やっとホテルに着いた。
ホテルといってもハリウッドのラスティのホテルのペントハウスに。つまりは、ラスティの自宅のようなものだった。
「別に部屋もあったんだけど、そっちは引き払っちまったから……」
ラスティはちょっとばかり嫌そうに案内してくれた。何度も何度も下に部屋を取るよ？と言ってくれたけど、わたしが不経済だしラスティの部屋を見てみたいし、
とがんばった。それでもぐずぐず言うラスティに。
「ラスティはわたしの部屋知ってるのに、自分のは見せないつもりか？」
それってずるくないか？と言ったらさすがにあきらめたようだった。往生際の悪い。
まるでいたずら小僧が、大人を秘密基地に案内する羽目になったような様子だった。
しぶしぶカギを開けて、イヤイヤわたしを通してくれた。案内されてまず抱いた感想が、これが……していた部屋かぁ、というのでは、
ラスティが嫌がるのも無理はないかもしれなかった。しかし事実なんだし、受け入れるべきだと思った。
こっちだって、いやこっちこそ、恥ずかしくて顔から火を吹きそうだっていうのに。
それでも、ついじろじろ見てしまう。まるで、ちゃんと生活しているのかチェックしているようになってしまうのは、我ながらうるさい身内のようだと思ってしまった。
こっそり苦笑したのを、ラスティににらまれた。入ってすぐがリビングのようで、そこからすべての部屋に続いているようだった。キッチンにつづくドア、
ベッドルームにつづくドア、もうひとつあるドアはきっと、オーディオルームみたいになっているんじゃないだろうか？
キッチンは雑然としている部分あり整然と片付けられている部分ありとなっていて、きっとあちこちにジャンクフードが潜んでいるんでは？と思わせた。
宝探しのようで、楽しそうだ。ビールやウィスキーなんかもさぞや買い置いていることだろう。
ベッドルームも起きてそのままです、といった感じになっていた。ところでいつ以来なんだ？さぞかしひんやりしていることだろう。
２、３着スーツがかかっていたり、洗い物なのか丸めたシャツが転がっていた。すわり心地の良さそうなソファには、
ちゃんとポテトチップスの袋があったりなんかして。口が開いているからきっと、もうすっかり湿気きっていることだろう。
この部屋は自分で掃除しているらしかった。
「あんたが来るって分かってたら、掃除のひとつもしておいたんだがな」
「わりと片付いてるじゃないか」
「もっとちゃんとしておきたかったの」
憮然とした表情でラスティが言った。その鼻にキスをした。
「でもこの方が、生活してるって感じがするよ」
順に見せてもらいながらやっぱり、その部屋が１番ドキドキした。まさにラスティの秘部を見るようで。
その部屋が１番きれいに片付いていた。たいしたものがなかったせいもあるだろうけど。
壁面を埋めるような、大型スクリーンがでーんとあって、それがとても良く見えそうな、リラックス出来そうなソファが正面にあって、
その前にローテーブルがあって、とそれだけだった。かなり面映かったけどかなり恥ずかしかったけど。
「ここが、その……？」
「そう、ここ」
聞くのもナンだったが、答えるラスティもナンだった。
多分２人して顔は赤くなっていただろう、いたたまれなくて、見られなかったけれども。この回線を通して、
ずいぶんと色々なことをしてしまった身としては、決まりが悪いなんてもんじゃなかった。
グラビアなんか参考にするもんじゃない。正気に返ったときや、当の本人に会ったときの決まりの悪さときたら！
でもあのときは、それが必要だったんだから、仕方がなかった。と、いうことにしよう！
「はいコーヒー」
一通り見てまわってから、リビングに戻った。
「ありがとう」
カップを受け取って熱い液体に口をつけた。ラスティは、わたしといるときはどうも甲斐甲斐しい人に変身するようだった。
あの仲間たちといるのを見てそう思った。誰にでもいつもそうなのかと思っていたら、横の物を縦にもしないことがあった。
居心地が悪いような、照れくさいような、嬉しいような、こそばゆいような。ラスティはどっかりと隣に座って、わたしのほうに身体を向けてしかも、髪をいじりだした。
だから、恥ずかしいってば！それでいながら、どっちに来てもいいように、スペースを開けて座っているあたり、わたしもわりとどうしようもなかった。
