「乾杯」
エリックはシャンパンの満たされたフルートグラスを、ホテルの間接照明に煌めかせながら掲げて言った。
「なにに？誕生日はまだだぜ？」
もうすぐ日付の変わる誕生日を待ちきれずにルームサービスのシャンパンを開けて泡だらけになったラスティは笑ってそう言った。
「……このステキなホテルに？」
エリックが少し考えてそう言った。シャンパンにホテルに夜更かしに、目の前にはバスローブ姿の恋人、もうすぐバースディだなんて、
最高のロケーションだね、とラスティは心中深くうなずいた。
「それはちょっと癪だなぁ。たしかにここもいいホテルだけど」
世界に冠たる大都市の、ニューヨークの瀟洒なホテルには負けるかもしれないけれど、ラスティだってホテルのオーナー
ちょっぴりくらいなら意地もあった。たとえ赤字まみれでも。
「うーん、じゃあ何に？」
首を傾げるエリックは、なんてチャーミングなんだろうと、はやくも酔いの回ったラスティはうっとりとした顔をした。
リンカーンセンターのコンサートの前にも、休憩時間にも、そのあとの食事でも、それなりにきこし召していたのだから酔いが残っていても不思議はなかった。
ただラスティは、裏の本業が本業なので、酔っているように見えてちっとも酔っちゃいないこともあるので、油断は出来ないよな、
とエリックは考えた。まあ今日はその心配はないけれど。なにしろラスティのプレバースディのお祝いなのだ、如何様にもされましょうとも、
と覚悟を決めてしまえば、何をたくらもうとどーんと来い！といった気分だった。
そんなエリックの、悠揚迫らざる様子もステキ！とか思っているのだから、いいカップルというべきだった。
夜だし、酒が入っているし、ホテルの一室だし、さあどうぞの構えだし、エリックにしてはめずらしく、バスローブがはだけているのも気にとめてないし、
大胆にもラスティを目の前にして足まで組んでいた。望めば全部見られる身ながら、チラリズムもすてがたいなとか思いながらラスティは、
なにかの拍子に見えるエリックの太腿や見えそで見えないその奥に、すごーくドキドキしていたのだった。かといって。
（エリックの太腿に乾杯！とか言ったら怒るだろうな、さすがに……）
ラスティはそんなことを考えていた。
（またよからぬこと考えてるな……）
シャンパンがぬるくならないように気をつけてグラスの足を持ちながらエリックはため息をついた。
「じゃあ、君の……」
「瞳に乾杯、とかいうのもナシ」
「え〜」
「ダメ、そんなの」
エリックはすげなく言った。
「恥ずかしいもん。はやくしないと、飲んじゃうよ、ラスティ」
無礼講モードなのか、かわいいことおびただしいエリックに、ラスティはもうメロメロだった。
たとえケンカしてても、エリックはなんてステキなんだろう、そのエリックといられるなんて、自分はなんてしあわせ者なんだろうと思っているラスティなのだった。
負けじとエリックも、どうしてこんなにしあわせなんだろう？そんないい行いをしたとも思えないんだけど、そのうち手痛いしっぺ返しとか来ないといいなぁ、
とか思っていたのでどっこいどっこい。似たもの同士、なところもある２人だった。
「ステキな人がプロデュースしてくれたステキなバースディイブに乾杯！」
一息にそう言うと、大きな音を立ててグラスを触れ合わせ、あっけにとられた顔をするエリックの前で、ラスティは泡の立つ黄金色の液体を飲み干した。
「ずるい……」
「言ったもん勝ち」
すね視線を向けるエリックに、ラスティはにやりと笑ってそう言った。
「乾杯しそこねた……」
「飲まないの、エリック？」
「乾杯してないもん……」
夕食のときにもしかして、飲ませすぎたんだろうか？とラスティは自問した。今夜にさしつかえては……と思ったから大分セーブしたはずだけどもな？
２人でワイン１本なんて、ほんの序の口であるはずで、確かワインの美味しいローマでは、２人で空けた瓶は２ケタに達したはず……と思いをめぐらせた。
なんだかエリックが、過去最高にかわいらしいんだけど？と。すねすねになったエリックは、グラスに口をつけようとはせず、
うだうだとしながらグラスを持つ手をゆらめかせていた。
「エリック」
これは本格的になんとかしないといけないようだぞ、とラスティはエリックがすっぽり納まっているソファの肘のせに席を移動した。
「エリック、こっち見て」
目元は赤らめて、頬は膨らませて、口はとんがってと、絵に描いたようにすねの諸条件を満たしたエリックにそう囁いた。
