KISS.kiss |
「……ヴィゴ……」
「うん？」
「それはちょっと……」
「うん……」
「ずるいんじゃないの、かな？」
「そっか？」
「……さっきわたしがしたときには……」
「……うん」
「手遊びにしてしまった……くせに……」
「うん」
それはそれこれはこれ、とばかりにヴィゴはショーンの手首へのキスをつづけた。
さらにははむ、とばかりにその手首の内側、もしかしたら一番、やわらかくて弱いところじゃないだろうかという場所を、軽く噛んだりもしていたのだった。「どう考えても……フェアじゃない……」
ショーンはついに、額に手を当てた。ミルクを求める赤ん坊もかくやという熱心さで、ちゅうちゅうと吸い付いてヴィゴのくちびると、気まぐれに触れる舌のせいもあった。
「勘弁してくれ、ヴィゴ……」
「もうギブアップ？」
「情けないことにね」
上目づかいでショーンを見る、その目つきにこそ、もしかしたら一番。欲情しているのかもしれなかった。
「そういう時には何か、気を紛らわすことを考えるといいんだぜ」
そんなことを言いながらも、ヴィゴはきざし始めたショーン自身をぱちんと弾いた。
「……そんなこと……知って、る……」
かなり絶望しながらショーンは天を仰いだ。なにしろ、気を紛らわさなければならないときななてのは、掃いて捨てるほどあった。
なにしろ、国をまたいだ遠距離恋愛なのだ。
会えなくて、せめて声だけでも聞きたくて、でも電話を切った瞬間には切なくて、何度キスを贈っただろうか？電波に乗って、この思い届けとばかりに。あまりに子供じみたその真似に、した後には必ず照れて、赤くなりはするけれども。ほんのささいな、細い糸一本のようなつながりで、それでもそれにすがらずにはいられなくて、夜毎日毎会いたくて、他のぬくもりを求めたり、誰にもいてほしくなくて、１人で熱を追い上げたりもして。
気をそらせたりまぎらわせたり、そんなことにはずいぶん長けてしまっていた。それでもこうして近くにいて、触れることが出来て、それでいてヴィゴの手をくちびるを、きっぱり拒むことなど、はじめから無理な相談なのだった。
「知ってる？」
「……なに、が……」
額に当てた手は顔全体に広げられていた。その指の隙間からヴィゴのほうを向いてショーンは尋ねた。今すぐにでも別なところへ、ヴィゴの顔を押し当てたい衝動と、必死で戦いながら。「手首へのキスの意味」
「知って……る、……」
「あらら、知ってたか」
ざーんねんとヴィゴは、本当に残念そうにそう言った。そのまま、ショーンの手を取ったまま、ずり下がった。ショーンはソファに座ったまま、ヴィゴは床にへたり込むようにして。
「ヴィゴ……」
勘弁してくれ、ともう１度言おうとして、ショーンもやっと気がついた。それまでは、自分の熱をどうにか抑えることで精一杯だったのだった。
「……ヴィゴ？」
しゃがみこんだヴィゴが、いつのまにか自分の股間に手をやっていることに。
「ヴィゴ……どうして……」
「欲望のキス……って言っただろ？」
赤らんだ頬、弾んだ息、うるみきった瞳でヴィゴは見上げていた。それを、こらえることなどとても、ショーンには出来そうもなかったのだった。「ヴィゴ……」
へたり込んだヴィゴを掬い上げ、許しを請うことなど考えもせずにショーンはヴィゴにキスをした。
「ん……ん……」
「はっ……ぁ……」
ねっとりとしたキスは、手首にするだけのときよりもより感覚がたかまって、くちびると舌と、口内の粘膜と唾液と、腕と手指と、ふれあう身体と――――手首だけのキスとは、比べものにならなかった。
「ヴィゴ……」
「なに……？」
これ以上続けていたら、くちびるがしびれるか腫れ上がってしまうだろうという寸前で、ようやくくちびるを離した２人だった。
「ここでしても……いい、かな？」
さすがにそれは聞いておきたいと、ショーンはお伺いを立てた。
どうしたって負担が大きいであろうヴィゴだけに、つらい思いをさせるつもりはなかったが。「ベッドへ行くまで待てなんていわれたらこがれ死んじまうよショーン……」
ヴィゴはためらっていたショーンの首に腕を回し、引き寄せながら後ろに倒れこんだ。
「もうダメ、我慢できなぁ…い……」
シテ、今すぐシテ、とおぼつかない調子でくり返し訴えながらヴィゴは、ショーンの首をぎゅうぎゅうと抱きしめた。ちょっと苦しいし、何より動きづらかったがショーンは耐えた。
「ヴィゴ……ここを……さわって……」
そう言ってヴィゴの手にそっと触れ導くと、ヴィゴも大人しく手をはずし従った。
「君のは……私が……」
「ああ……っっ」
ショーンのものはヴィゴが、ヴィゴのものはショーンが手を伸ばした。
だがショーンはさらに、その奥にまで手を伸ばしていった。
「やだ……ちょっともう……はやっ、はや…い……」
「うん、……ヴィゴちょっと……足を抜くから……」「やだ、……あ…っ…あ、……キテ…イ…レテ…ぇ……」
イタクてもいいから、なんだったらローションもスキンもなくていいからなんて、とんでもないことを言うものだからなおさら、ショーンは冷静にことを進めていった。実を言うと、いつどこでこうなってもいいように、ポケットには１回分の用意はしてあるのだった。用意のいい、当時の自分に感謝のキスを贈りたい気分だった。
「い……かな、いく…よ……ヴィゴ…」
それでもかなりそれらの事前準備を簡略化してしまうあたり、ショーンも相当にキている証拠だった。はやく納めないともう、バクハツしてしまいそうで怖かった。なにしろ出来ることならすべて、ヴィゴの中で終わらせたいからだった。せっかく目の前手の届くところに、ＯＫを出している本人がいるのに、電話の向こうにいるときのように、間に合わせで済ませるだなんてとんでもなかった。
「ヴィゴ……」
「あ、ショ…ン……んぁ……ぁ……」
ひとつになったときに悦びを、知っているからにはなおのこと。
それから、二人語がまたひとつ増えたのだった。
「君の、あんたの手首に、キスしたい気分だよ」
と言えば、２人の間ではそういうことだった。電話を切るときの決まり文句として、しばらく流行ったりもした。
「それじゃまた、あんたの手首にキスを」
といった調子で。
Ｗｅｂ拍手ありがとう小話にどうかな〜と思って書き始めたら
ちょっとナニな感じになってきたのでＮＲに変更になりました（笑）。
手首へのキスは欲望を表すそうですが、アラゴルンな格好をしていた頃の藻が
忙しくてなかなかゆっくりデキなくて欲求不満で、休憩中のボロミアの格好をした豆の手首に
がぶがぶがぶがぶ噛み付いて、豆にあきれられつつもほんのり喜ばれ〜
なんてしてたりしたら、それも面白そうかも？