髪をいじりながら、首筋の髪をかきあげて、指でなぞっていたと思ったら、今度はキスされた。
「ラスティ……」
「うん？」
答えながらも、ラスティの手もキスも止まらなかった。好きな人と、セックスしようっていうと、どうしてこんなに恥ずかしいんだろう？
馴れていないからなんだろうか？何度もすれば平気になるんだろうか？
一足飛びに馴れてしまいたかった。
「その、する、のか……？」
「うん。したくないか？」
「ラスティ……」
カップを置いた。まだちょっと残っているけども。恥ずかしくて、ラスティのほうを見られないし、顔からは火を吹きそうなくらいだけれど、
ラスティに触りたいと思うし、ラスティと抱き合いたいとも思うし、セックスだって……したかった。どうなることかと思うが。
男とはしたことないし、どうやるかも知識でしか知らないし、どこまでやるもんなのかも五里霧中だし。
でも、してみたかった。
「よし！」
うっかりいきなり立ち上がってしまったので、ラスティがバランスをくずしてしまっていた。
「あ、悪い、大丈夫か、ラスティ？」
「あ、ああ……よしってナニ？」
「しよう、ラスティ！さ、ベッドに行くぞ！」
ラスティの手を掴んで、ベッドルームへのドアへ向った。
「……積極的で嬉しいよ、エリック……」
ちょっと呆けたようなラスティの声に、少しばかり気を良くしながら。
ベッドに移動して、座り込んでじゃあすぐに艶っぽいムードになるかというと、やっぱりそれは無理な相談で座り込んでにらみ合うようになってしまった。
「エリック……」
こうしていてもしかたないので、身を乗り出して手を伸ばした。あからさまにエリックが反応した。なんだか
はじめての娘に性犯罪でもしかけているスケベオヤジにでもなっている気分だった。近いものはあるかもしれなかったが。
「あ……、そうか、脱がないとな……」
そう言って、シャツのボタンに手をかけた。
「見せてくれるか？」
脱がしたい気もしたが、エリックの指を見ていたい気もしたので、好きにさせることにした。
ひとつひとつボタンがはずされていくと、エリックのゆたかな胸があらわになっていった。
「相変わらず胸筋すごいな……」
思わず手が伸びた。触れるとやっぱりエリックはびくりとした。ここで実は、俺も男は初めてなんだと言ったら、エリックはどんな反応を返すだろうか？
「体質だから……」
ほめてるのに、エリックは照れているのか困った顔をした。
「鍛えてもいるしな」
そのままくちびるを寄せて、あらわれた胸にキスをした。触ってもいい？とおうかがいを立てるのは忘れずに。
エリックは答える代わりに、俺の頭をきつく抱きしめた。はだけたシャツの下から手をさし入れてウエストラインをなぞるようにして抱きしめた。
ちゅっと乳輪にキスをしてから吸いついた。
「――――っ！」
得もいわれぬ舌触りを楽しみながら、だんだんと尖ってくるのを嬉しく思いながら、背を腰を揉むように触れながら、
じょじょに手を、ズボンの中に忍び込ませようと目論見ながら。
「ラス……ラス、ティ……」
シャツを引っ張られた。急いでボタンをはずすと、エリックに引っ張ってもらって手を抜いた。
素肌になったら目に見えてエリックは落ち着いたようだった。
エリックは貴重品に触るようなデリケートな手つきで、俺の背中に手を回した。
「エリック……」
伸び上がって、エリックの耳に息と舌を注ぎ込んだ。
「…………っ」
エリックは息だけで喘いだ。その息の温度は多分、熱に浮かされたように上がっているはずだった。
「ラス、ティ……どうしよ、う……」
切なげにゆれる目で見つめられた。好きな相手とセックスするっていいなぁ。
張り切っちゃうし、素敵だし、嬉しいし、何より楽しい。楽しくて楽しくて、空でも飛ぶがごとく、だ。
「どうした？」
頭をかき抱いて頬を寄せてキスをした。たまらない、という風にエリックは震えていた。
「どうして……こんな……」
「うん？嫌だったか？」
わざと反対のことを聞いてやった。でももし「そう」とか言われたらどうしよう？
「ちがう……ラスティ……に触られるのは……気持ちいい、んだけど、……どうしよう……」
かなり小さな声だったが、エリックははっきりそう言ってくれた。俺の手が気持ちいい、と。もっとがんばろう！という気にさせてくれる一言だった。
