Read a Dream
「……はっ、……あ、あ……っ」
「どうした？もうギブアップ？」
「…や…、めない…で……」
「そうかい？じゃあ……」
声にならなかった。それまでだって、もう。
掴まれた腰が痛いほどに、何度も何度も突き上げられて。
それでいて嬌声もとまらない。たまらなく――――イイからだった。
「ヴィーゴ！おはよう！……ってあらら……」
どしたの？という続くはずだった言葉は、その表情で聞いてきた。
「おはよう、オーリ。……やっぱりそんなにひどいか？」
歩きながら並んで挨拶を返す。言われて目元に手をやった。
「うーん、俺には分かるけど……。ってことはエリーにも分かっちゃうと思うなぁ……」
どしたの？寝不足？また役の解釈に熱中しすぎたの？と。
「ハードな旅の途中だから、血色がいい方が変とはいえなぁ、これはまずいよな……」
腕のいいメイクは、これくらいの目の下のくすみくらい上手く隠してしまうだろうけれど、『アラゴルン』になることに心血を注いでいる身としては不覚としか言いようがなかった。
「根つめすぎとか？ちゃんと息抜きしてる、ヴィゴ？」
背にかるくかけているだけのリュックから、キャンディを取り出して差し出された。元気の出る魔法のキャンディ♪と言われて。
「してるさ。……なんならもうすこししようか？」
ありがたくそれを口にして、目が覚めるようなハッカ味にオーリを睨んだ。もちろん相手は平気な顔だ。
「……こないだみたいなのは、ホドホドにね。僕のピュアハートが張り裂けちまう！」
「あれしきのことで仮にもエルフが？分かった今度は張り裂けない程度のキュートなジョークを考えるよ」
「『いたずら屋』なんて商売があるとしたら、あんたほどの適任者はいないと思うね、ヴィゴ」
「俺も、そう思うよ」
「もっと……動いて、そう、上手だよ…」
言われるままに、腰を動かした。それを支えている膝が、シーツに擦られすぎて痛いほどに。
「あ、あ…っ…っつ……、たい……あ……」
「痛い？どこが？」
触れているところといえば太腿ばかり。足の下には彼の脇腹を感じ、足の上には彼の手を感じ。自分の手は、その、さらに上に――――。
「…あ、……っざ……、ひ、ざ、ああっ、……う、…ん…ん、や、やめない…で」
涙が止まらない。気紛れに送り込まれる律動に、息も出来ないほど感じさせられて、思いつきで止められる動きに、身も世もないほど狂わされて。
「やめてやしないだろう……？じゃあよりかかるといい。少し楽になるよ」
シーツの擦り合わさる音で、背後で膝が立てられたのが分かった。のけぞると、とん、と当たる。身をそらせると、当たりどころがまた変わり。
「は…あっ…、ああ、……あ、あ……」
少し浮いた膝の分を、掴まれてゆすられた。
「……こんなことにも感じるのかい？……君は本当に感じやすいね」
「……いや…、や、いわ、…ない、で…、あうっ！」
彼によって、滅茶苦茶になっているのは分かっているから。
すっかり受け入れるための器のようになって。
指一本でも思いのままにされていることなどもう。
とっくに分かっているからどうか。
お願いいじわるを言わないで。「……本当のことだろう……？」
立てた膝の奥から。壊されるんじゃないかというほどの熱量が送り込まれる。
舌を噛まないようにするのが精一杯で。頭は何度も振り回された。
「あ……、ひぅ……っ…はっ…」
どこを触られても。痛いくらいに感じてしまうのに。
どこもかしこも触って欲しくて。ねだりそうになる口を必死に押さえて。
「イク……、ダメ、ダ…メ……もう……っ」
「……いいよ、達って」
首を振った。千切れて飛んでも構わない。
「……困った人だ……」
苦笑して、それから手を伸ばされる。涙でばりばりになった頬に触れて、動きは少しゆっくりになった。
まだ。まだ終わりたくなくて。いつかは終わってしまうけれど、それを少しでも先に延ばしたくて。
「…ふ…っ、…くっ…う……ん……」
その手に、自分の手を重ね、腿に置かれた手に指をからめた。
「こうしていると、君が良く見えるね……、とてもきれいだ……」
そんなことはないと、咄嗟に言いそうになった。でもいい。それで彼が愉しんでいれば。
腰はもう馬鹿みたいになっていて。感覚もあるのかないのか分からない。それでも、最後に送られた指令を、いつまでも忠実になぞりつづける。すなわち――――動けと。
「――――寝不足かい？」
大欠伸をした後に、そう声をかけられるのほど間の悪いものはない。
「ああ、まあね……」
欠伸のためにあけた口を、多少は取り繕って、閉じる。ここは食堂で、今は食事中なんだから、食べることに集中せねばならない。
「あんたも今頃食事か？」