「やだ」
しかし、エリックの答えはにべもなかった。
「エリック、お願い」
「ラスティのばか」
「ごめん、エリック、謝るからこっち向いて」
「ラスティのあんぽんたん」
髪に指を絡ませて、怒られなかったから首筋にも指を伸ばして、髪にキスしながら囁いた。
「怒ったまま誕生日迎えちゃうの？」
「ラスティのせいじゃないか」
「だってエリックが、瞳に乾杯させてくれないから」
「人のせいにするな」
「シャンパンもぬるくなっちゃうし」
「健康とかでもいいじゃないか」
「うん、そういうのでも良かったな」
「わたしが言ったのは却下したくせに」
「この部屋よりも、エリックにしたかったんだ。この夜とか」
「せっかくコーディネートしたのに、乾杯してない……」
「ごめん、エリック、ごめん」
感情が高ぶるままに、静かに涙を流し始めたエリックの、顎をとってラスティは涙のあとにキスをした。
「機嫌直して、ね、エリック」
「ラスティのぱか……」
「ばかでもあんぽんたんでもいいから捨てないで」
「捨てるわけないじゃないかもったいない……」
なかなかふるっているエリックの答えに、ラスティはつい吹き出した。
「どうする？吐き出そうか？それで乾杯やり直す？」
愛情たっぷりで、つれない恋人のつむった目の上にもキスをした。エリックはされるがままだった。
キスされれば逃げないし、触れられるのは気持ちよさげではあるものの、膨れた頬はなかなか戻りそうもなかった。
ラスティの誕生日が近づくにつれて、エリックはものすごく悩んだ。
プレゼントはどうしよう？何か企画を立てたほうがいいんだろうか？どんなことをしたらラスティは喜ぶんだろうか？
何を上げても喜んでくれそうだけど、だからこそ嬉しい、と思ってくれるものを贈りたかった。
ローマにいた頃は確かケーキだった。ケーキを焼いて、とりどりのお菓子を贈ったのだった。ラスティはとても喜んでくれていた。
子供時代は、クリスマスが近いのでひとまとめにしてキャンデーやチョコだったなぁと笑ったことがあったから、誕生日にはケーキとキャンディ、
クリスマスには車好きなので、ゴージャスな車の、ミニチュアを贈ったのだった。小さな包みに、その何倍もある大きなリボンを結んで。
ラスティは腹を抱えて笑って喜んで、確かオフィスに飾ると持っていって……あのミニカーはどうしているんだろうかと思ったら、
ラスティのペントハウスのベッドサイドに、モデルルームに飾られている新車のように、なんと台に載せられてスポットライトよろしくライトを浴びていたのだった。
最初は単純に嬉しかったが、ベッドサイドでナニしてたんだ？と思うとちょっと腰が引けてしまったエリックだった。
あれかなこれかなと考えた挙句、結局企画でいこうとエリックは決めた。
ラスティは、プレゼントでいえばラッピングにこだわる質で、誕生日のお祝いなども、ムーディにスタイリッシュに決めたがるのではないかと思ったのだった。
だからエリックは、ラスティがすべてを決めてしまう前に申し出たのだった。
「ラスティ、誕生日のことだけど」
「ストレートだねぇ」
まったくてらいのないエリックのまっすぐな瞳に、ラスティは完全に虚をつかれたようだった。それから笑った。
「まわりくどく言うの苦手だし」
「もちろん構わないよ、ダーリン。で、誕生日がどうしたの？」
ちょっとうつむくエリックの肩を抱きよせて額にキスしてラスティは言った。エリックが、ラスティの国籍出生を疑うのはこんなときだった。
アメリカ人というのも納得だけど、イタリア男と言ってもさしつかえがないんじゃないだろうか？
いや、それを言ったらフランス人、いやいやスペイン人だって結構……などという、結論の出ない考えを振り切って、エリックは顔を上げた。
「１７日はわたしにプロデュースさせてくれないか？」
「１７日？」
ラスティの誕生日は１８日だ。ニュージャージーのダニーとテスの家に招待されているから、クリスマスはダニーの家で過ごすことになっていた。
エリックにニューヨークのクリスマス風景も見せたいから、とその前の週末をニューヨークで過ごすことになっていた。少しはやめのクリスマス休暇をとろう、と。
はじめのうち少ししぶったエリックだったが、ニューヨークにはいい美術館や画廊がたくさんあるよの一言で決まりだった。