「どうした？」
話しながらも止められなくて、何度も何度もキスをした。まったくもう、愛しくってたまらなかった。どうして３年半も
離れているなんて馬鹿な真似をしちまったんだろう？どうしてあんな覗き見で満足してしまっていたんだろう？こんなに、
――――こんなに好きなのに。
「おかし、いんだ……おかし……あっ……どうにかなりそう、で……どうしてこんな、…ラスティにさわら、れてるからってこんな……」
なんで？どうして？とエリックは切なげに訴えた。
「エリック……」
あんまり嬉しかったので、答えるよりも先にぎゅうぎゅうに抱きしめてしまった。
エリックがちょっと苦しいと腕を叩くまでゆるめることも解くことも出来なかった。
「俺だからか？」
エリックはこっくりとうなずいた。
「今までこんな風になっかたことなかったのか？」
またうなずかれた。かわいいなぁ、もう。
「じゃあ俺のこと好きだからだ、きっと」
「そう……なのか？」
そりゃ好きだけど、とかごく自然に、呟いたりするもんだからもう。
「そう。だからつづきしようか？」
「つづき？」
「そう、つづき」
重々しくうなずいた。エリックはきょとんとした顔をしていた。
だからもう、食べてしまいたいっていうのっ！
「こっちだって……大変なんだ、ぜ……」
うっかりうっとりすると、手も口も止まりそうになるし、そうかと思えばケダモノみたいに襲い掛かりたいのをぐっとこらえているし、
これってもしかしてセルフじらしプレイ？と思うくらいで、と言ってやると。
「ラスティ、も…？」
と言った。ああ、その目つきを写真に撮って……いかん、ストーカー根性が染み付いている。目の前に本人がいるっていうのに。
音がすると嫌がるかもしれないので、エリックはそういうとこ、とてもつつましそうなので、物音ひとつ立てないようにズボンのジッパーを下ろした。
ズボンも、その下のブリーフも全部俺が買ってやった。何しろエリックはサイフひとつ持たないで俺と一緒に来ちまったから。
『服を贈るのは自分の手で脱がせたいという気持ちの表れ』というが、確かに楽しいが、うん、なんというかこれも俺が贈ったんだよなぁと思うと感慨深い。
俺の贈った、安い服の中に隠された、カジノの金庫の中身よりも貴重なエリック。その、もじゃくじゃをかきわけて、目当てのものを取り出した。
「あ……ラスティ、なに……？」
「ナニと言われましても……口淫」
エリックの顔が花のように赤くなった。
「や……そんな、ラス……離し、て…」
と言われましても、もう握ってるし、ちょっと舐めてみたいし。すでにナニか滲み出しているのの味なんて一生みることはないかと思っていたんだけど、しかも人のをだなんて。
「や……い、や……」
黙らせちゃおうか、それともなだめようか、やめておくという選択肢はなしとして。
「どうしても嫌？」
と言いつつ舐めたりして、しかも上目で。我ながら根性悪いなーと思いつつも、自分の気持ちには正直に。今度こそは。
「や……はずか…し……、し、それ、に……」
どうしてこんなに？と、エリックは何回も言っていた。どうしてこんなに？下手なポルノじゃあるまいし、と何度も。そして。
「大丈夫だいじょうぶ」
だから全部見せてさわらせて？と、口から手にバトンタッチさせて、エリックの口のはじにキスすると喘ぐようにしてエリックは言った。首を振りながら。
「いや…だ……ラ…ステ…ィ…」
「うん？」
「いや……」
「俺にされるのが？」
手の動きを止めた。でもまたいつでもはじめられるようきゅっと握りこんで。それでまたエリックは喉を震わせていた。感じているんなら嬉しいんだが。
「俺とするのが？」
「ちがう……」
「でもいや？」
エリックはまたうなずいた。目からは涙がこぼれそうに潤んでいた。
「ごめ……ごめん、ラスティ……」
「あやまることじゃない。気分じゃないならここまでにしておこうか？」
目尻にもキスをした。目茶苦茶にこすったものだから、エリックの目元は赤くなっていた。そしたらエリックはまた首を振った。
「ちが……そうじゃなくて……ラスティ……」
あわあわしている口がかわいかった。今日はもうこれ以上出来ないのかと思うと、かなりがっかりしたが、エリックの、こんなかわいいところをナマで見られただけでも充分か。
「ちがっ、……う……ラスティ……」