トレイを片手に、ここいいかな？と視線で聞いてくる彼に、どうぞ、とジェスチャーで返して。
「いずこも同じだよ」
苦笑しながら向かいの席に座った。その顔を、ついまじまじと見てしまう。昼と夜と、まったく印象の違う顔を。
ウエイトを増やさなくてはならない彼は、どんなに疲れていても食べなくてはならないという使命が課せられている。
厚い衣装に鎖帷子を脱いでも、体型がまるで違うことは知っていた。
「……食べないのかい？」
手の動いていなかったのをいぶかしんで尋ねられた。
内心のあわて具合を悟られないように注意しながらフォークを手に取った。
「いや。あんたの食べっぷりに見とれてた」
「これも仕事のうちだからね」
両手をいささか大仰に広げて見せて笑う。本当に、故国にいた頃のボロミアのように。
冷めかけたポテトを口に放り込む。次はサフランライスを。きちんと計画を練って。でないとこの手を。
どう動かしたらいいのか分からない。
「……く…ふ…んんっ……っ」
ぴちゃ、と。彼はわざと音を立てる。
見なくても分かる。舌をほんの少し出して、彼はそこを熱心にしゃぶっているのだ。
含むときの音を、わざと響かせて。
「あっ……、はっ…」
広げられきった足が少し痛い。
膝頭を掴まれて、思い切り広げられたまま。もうどのくらいこうされているだろう。
抑えようとも思わないが、手を当てたくらいでは止まらない喘ぎがひっきりなしで。
「あっ！あ、ああっ………」
ときどき、かすめるように太腿の内側をなぞられるのがたまらない刺激だった。
ふいにひやりと冷気を感じると、口をそこから離して内股を舐める。必ず、唾液を滴らせるようにして。
その液体の流れる先を、どうしても追ってしまう。道筋のついたそこを、いつまでも意識してしまう。
「……そろそろいいかな？」
ぎし、とベッドをきしませて、彼が身を乗り出してきた。期待にどうしても、胸が震えてしまう。そしてそれは態度に出てしまっているだろう。何故なら隠しきることは出来ないからだ。
ぼんやりと、彼の言葉ごと見上げていると。
「……達ったわけでもないのに心ここにあらずだね」
違う。
心はここにある。
ただ。
あんたを見るのに忙しいだけだよ、ショーン。「そんな顔をされると」
じっと見つめたままでいたら、彼の顔が降りてきた。息がかかるほど近くまで来て。
唇が触れながら囁いた。
「なんだか悪さでもしたような気分になるよ」
来てほしかったから、舌を差し出した。離れかけた彼の唇をひと舐め。でも、そのまま離れてしまった。
「いくよ」
ぼんやりとうなづいた。神経を集中したい。これから入ってくるものに。
両足を使って、その胴を挟み込みたいのにまだ出来ない。動きを妨げてはいけない。
「…はっ………」
ほんの少し含まされただけで、自分の吐く息の色がはっきり変わるのが分かってもまだ。
まだ達してはいけない。何故ならまだ、これからだからだ。
開いて、受け入れて。もう無理だと思うくらいに深く、もっと。
「――――さて、どうして欲しい？」
すっかりおさめてから、彼はそんな風に言って覗き込んできた。その動きも突き上げのように感じて呻く。
動かなくてもいいから、このまましばらくその形を感じていたくて。腰や足は勝手に、いつの間にか動いてしまっているから。
「このまま……しばらく……」
「そう？……張り合いがないね」
息が頬にかかる。高い熱を出した、病人のように体熱が上がる。自分の心臓の音と。中に入っているものの脈打ちリズムと。どちらも鮮明に感じながら。
入れたまま、覆い被さっている彼の方を向いた。腕や頬を、ゆっくりとなぜている手が止まる。
口をほんの少しあけて、見える程度に舌を出す。息だけで囁く。彼の名前を。
ショーン。
ショーン、と。
それが合図のように、唇が塞がれた。息をするのが惜しいほど。
長い長いキスの。
それははじまり。
「――――っは！」
飛び起きて、まず自分が息をしていることを確認した。
次いで心臓が動いていることを。汗がつたうのに気づくのはそれからだ。全身をおおう、イヤな汗。
荒い息が整う頃には、頭を抱える余裕も出てくる。
真っ暗なベッドルームはしんと冷え切っていて。夢の名残りはどこにもない。
急に冷えてきた身体を、寒さばかりではなく抱きしめる。たとえそれがなまなましい感触を呼び起こそうとも。
「夢だ。落ち着けあれは夢なんだ……」
そう思うならどうしてベッドから抜け出せないのか。
残滓にしがみつくようにそこから逃れられないのは何故か。
「ただの夢なんだ……」
答えはもう知っている。
今日の起きしなにふと浮かんだ話。
半分寝とぼけていたからもしかして夢かも？
だから夢つながり？
めずらしく弱っているヴィゴ。
たまにはこんなのもいいでしょ♪