけど、あんたとするセックスはもっと好き。こんなにいいんなら、夢のお告げにしたがってとっととやってみればよかったなぁ」
「………ただの夢だろう？」
「今はね。なあなあどう？する？するよな？」
「普通そういう時はするかしないかなんじゃ……」
「細かいこと気にするなよ！ショーン！」
「……気にしたいんだがね……。ああ、もう。する、まいったな……本当にまいったよ……」
「なに？あんたも俺の身体のトリコになっちゃった？いいじゃん、お互いそうなんだから」
「なんだってこんなことに……」
「考えても無駄なことは考えないほうがいいよ。なんか食べてから寝ようぜ。俺もう腹ぺこぺこ」
でもなんかあったかなー。
「あああああ……」
まあせいぜい苦悩してなさい。はじめの頃の俺がそうだったように。
じきにそんなこと考えなくしてあげるから。俺が、夢の中のショーンにそうされたみたいに。
大丈夫。絶対に、離しゃしないから、ショーン・ビーン。
何故にポイント。
その１『どーしてこんなに長くなったんだろう？』
その２『ヴィゴの性格はもうちょっとしんみりしてるはずだったのに』
その３『ラストこんなだったのね……（考えてなかった）』
以上３つでございます。
終わらない終わらない。１日かかっちゃったよ（笑）。