そう言って、エリックは俺の腕を強く掴んで引き寄せた。そのまま、震える手で、今度はこっちのモノに手を伸ばしてきた。
「エリック？」
そのまま、今度はエリックに咥えられた。とにかく頬張るという感じだったが、濡れた部分に含まれれば、自動的に反応する。
舐められるし、手でもこすられるし、やっているのがエリックだし。
「おい、エリック？」
エリックはこっちの声にも反応せずに、ただもうひたすらしゃぶっていた。持てるすべてを駆使する、といった感じで、それはもう無心に。
ひっぱがしたらきっと、変な気を回しそうだったがそのままにはしておけなかった。エリックの頭を引っつかんで（歯を立ててるところだったから、ちょっと痛かった）、
うつろな顔に胸も痛くしながら、問答無用でキスをした。口の中の味に唾液の味、それからお互いのモノの味がするキスというのも、なかなかオツなものだった。まあいいか、
エリックなんだから。
勢いをつけすぎたのか、歯も唇もぶつかってちょっと痛かった。でも構わなかった。上顎に歯の裏に歯茎に舌にと口の中という中を味わった。
ジゴロめいたことはしたことがなかったが、ここでエリックをメロメロにしないとお終いだぞ、という気合いは込めた。
こっちばっかりメロメロにならないように注意はしたが、ちょっとばかりそれは無理な相談だった。
「エリック？」
やっと口を離したときには、エリックはぐったりとして身をもたせかけていた。もっともこっちもそんなにしっかりしていたわけではないが。
「ラスティ……」
好きな相手が自分にしどけなく身を預けてきて、世にも切ない声で自分の名前を呼ぶ、こんなにそそられることがあるだろうか？しかもそれはどうも、
自分のキスが原因のようだなんて！ちょっとかなり、冥利につきた。
「どした、エリック」
「ラスティ……ごめ……ちょっと……どこまでどうやったらいいのか…わからなくて……」
「……決まりなんて、ないんだぞ？」
よしよしと頭を撫でた。正直言うと、下半身がかなり切羽詰ってはいたんだが。まあ放っておけば収まるだろう。ここが我慢のしどころだ。
目の前にごちそうがあるってのに我慢するのは、かなりつらかったが。もうちょっと好きでなかったら、きっと襲ってると思うけど、ここまできたら我慢も快感
……になるにはどのくらい修行を積めばいいんだろうか？ちょっと気が遠くなりそうだった。
「でもちょっと限界かも……」
呟くと、エリックの反応は早かった。
「ごめん……あ、口のがいいか？」
とりあえず、とまた手を伸ばし、エリックの手で包まれた。ぴくぴく震えていたモノが、たちどころにゆったりとした。
「あ………っ」
ものすごく気持ちよかった。
「……いい？」
「いい、エリックあんたのも……させて」
「ん……」
お互いにお互いのモノに手を伸ばして、手をクロスさせながら相手を扱いた。手でもいいなぁ、エリックがしていると思うからなおさら。
そういえばエリックのことを好きになるまでは、もうずいぶんと手で、なんてご無沙汰だったことを思い出した。思い出したら、笑えた。
「ラスティ？」
「いや……必死だなぁ、と思って」
「確かに」
エリックもくすくす笑った。何も笑いながらしないでも、と思ったがとうとう最後まで笑いやまなかった。もし見るのがいたらどう思っただろう？
素っ裸でベッドの上で、泣いたり騒いだりしながら、結局かきっこして終わり？
ひょっとしたらコメディかもしれなかった。自分の恋路でなければ、きっと。
「あの……」
さっきからこればかりだった。
一応捜査官として世に出ていて、それで給料ももらっていたというのに、いざというときの、この歯切れの悪さはなんなんだろう？
それとも、社会生活のノウハウと、色事はまったく関係ないということなんだろうか？……なんだか急に、世の夫婦や恋人同士が偉大に思えてきた。
「なに？」
そんな長さもないのに、ラスティは髪をかきあげるような仕草をした。そんなささいなところもすごく格好よくて……見惚れてしまった。
なんだかその裸も、だんだん正視しがたくなって、目を伏せた。わたしはこんなに意気地なしだったんだろうか？
強気に出ていたときもあったような気もするけど、あれは生き別れた双子かなんかだったんだろうか？
この身ひとつで勝負するってことが、こんなに怖いとは思わなかった。
