「こんこん」
「どちらさま？」
「こんばんは、ラスティ・ライアンです。入れてください」
「ああ、ラスティさん、いらっしゃい、どうぞどうぞ」
「ありがとう、お邪魔します。あ、これおみやげです。クッキーなんですけど」
「これはどうもお気を使っていただいて……さ、どうぞ」
「失礼しまーす」
「って君の部屋だろう？」
「今はエリックの部屋でもある」
「まあいいか、遊びだし」
「そうそう、楽しくやろうぜ！」
「こらどこ触ってる、セクハラで訴えるぞ」
「ああ、つい……ちょっとだけ」
「そういうことは後にしなさい、お客様。良い子にしてないとおん出すよ？」
「はーい」
「遊びに行こうか？」
「どこに？」
ある朝ラスティはそんなことを言い出した。ホテルマンぽく新聞を読みながらトーストを齧りながら。
新聞はすっかり、ジョギングついでにエリックが買ってくるのが習慣になっていた。
最初のうちは一緒に走っていたラスティだったが、エリックと一緒に全部走るのは無理、と分かってからはもっぱら朝食の用意をして
待っている人になった。フルイングリッシュ・ブレックファーストはもうやめたようだったが。
「ベッドルームに」
「……は？」
「前にローマでやっただろう？お泊り」
「ああ、なるほど！でも、このベッドは……わたしのってわけじゃないぞ？」
「でもたまには面白いだろ？あの頃は出来なかったことも出来るし」
「何がしたかったんだ？アイスでも食べたかったのか？」
ビールとお菓子はＯＫにしていたよな、とエリックは首をひねりながらキャラメルポテトをフォークで掬い取った。
「え？いやそりゃその……オトナっぽいこと？」
柄にもなくというか、芸風っぽくというか、ラスティはご丁寧に新聞をたたんでからテレた。
「……ラスティさん、今は朝だよ？」
「知ってる。さわやかな朝だよな」
そう言って笑うラスティの後の窓から差し込む朝陽は、たしかにいい感じで、外はまだ寒いかもしれなかったがこうして室内にいる分にはあたたかく、
今日もいい天気、な感じだった。
「分かってるんなら……」
エリックはキャラメルポテトに全力を傾けることにしたようだった。
「エリックは恥ずかしがり屋さんだもんなぁ……そこがイイんだけど」
トースト持ったまま、しみじみ言わないで欲しかった。
「分かってるんならどうして……？」
「うーん、そりゃ恥らうエリックがかわいいからだし、愛の表現はやっぱ、惜しみなくそそぐべきじゃないか？」
それで３年半もかかったわけだしな、とラスティは次の、かなり大きめなひとくちを齧りながらそう言った。
「そりゃまぁそうだけどさ……でも、恥ずかしいから、日のあるうちはなるべく言わないでください」
エリックのほうも、言うべきことを言わないでいたためのまわり道は相当こたえているので、素直に要望を口に出した。
「……了解。がんばるよエリック」
「パン屑ついてるぞ……」
恥ずかしがり屋さんも、オープンなアメリカ人の愛情表現に、だいぶ馴れたものだった。
ジャムたっぷりトーストを食べてる同居人と、朝食の席でキスできるようになったのだから。
「ドキドキしたなぁ、あの時は」
ベッドに寝転びながら、ラスティはしみじみと言った。
「ああ、あのベッド大きくて良かったけど、かなり古いからギシギシいってたしなぁ」
いつ抜けるかと思ってドキドキしたよ、わたしも、と素で言ったりするのがエリックだった。
「そうじゃなくて」
寝ながらワインをどこどこつぐにで、エリックはこぼしやしないかとひやひやしていた。お盆は下にあったけれど、何しろワインは赤なので。
「なに」
「物理的危機にドキドキしてたんじゃなくて、エリックと一緒のベッドでドキドキしたの」
「……そんなに寝相悪かったか？」
もしかして蹴っ飛ばしたりなんかしてたのか？と青ざめて言うエリックの顔を、ラスティはまじまじと見た。
目の前のこの人は、本当の本気でこれを言っているのだろうか？と、見極めるために。百戦錬磨、凄腕のイカサマ師にもそれは見破れなかった。
さすが、血はあらそえない上に、エリックなだけのことはある、とラスティは心底感心した。
「それ本気で聞いてるの？」
それでも一応聞いてみた。
「本気も本気」
ものすごく本気、だから教えて今でも寝相悪いの？それともいびきでもかいてるの？と聞くエリックの顔は、めっきりマジだった。
だからラスティは、それ以上の追求を、潔くあきらめた。困らすのも本意ではない。
「そうじゃなくて……好きな人とひとつベッドにいるからドキドキしたの」
今もしてるよ、触る？そう言ってラスティは、エリックの手を引っ張って自分の心臓に触らせた。
「……よく分からない」
「そりゃ俺の修行のたまものだ」
手を掴んだまま、ラスティはエリックにキスをした。
「いい匂いがする」
「それは君のほうだろう？ワインのいい匂いがする」
「エリックの匂いのほうがいい匂いだ」
「またそういう……」
「結構いじましかったな俺も。一生懸命ささやかに口説いてた」
「バカ……」
「夜通し語り明かそうか？あの頃みたいに？それとも……」
「する気もないこと言うな、バカ」
「バカバカ言うと本当になるっていうぞ。ああ、もっとももうなってるか」
「何に？」
「エリックバカ……わっ！」
「信じられない！このアメリカ人！！」
「キャー！おまわりさーん襲われるー！ワインこぼれるよ、エリック」
「諸犯罪者がが何を言うか！」
枕とクッションで本当に痛くはしないようにぼかすかやっていると。
「おまわりさーん、捕まえててー！」
「……どこのおまわりさん？」
「ここの」
ラスティは枕の下からエリックを指差していった。
「もうおまわりさんじゃありません」
その手をぺしっとはたきながらエリックは言った。顔は、もちろん赤かった。
「俺専属だもんなー」
懲りずにラスティが言った。顔は見えない。でも手は伸びる。エリックの、膝だとか足先だとか。
「痴漢の現行犯で緊急逮捕するぞ」
「捕まえて。ココを、エリックのアソコで……いててててっ！体重かけるな！」
「どーしてそういうこと言うんだもうっ！！」
「日も落ちたしここはベッドだろー」
「ラスティのバカー！！」
懐かしのお泊りごっこは、アメリカリニューアル版となって、さらなる進化を遂げた。
「次回は『新婚ごっこ』を……」
「そんなのするかー！！」
お楽しみに♪
おのれの欲望に忠実になると
これこのようにラス襟連続とかになるわけです。
欲望と言う名の列車は、途中下車は出来ないぜ！
というわけで（笑）。
映画でイザベルが寝ているベッドは
お泊りに行くのにちょうどいい大きさなのでは？
「おじゃましま〜す」とか言ってラスティが
エリックの部屋を訪ねて遊んでいたら
楽しかろうなぁと思ったのが始まりです（笑）。
そして。
ずきこさんのところの、現在のＷｅｂ拍手イラストの
３年半前の人たちを……目指してはみました（汗）。