「あのときはホント大変で……少しでも怪我を減らそうと思って、賭けをしたら、なぁ？」
ブラッドは人をそらさない笑顔を浮かべ、新作『トロイ』についての撮影エピソードについて軽妙なトークを繰り広げていた。
「うん、そう。ブラッドは負け続けだったよな？」
それを受けてエリックも、重々しくうなずいた。その言葉に、ギャラリーはわっと沸いた。
ブラッドはハリウッド歴の長い役者だし、エリックだとて国では番組を持っていたコメディアンだ、こういったトーク番組には馴れていた。
ここで言うのが初めてのニュースを織り交ぜつつ、適度に笑わせそれなりに聞かせ、「あの役者いいじゃない？映画、おもしろそう」と
思わせるのが今の仕事なのだ。たとえそれが、ちょっとばかりムカつく相手とでも。
「ずいぶん罰金払ったよな」
「そうそう。稼がせてもらったよ」
「いくら払ったの、ブラッド？」
「オウ！勘弁してくれ！税理士にバレれたら怒られちゃうヨ！」
ブラッドが肩をすくめておどけてみせると、会場はまた笑いが巻き起こった。
（この野郎……）
（立ってるのがつらかったら、よりかかってもいいんだよ、ハニー？）
（だれがハニーかっ！？）
にこやかに撮影中の面白エピソードを披露しながらも水面下ではこんな話をしている２人なのだった。
「……っ……っ」
後ろからなのはともかく、立ったままというのはかなりキツかった。
でも我慢出来なかったのだ。
『トロイ』の宣伝のためのトーク番組出演でアメリカへやってきて、是非来て、と言われたブラッドの隠れ家を訪ねて、
案内された部屋に入った途端に抑制なんてものは弾けとんだ。もう少し、自分は理性的かと思っていたのに……と、
エリックは頭の片隅でちらりと思った。ほんの一瞬だけ。
「ああぁ……っ！」
「エリック……」
ブラッドの突き上げは激しかった。ブラッドの昂ぶりきった熱い息を首筋に感じ、前をまさぐる手にもっとここをというように押しつけ、
閉じていると舌を噛みそうだったのであけたままになっている口からはひっきりなしに喘ぎがもれた。
「ブラッド……ブラッド……あ…ん……」
もがきながらも、エリックは腰を振りつづけた。より感じるように感じさせるようにと。
夢中だった。
「エリック……」
ドアが閉じるのももどかしく抱きあった。
「しばらく……」
「げん……？」
挨拶すらロクに出来なかった。言葉はキスするくちびるに飲み込まれてしまっていた。
コーナーはかわって、ブラッドとエリックは座らされて番組の進行を見つつ話を振られれば答えることになった。
なまじ自分でも番組を持っていたものだから、進行具合や司会の采配についチェックが入ってしまいがちだったが、
反面ゲストとして参加するのは気楽で良かった。ただ問題は。
（この……この馬鹿！）
隣に座るブラッドが、さっきからずーっと膝をまるで、擦りつけるようにぶつけてくることだった。
機会さえあれば手だってぶつけてくる。そして必ず揉むように力を込めるのだ。
（収録中だって、のに……！）
相当気を強くもっていなければ、ふとした拍子にあらぬ声が漏れてしまいそうだった。おととい再会したときにさんざん……して、
さらには昨夜もさんざんなめにあわされた身体はいまだ敏感だった。ちょっとの刺激でも、また火を吹きそうなのに、それどころではない場合なのに、
ブラッドはかえってそれを楽しんでいるようだった。
（こいつ……あとでどうしてやろう、か！）
わははは、と笑いながらもエリックは、奥歯が痛むときのように力を込めていた。でないときっと、テレビ収録中という究極のオープンスペースで、
公序良俗に反するようなことになってしまう。それだけは願い下げだった。たとえ後でまた、
……収録前のようなことをされるとしても。
「ブラ……ちょ……ここテレビ局……」
「知ってる」
そう言いながらブラッドは、機材などがごちゃごちゃ置かれたテレビ局の廊下の、
さらに物影の暗がりでの行為を止めようとはしなかった。こんなところでと嫌がって顔を背けようとするエリックの頬やくちびるを執拗に追いかけて
キスしていたし、足の間に居座り続ける足は小器用にエリックの足や股間を刺激しつづていた。
「だった、ら……いいか」
「エリック、愛してる……」
いやそれは知ってるから！一昨日からずっと、あんたどこにそんな精力かくしていたの！？馬並みってこういうことですかっ！？
というくらいの目に合わされたのだ。朝日が差し初めてきたときにはもうエリックはぐったりとベッドに身を伏せていて、
鳥の鳴き声を遠くからのように聞いていたくらいだった。そうこう言っている間にもブラッドの腿はエリックの股間をぐりんぐりんと