「ラ、ラスティはその……」
いっそ紙に書こうかとも思った。どうしてこの手の単語は口にしにくいんだろうか？しかし紙に書くのか？この手で？
ラスティ、君はどこまでしようと思ってるんだ？なんてことは、とても口にも紙にも表現出来そうになかった。しかししないと、多分きっと伝わらない。
ああ！仕事でならなんだって口に出来るのに！被害者はアナルセックスの経験者で歴はざっと１０数年なんてことだって言えるのに！
自分のこととなるとどうしてこんな！！
「エリックの百面相」
しびれを切らしたラスティが、からかうようにそう言った。そのままこっちに来て、またキスをする。ラスティはそういうことをするのが上手いなぁ。
わたしはどうしてダメなんだろうと思うと、暗澹たる気分になった。キスはもちろん気持ちよかったが。
「どうした？」
どうした？とそう言えば、何度も何度も聞かれていた。そのたびろくな返事が出来なくて、こんなことではいかん！と思って変なことをして
……いかんだんだん落ち込んできた。もしかして今頃とっくにあきれられていたりはしないだろうかと思うと……だから涙腺、もうちょっとがんばってくれよ……。
長いつきあいじゃないか。
「なんで泣くんだエリック？俺いじめたか？」
違うちがうと首を振った。ああ、またこのパターンだ。いいかげんラスティもうっとおしく思っているに違いない。我ながらうっとおしい。
「ごめん……涙腺がおかしくて……」
「いいけど、俺のことか？」
違う、ともそうだとも言えなかった。そのままラスティに抱きしめられた。さらにはため息をつかれてしまって――――ああ、もう駄目だ。
そもそもそんな面白いやつじゃあないんだ、気のきいたやつでも。ラスティに呆れられて、なんだこんなつまんない奴だったのかと思われるんなら
早いほうが良かった。
「ラスティ、離して……」
「どうすればあんたの気に入るんだ？」
上を向いていたラスティが、こっちを見据えてそう言った。おそろしく真摯な眼差しで。
「え？」
「あんたずっと何か言いたげだっただろう？何が言いたかったんだ？言ってくれないと、俺は分からない。だから頼む……言ってくれ」
頼まれてしまった。
「いやそんな、たいしたことじゃ……」
「エリック。俺はあんたに無理を強いてるのか？だったら早めに言ってくれ、あんたに無理させたいわけじゃないんだ」
「ちがっ、違うラスティいったい何を……」
「嫌だったか？俺に合わせることはないんだぞ？もしもあんたがそういうのはなしにっていうんなら、俺は……」
「ちがうったら！どうしてそんな考えになるんだ！」
思わず腰が浮いてしまったのを、ラスティにまた引き戻されて座った。頭がぐるぐるして、上手く言葉が出てこなかった。
「イヤだって言った」
憮然としながらも、ラスティは言った。
「嫌ってあれはそういう意味じゃなくって……」
「じゃあどういう意味？教えてくれなけりゃ、俺には分からない。分からないんだ、エリック」
「誤解だ！あれは……そのわたしはこんなだし……」
「どんな？」
「男でごついし……そんなのが、その喘いでいたって気持ち悪いだけか……ラスティ！？」
いきなりラスティにきつく抱きしめられた。
「そんなことが気にかかってたのか？」
「そんなことって大事なことだろう」
「あんたとセックスしたくておかしくなりそうだったっていうのに、あんたがよがってて気持ち悪がるっての？俺が？」
「だって……わたしがだぞ？」
「そのあんたを抱きたくて！俺はおかしくなありそうなの！」
「ラスティ……」
のぼせて、倒れるかと思った。血という血が、頭に集まったような気がした。沸騰した血が、全身を駆け巡ったような気が。
「そうなのか？いいのかわたしで？」
「あのねぇ、エリック……なんのために口説いてたの？あんたが欲しくてたまらないって言わないとダメ？『愛してる』だけじゃダメ？」
「ごめんさっしが悪くて……」
「まったくだ」
首筋に噛み付かれた。ラスティは吸血鬼にはやがわりした。
「ああもういい、遠慮するなってことだよな？アナルセックスまではちょっと心の準備がまだ出来ないかと思ってためらったりするなってことだよな？
俺はエリックのアナにつっこみたいんだけど、ダメ？」
「………アナって……」
「肛門。そことココくらいしか男にはアナないし」