エリックとテスを釣ろうと思ったら、美術のことを持ち出すに限るよな、というのが、ラスティとダニー、美術芸術マニアな恋人を持った男たちの共通意見だった。
「そう１７日。バースディイブ、ニューヨークに行く日だけど……」
「じゃあ１８日は俺がセッティングしてもいいの？」
それはすなわち、１８日なら何してもいいの？というお伺いだった。ラスティはナニカタクランデイマスというあの笑みを隠そうともせずにエリックに言った。
「……ああ。１８日はまかせるから、１７日はわたしに任せてほしい」
「……ＯＫ」
ごくりと息を飲んでから、エリックは承諾した。
エリックのその覚悟を見て取って、ラスティもエリックの、いわば挑戦を受けてたつことにしたのだった。
その１７日。
昼過ぎにチェックインしたニューヨークのホテルはさすがにラスティのチョイスだった。
「１度泊まってみたかったんだ……エリックと」
ラスティの強烈な流し目を意識しないようにしながら、エリックはハンガーに今夜のスーツを吊るした。
どこへ行くとは告げていなかったが、おめかし服を持ってきて、とは伝えてあった。ラスティは自分も似合うから嫌いではないだろうけれど、
エリックにノーブルな格好をさせることをことのほか喜ぶので、たまにはそういう格好が似合う場所に行くか、とエリックは思ったのだった。デートという言葉には
まだ抵抗があったけれど。
ラスティとはすっかりそういう関係なんだし、一緒に暮らしているし、ずっと一緒に……とは思うものの、人前での愛情表現とか恋人なら当たり前、
とされるようなことにはまだちょっと、てれがあった。
そんなエリックが披露した１７日のスケジュールは、ラスティを充分に満足させるものだった。
夕方には出かけて、まずはバーで軽く一杯、それからリンカーンセンターでクラッシックのコンサート、そのあとに夕食、といういわゆる本命のためのデートコース、
とされるものだった。ラスティは終始にこにこしていたし、ラスティが喜んでいたようなのでエリックもほっとした。
なにしろやっと緊張の糸がほどけたのは、コンサートのあと、夕食のテーブルについてからなくらいだった。
「ほっとした」
「うん、魚料理もいいかな〜と思ったけど、やっぱり肉にして正解」
ラスティはナイフなしでも食べられるサイズの鴨肉をもぐもぐしながら、満足げにうなずいた。
そうじゃないんだけどな、と思いながらもエリックも食事に取り掛かった。もちろん分かっているよ、とばかりにラスティは、ウィンクなんか寄越していたけれど。
「……あの、ラスティ」
「うん？」
喉が渇いていたので、結構くいっと飲んでしまったワインのおかわりを、ラスティは無造作きわまりなくどぼどぼ注いでくれたのだった。
「楽しんで、くれて、る？」
こういうことを聞くのは、ルール違反だよなー聞いたら義理でもＯＫと言うしかないじゃないか、と思いながらも、エリックは聞かずにはいられなかった。
知恵という知恵をしぼった結果なので、少しは報われたかった。
「うん、最高」
それなのに、ラスティはしごくあっさりとそう言った。
「ありがとう、エリック。ニューヨークのデートを、満喫させてもらったよ」
ラスティは、食べるものと一緒で、ジャンクなものも好きだし、フルコーススペシャルディナーみたいなものもイケるのだった。エリック個人としては、
デートとかいったら美術館や図書館に行ってお茶をするとか、公園でひなたぼっこをしたり散歩したりとか、そういうのが好きだった。
だからラスティのことが好きにならなければ、ディズニーワールドに泊りがけで遊びに行くなど、考えもしなかっただろう。好きにならなければ、
一生つきあうこともないほど性格の違う２人だった。
ラスティもまた、エリックが行きたがらなければ、下調べ以外の目的で美術館へ行くことなどなかったかもしれなかった。
「よかった……」
その答えに、身体中からすべての息を吐き出すようにふしゅーっとぬけたエリックだった。
「ごはんも美味しいよ」
はい、とラスティは、フォークに鴨肉をとってエリックに差し出した。誰がどう見ても行儀が悪かったので、エリックは。
「ありがとっ」
見咎められないうちにと、ぱっくりと鴨肉に食らいついた。
「おいし」
「だろ？」
エリックの満面の笑みだけで腹が膨れるよなーと思いながら、ラスティもワインのおかわりを注いだのだった。
「エリック、機嫌直して……うん？」
ご機嫌斜めな恋人をなだめるのを楽しんでいたラスティだったが、ふとソファの裏側に目をやると。