じつにリズミカルにこねくりまわしていたし、大きくて器用な手は片方はエリックの尻を揉み
もう片方はエリックの背中の弱いところを撫でさすっていた。
「ここで、なんて……冗談、じゃっ！」
目を閉じて大きな波をやり過ごしたエリックの頬にキスしながらブラッドは。
「安心して、最後まではしないから」
出来ないし、とブラッドは笑って言った。
ってことは、途中まではするってことかい！口を開けば違う声になりそうで、
エリックは心の中でそう毒づくしかなかったのだった。
エリックがおどけて面白い顔をしてみせると、会場はまた沸いた。
今日この会場に来られたファンはラッキーだろう。番組が好きなのかゲストが目当てなのかは分からないが、
こんなに楽しませてもらえるのだから。
（お見事）
コメディアンの面目躍如だな、とサインを送るブラッドに当然、とばかりにエリックはすました顔をして見せた。
ブラッドはそれをニヤニヤしながら見ていた。司会者はさぞかしやりやすい思いをしているだろう。ちょっとした暴露的なハプニングさえも計略のうちのような、
こんな場持ちのいいセレブは初めてだったに違いなかった。
（以前はもうちょっとこう、スカしてたんだけどね）
そりゃそうだろう、二枚目スター路線を驀進していたんだろうから、とエリックは納得した。
（でもそろそろ、すましかえってるだけじゃ飽きられる頃だろ？）
それももっともな話だった。１８０度のイメージの転換は冒険だったが、キャリアが増すごとにくだけて
面白い味も出るようになったと言わせればしめたものだった。
なにしろこの商売は客商売、客に飽きられたらおしまいなのだから。
「ああ、エリック……」
何がああ、エリック、だ！とエリックは心の中では毒づいた。声に出しては。
「あ…ん、あぁ……ブラ……んぁ……い…く……あ」
くらいしか言えなかった。なにしろブラッドの舌がくちびるが手が指が、存分にエリックの上を這いまわっていたからだった。
「エリック、エリック……」
なんとブラッドは次の晩もエリックの部屋を急襲した。というか、２人一緒のインタビューを終えて食事を済ませてどこまでついてくるのかと思ったら
部屋の中まで来たのだった。そしてバスルームにまでついてきて、さらにはベッドの中にまでついてきた。
「ブラッド？」
まさか、いくらなんでも昨夜の今晩では無理だろう、あれだけやったんだからとエリックは思っていた。
そしてエリックも今日はゆっくり休みたかった。明後日には帰ってしまうから明日の晩にはきっとまた……とは思っていたが、
今日はさすがにおやすみしたかった。しかし、ブラッドは違ったようだった。
「エリック！」
一緒でもいいからとにかく、掛布をかぶってゆっくり寝たいエリックを、ブラッドは無情にもひんむいた。
まずは掛布、それからパジャマ、もちろんパンツを剥くのも忘れずに。
「ブラッド！」
無理でしょう勃たないでしょう！第一こっちだって！！というエリックの抗議の声はふさがれた。
ブラッドのキスと、手管によって。
よもやまさかと思っていた昨夜のことを思うと、自然とエリックの腕が出た。
天下のブラッド・ピットをこづくとはさすがヘクトル！と司会はすかさず映画の宣伝を兼ねた言葉で喝采を送った。
なにしろ昨夜はひどい目にあった。
それはさすがに無理だから、それは明日の晩の楽しみに取っておいて、かわりに今日はいつもはそれどころじゃない場所を、
エリックを思い切り……とばかりにブラッドは、エリックを舐め玩びまくったのだった。
ブラッドの舌で触れられなかった場所はなく、ブラッドに抓まれなかった突起もなかった。
いつもはそこまで余裕がなくて……としおらしげに言うブラッドはエリックを、いっそ貫いてもらったほうがまし！という目にあわせたのだった。
何度イカされたことか！何回イクイクと口走らされたことか！それなのに肝心のところはなしだなんて、こんな酷い話があるだろうか！？
はっきり言ってエリックは欲求不満だった。
思い出すとまたムカついて、エリックは隣り合うブラッドの足を、こっそりと蹴飛ばして踏んづけた。
（いてーよ、エリック！）
（ふんっ）
（役に立たなくなったらどうしてくれるんだ！困るのはおまえもだぞ！！）
（少しは困れ！！）
ブラッドならもしかして、踏まれた足を持ち上げて、公共の電波だというのに、足を舐めるくらいのことはしでかしそうだ。
そう思うとエリックは、好悪両方の意味で震えてしまうのだった。
「おつかれさまでーす」
「おつかれさまです」
テレビ番組製作現場の活気あるざわめきに触れて、エリックは少し懐かしくなった。今でも多少は出ているが、