口を指でつつかれた。それはわたしも知識として知ってはいたけれど。男同士はそこを使うこともあるってことも、男女間でも愛好者はいるってことは。
……使ったことも、使いたいと思ったことはないけども。
「…………したい、のかな？ラスティは」
「したい」
憮然としているのか照れているのか。口元がむずむずしているからもしかして、からかわれいるのかもしれなかった。
「それは冗談ではなくて？」
その昔確か、手品が得意で、特にカードマジックがとかなんとか。今ならそれがラスティ一流のジョークだと分かるんだけども、
こればっかりは確認せずにはいられなかった。
「………証明しようか？」
と言って足をつかまれた。ついでに持ち上げられた。不意をつかれたのとそうされてもいいと思っていたから、簡単に寝転んだ。
天井が見えた、すぐにラスティに隠されたけど。
「本当にもう……頼むからエリック……」
懇願されてしまった。気の毒しちゃったなぁ、とまるで他人事のように考えていたら。
「エリック？」
「ああ、その……ラスティさえ良かったら、あの……どうぞ」
ちょっとなんというか、襲い掛かられた気分だった。女の人ってすごいなぁ。
「ちょ、っと……ラスティどこ舐めて……」
「肛門」
「やめ、ろって……」
「聞けませーん」
「ラスティ！この悪党！な、なんてとこを……」
「濡らしとかないと切れるぞーコレ入れるんだからなー」
「……もう充分、濡れているようですが？」
「あいてっ。いやそれは期待できない、ゴムつけるし」
「ならなおさら『舐める』意味ないだろうっ！」
「だって舐めたいし」
足を閉じようにも、しっかりラスティの肩が入っているので閉じられない。閉じたらまるで、誘っているようではないか！
挟み込もうにも、片方の足は肩に担がれてしまっているし……。
「や、だってば、ラ…スティ……ねがっ」
「残念だけどね」
しかも、会話をするっていったって、じ、自分の股間のあたりとするのは初めてだった。いちいちそっちを見るのだって、赤面ものだというのに！
しかも必ず、ラスティの手が添えられているナニかも目に入るときたもんだ！
「ラース…ティ…」
「だーめ、最後までやります。あきらめてください」
……宣言されてしまった。
またラスティが、わざとなんだか舐めとる音までさせているし、聞こえるし！いたたまれないなんてもんじゃあなかった。
世の人たちはみんなこんなハズカシメを……受けてるわけないよなきっと。
「だいじょぶ、なにもついてないから」
「〜〜〜〜っ！！」
恥ずかしさのあまり憤死するとしたら、今しかないかと思う。こんな辱めを受けるくらいならいっそ……と思っていたら、終わった。
ちょっとほっとしつつ、空気が触れてひやっとした。そういうもんなんだ仕方がないんだ別にラスティの舌が離れたからじゃないんだ！いいんだ！
と自分に言い聞かせていると。
「ちょっと……冷やっとするかもしれないぞー」
ごそごそしていたラスティが、チューブの中身を指につけていた。
「ラスティ……それ、ナニ？」
聞くのが怖かったが知らないのも怖い。でもきっと、答えはもっと怖いんだろう。
「塗り薬」
「……なんの？」
「性交時にお使いになる部位に塗るモノ」
「はっきり言ってくれてありがとう……」
前世というものがもしもあったとしたら、自分のはもしかしたらトマトかもしれなかった。りんごと違って、切っても赤いよく熟れた奴。
「どういたしまして。塗るぞー」
「はい……」
生きていくって、時々ツライ。幸いなことに、ときどき、だけれど。
「………」
「どう？」
「う…ん……まぁなんとか」
さっきと違って、ぬるんとすぐに入ってしまうのがかえってちょっとつらかった。その分ラスティの指の具合までリアルに分かってしまうようで、
何度も見たあの指が、いま入ってきているのかと思うと。
「………」
「エリック？」
「むにょむにょしてて……変」
「そりゃそうだ。我慢できそうか？」
頬にキスするように囁きかけながらラスティは言った。
「……たぶん……」
このうにょうにょのもごもごに対する自分の耐性はいかに？そんなことを気にする日が来るとは思わなかったなぁ、
生きていくと思いがけないことがあるもんだ。などと、感心している場合ではなくて。
うみょむにょの元は、ラスティの人差し指と中指だった。器用なもんだというよりか、よくそんなところに入れる気になるもんだというか。