最近は役者稼業に専念しているのでめっきりテレビ仕事は減ってしまっている。映画もテレビもとやって、
どちらも中途半端に打ち込むことにはなりたくなかったので、どちらかを選ばなくてはなかった。そして今のエリックは、映画の仕事を選んだのだった。
「懐かしくなっちゃった？」
並んで歩きながら楽屋に向かう途中でブラッドがエリックの髪に手をやった。エリックのほうが少しばかり高いので、座っていればともかく
こうして並んでいると頭のてっぺんには手が届かない。今もブラッドが触っているのはくるくるの毛先のほうをもてあそんでいた。
「里心ついた？」
「それ、言葉の選び方がおかしいよ、ブラッド」
誰も見ていないのを確認して、エリックは髪をひっぱっているブラッドの手を取って、その手のひらにくちづけた。
「お、やる気だね」
「なにをだよ」
エリックの方からの、こんないつ誰に見られるか分からない場所での積極的な行動にブラッドは、驚いたように目を見開き、
さらにエリックの嫣然とした微笑みに気持ちよーく悩殺された。
（ふ、ふふふふふ……）
おさえようとしてもおさえきれない笑みが、エリックの口の端にのぼっていった。
そんなに変装ヘンソウしたらかえって不審だろうと思ったので、トレンチコートにサングラスだけといったかなりいつもどおりの格好だった。
それでも背も高くガタイのいい男がサングラスをしてニヤリと笑うさまは、見るものを心理的に１０歩下がらせるには充分で、
パーティグッズやコスプレ衣装を扱う店の中の、ちょっとＳＭ入ったグッズのコーナーにいるエリックのまわりには誰もいなかった。
エリックの目的は、アイマスクやボンテージなコスチュームにはなかった。
エリックが籠に入れていっているのは、おもちゃの手錠に羽箒、しばらく考えてから短い鞭も入れた。大人のおもちゃにも興味がなかったので、
あとはクラッカーに三角帽なんかも入れてみた。
それらをレジに持って行くと、若い店員は逃げ出したい、とでもいうような怯えを見せ、エリックが「あ、領収書お願いします」と言ったときには
なんだかとても嬉しそうだった。
「宛名はどうしますか？」
「宛名……そうだな……」
別にいらない、と言おうとして考えた。そして言った。
「お願いします。宛名は、『ブラッド・ピット』で」
「――――は？」
気の毒な店員は、たいそう間の抜けた顔で聞き返した。
「『ブラッド・ピット』でお願いします」
「はい……」
エリックの顔に、満足の笑みが浮かんだ。
「まあでも終わってホッとしたよ」
「だな。公開録画は疲れるぜ」
ブラッドは帰り支度をすませると、思い切りのびをした。荷物それだけ？全部持った？とエリックのバックパックとビニールバッグを指し示しながら。
「まさかまた『ヘクトル』することになるとはなぁ」
心の準備が……なかったわけじゃないけども、とエリックは笑って言った。
「いやーでもチャーミングだったよ、ハニー」
キュートと言ってもいい、と重々しくうなずくブラッドの後ろ頭を、エリックはこずいた。いがぐり頭は、ともすれば滑りそうだった。
「何してんの、エリック」
「いや手触りが面白くて……」
ついぐりぐりしてしまうのだとエリックが言えば。
「ぐりぐりなら、あとでたっぷり別のとこに……」
ブラッドが卑猥な笑みを浮かべて囁いた。
「それもそうだな」
エリックが照れもせずにあっけらかん、と言うものだからブラッドは拍子抜けしたようにあららん、と言った。
「さ、もうひとふんばりがんばるか。あと取材３本だろ？」
「そ。早いとこ終わらせよーぜ」
「りょーかい」
肩を組んでスタジオを後にする、エリックの手にはビニールバッグ。
（ふふふふふ、これで、今夜は……）
「どしたのエリック？」
「別に。今夜が楽しみだなぁ、と思って」
「そ、そう？……がんばるよ」
エリックが笑ってそう言うと、ブラッドは照れて赤くなりながらそう言った。
エリックの荷物はビニールごとがざごそいって振られていた。
果たして今夜の２人の行方は？
４周年記念リクエストその４。
ｒｉｃｏさまからのリクエストで、ＭＴＶの番組に出演した血襟、です。
結局動画は見られなかったので、こちらの画像を参考にしました。
ttp://www.ericbana-archives.com/Photos-Interviews-04.html#TRアルファベット１２番目
果たしてどんな話をしていたのか？気になりますね〜。
えりりんたら表情豊か！さすがコメディ経験者！！
そしてこの画像を見た瞬間、接触具合を
こういう風にアヤシク変換して見ておりました（笑）。
お楽しみいただければ幸い至極！