ラスティが望むなら、わたしがしても……と思っていたけど、そうか、わたしがラスティを、ということになっていたらわたしがこれをしていたのか、と思うと感慨深かった。
「エリック……出来たらこっち見てくれる？一生懸命気をそらそうとしているところもかわいいけどさ」
バレていたようだ。
「いやちょっとその……」
そう言っている間にも、うごうごしていてその、端的に言えばその。
「その？」
「い、いつまでやるわけ？これ……ラスティ」
「馴れるまで」
「……分かりやすい回答ありがとう……」
ちっとも慰めにはならないけれども。
「出来たら、あんたにも良くなって欲しいからさ……俺もなりたいけど」
「……どうだろうなぁ」
なんか最初からというのは無理だって聞くし、そもそも女性だって最初はイタいばっかりだっていうし、覚悟は出来ているし。
「ところで今はどう？」
「だいぶ馴れたけど、気持ち悪い」
「そりゃこんなとこに普通指つっこんだりしないもんなぁ。脱肛でもないと」
「痔疾もないぞ」
「こっち好きってんでもないと、使わないもんなぁ……いいらしいけど」
「そういう話は聞くな。で、いつまでやってると…馴れたことになるんだ？」
「そこも問題だ」
「それならこの辺にしておかないか？でないとちょっと……」
「もうヤバい？」
と、いうか、あまりといえばあまりに変な感じなので、しまいにはもっとおかしくなりそうで怖いからというか。
「……だってラスティ大丈夫か？」
「……あまり、大丈夫、でもない」
「だろう？」
こっちから頬にキスすると、ラスティはとても嬉しそうな顔をするから。
そうでなくてもいつもそんな顔をしてわたしのことを見るから、いつもそうなのかと思ったら、わたしといないと笑っていなかったりもするから。だから。
「も……いいから、ラスティのしたようにして……」
ちょっとかなり恥ずかしかったが、思い切って言った。ああもう言っちゃったぜい！という、一種すがすがしい気分がした。
もっと喜ぶかと思ったのに、ラスティは奥歯がかゆい、みたいな顔をした。
「ラスティ？」
まさか本当に歯の具合でも？それともどこか他のところが？と思って手を伸ばした。そしたらその手をつかまれてキスされた。
「それじゃ、入れる、ぞ……出来るだけ力抜いといてくれ」
うなずいた。緊張するので、自然に腹に力が入ってしまうのを、深めに呼吸することでやりすごした。
なるべく息を吐くように。ラスティは医者じゃないから、絶対に大丈夫！と信じることは出来なかったけど、医者じゃないけど大事な人だから、
特別だって言うからがんばってみた。ラスティの指がまずそこを押し広げて、その狭間にあてがわれて、ゆっくりゆっくりと飲み込んでいった。
さんざんぱら塗っていたアレが、少しは役に立っていることを願って。なにしろ本来の用途とは逆のことをしようっていうんんだから、
そこに怒られたって文句は言えないわけで――――。
「――――っ！」
叫ばないために口を押さえた。叫んだって何にもならない。受け入れるって決めたのはわたしだし、身体がすくんでしまうのもわたしだし、
気持ち悪いというよりもただただ怖いのもわたしだからだった。
「エリックエリック、息しろ、息っ！」
頬を張られた衝撃で、目を開いた、ということはいつの間にかつむっていたんだろう。あけた途端に涙がこぼれた。泣いたって、どうにもならないというのに！
こわいこわいこわいこわいこわい、これいじょうこないでうごかないで、うごかないで！
そう叫ばないよう息だけをするのは骨だった。馬鹿みたいに見開いた目からはボロボロ涙がこぼれていて、ラスティが拭ってくれているのは分かった。
「全部入ったぞ……」
「ふ………ぅ…」
ラスティは何度も何度も、髪の生えぎわを撫ぜてくれた。その手はあたたかくて、どんな害意もなくてとても安心できたけれど、
それでも入っていることには変わりはなくて、身じろぎひとつ出来なかった。
「ご…めん……ラ……」
「いいから。じっとしてろ。しゃべらなくていから」
動かなくても、脈打っているのは分かった。これが動き出したら、どうなってしまうんだろう？切り裂かれてしまうんだろうか？
身体の内側から、目茶苦茶にされてしまうんじゃないかと、ただもう怖かった。自分にちょっとばかりでも勇気があると思ったら大間違いだった。
こんなへなちょこのくせして、よくそんなことを思ったものだった。ひぐひぐとずいぶんと泣いていたと思う、
後から考えてみたらその間中ラスティは待っていてくれたわけで、信じられないくらいの我慢強さだった。……しかもよくもったな。
ラスティの大きさは、全然変わらなかったように思うから。むしろ。
「……は、はいった、の？」
「ああ」
そう言って今度はキスされた。汗もずいぶんかいていたようだった。冷や汗なのかもしれなかった。
「あ……」
自分がどんな格好になっているのか分かってきたのも、このときやっとだった。ラスティに抱えられるようになっていて、知らないで見たらだっこされているようだった。
「ラス……」
ついしがみついたら、その動きでまたちょっと、つながった部分がきときとした。
「動くな。動くと響くぞ」
「うん……」
してることは大人向けなのに、対応がまるで子供相手のようだった。手間ばっかりかけて、世話ばっかり焼かせて。
やっぱりちょっと、申し訳ないというか情けないというか。
「つ、つづきをどうぞ、ラスティ……まだやってもいいと思うんなら……」
もしかするともう、こんな面倒くさい相手はごめんだと思っているかもしれないと考えて言ってみたらば。
「あのな、エリック……ここでやめてもいいと思うんなら、最初っからこんなことしないと思わないか？」
「……そうなのか？」
「そう。お許しも出たようなんで、つづけるぞ……ちょっともうかなり、きついし……」
「ごめ…！」
いいってことよ、とウィンクされてしまった。それからラスティはわたしの足を抱えなおして動き始めた。
正直言ってかなりなんだか気持ち悪いというかゴリゴリするというか怖いのも相変わらず怖かったしそれでも怪我したら専門薬を塗ればいい！と開き直ったし、
多分おそらくきっと、これで死んだって話も聞かないし絶対ものすごききっと大丈夫！と根拠もなく信じて終わった。
何事もなくて良かった良かった。でもぐったりしたけど。
「ほらエリック拭くぞ〜」
「元気だね、ラスティ……」
こっちは腕を上げるのも億劫だっていうのに、何をしたっていうわけでもないのにこの倦怠感はいったい？まるでものすごい遠泳をしたような感じだった。ああだるい。
「うん？嬉しいしな……最高だったよ、エリック」
そう言って肩にキスされても、反応する元気がなかった。阿呆なこと言うなとたしなめることも。
何も言わないものだから、ラスティはそのまま背中にべったりと張りついた。
「夢みたいだ……」
「夢？どんな？」
「あんたとこんな風になる夢……」
「セックスする夢？」
「エリックにずっと一緒にいてくれるって言ってもらって、より深くおつきあいする夢……」
「……コメントに困るな」
しょぼい夢というべきか？そんなことを夢見てくれてありがとうというべきか？
どっちかな？
「もう一度シャワー浴びるか？」
「いい、もう寝る……ねむい……」
瞼を持ち上げるのも億劫になってきた。
「寝るか？……ゆっくり眠るといい。起きたらメシにしよう」
「うん、ジャンクじゃないやつ……」
「フルイングリッシュのを作るよ」
「おね、が…い……」
もう口をきくのも億劫だった。
「エリック……愛してる」
祈るように、でこを押しつけられた。
「う…ん……」
ごめんラスティ、もう返事できない。
「寝ろ、もう」
そのまま、ラスティの唇を感じながらも。
「………も……し、て…る…」
それだけ言うのがやっとだった。
やったー！書き終わったぞー！！
いやぁ長くなったもんだ！（笑）
途中で切ろうかとも思っったんだけど、たまには一挙公開！と思いまして。
それにしても途中、ラスティに語ってもらっているときは
ノリが悪くてもうどうしようかと（涙）。
どうもエリックに語ってもらったほうが書きやすいようで。
ラスティじゃ悩まないしなぁ（笑）。
これで、最初に映画を見た後考えていたラス襟は全部書いたんだけども、
２回目を見たりよそ様のラス襟萌えを見て後日談めいたのなんかが浮かんだので
そっちもおいおい書きたいと思います♪
つくづく萌えというのはワンツーアタックだわ！
１人で萌えのときもあるけど、わたしの場合たいていテンションの高い
誰かの萌えに感化されて萌えあがっているもんなぁ。
ある意味無限ループ？（笑）