「……エリック、コレはナニ？」
「うーん」
泣きつかれたのかすねつかれたのか、エリックはうにゃむにゃやりはじめてしまっていた。今にもソファからずり落ちそうだった。
「こんな……に？おい、エリック！いつこんなに空けたんだ！？」
「ラスティがおふろにはいってるとき〜」
「なんてこったい……」
ラスティは伸ばし始めた短髪をじょりじょりと撫でた。ソファの後ろには、シャンパンの瓶が転がっていた。
スタンディングバーで一杯飲んで、休憩時間にワインを一杯、それから夕食のときに２人でワインを１本、そして。
「エリックって確か、炭酸飲料には弱かったんじゃ……」
だから乾杯程度にとどめておいたほうがいいだろうな、と思っていたのだ。それがなんだって、もう１本あってしかも空いてるんだ？
「おいしかったよーホテルの人いい人―」
それか、とラスティは思った。エリックはバースディの人がいるからといって、シャンパンとケーキを注文していたのだと言っていた、
きっともう１本はホテルからのサービスかなにかなのだろう、その心づかいは、とてもありがたかった。ありがたかったがしかし。
「余計な真似をしてくれたなぁ……」
またラスティが、念入りに身体を洗ったのもまずかった。先にバスを使ってもらったのも仇になった。
デートコースが無事に済んで、ほっとして気がゆるんでいた湯上りエリックを、ほどよく冷えたシャンパンは、きっと直撃したのだろう。
「ちょっと待ってくれよ、エリック……」
「おやすみなさーい」
「おい、エリックってば」
「たんじょーびおめでとー」
呼べば答えるし手もひらひらさせている、でもとても、ラスティが期待していたような夜のしめくくりにはなりそうにもなくて。
「おーい、エリックー」
「はーいー」
ダメだこりゃ、と見切りをつけるとラスティは、よっこらしょとエリックの腕を肩に回した。
「これで、抱き上げて運べると……カッコいいん、だけど、な」
「らすてぃー」
「はいはい、ベッドまですぐだからね」
「あいしてるよー」
「ありがとう、俺もだよ」
つづき部屋の、キングサイズのベッドにエリックを運び込むと、ラスティも力尽きて倒れこんだ。ちょっとガックリきたせいもあった。
「おやすみ、エリック」
「………」
リネンの感触がエリックを眠りに誘ったのか、今度はさすがに返事はなかった。ラスティはエリックの、リネンに映える黒い巻き毛をぽんぽんと撫でた。
「まあいいか、明日……もう今日か。今日は１日、つきあってもらえるんだから」
まずは寝て――――そう考えたら、たちどころにあくびが出た――――起きたら、そのときこそバースディが始まるのだから。
わくわくするような、恋人と迎える誕生日の朝。起きたその時が、朝。
「『起こさないでください』の札も下げたし、メシはルームサービスでいいし」
そのために、瀟洒で小奇麗で、ルームサービスの美味しいホテルにしたんだから、とラスティはにしゃりと笑った。
明日になったら、朝になったら、エリックの顔を見ながら目を覚まして、誕生日だから何をどうしてもいいとお許しをもらっているんだから、
１日ホテルから出ないで、この部屋からも出ないで、１日中ずっと一緒にいて、なんだったらベッドから出ないでいて、
そしてずーっとずーっと一緒にいて……明日になったら、目を覚ましたら、エリックがもう泣こうと笑おうと。
それが、１日分若いラスティの考えた、最後のことだった。
「……あれ？寝ちゃったの、かな？あれ？ラスティ？」
夜明け前、エリックはぽかんを目を覚ました。目を開けると同時に、しっかりすっかり覚醒した。
「……寝ちゃってるなぁ、おーい、ラスティ……うーん、寝よ、かな？」
気持ち良さそうに口をあけているラスティの顎に触れても起きる気配はなかった。
もう１度寝るべきだ、とは思ったのだが。
「うーんうーん、えいっ」
エリックは思い切って、すかすか寝ているラスティの鼻をつまんだ。
「……おら」
さすがにラスティも起きたようだった。エリック同様、目覚めははっきりしたものだった。
「あ、起きた。おはよう、ラスティ」
嬉しくてエリックは笑った。嬉しくてつい、手を離すのを忘れてしまうほどに。
「おひゃよへりっふ、ふぁなふまむのひゃめてふれる？」
「あ、ごめん」
ラスティの控えめな抗議に、エリックはラスティの鼻を遠慮会釈なくつまんでいた手を離した。
「思いっきりつまんでくれちゃってもう……うわ！まだこんな時間なのか！？」
「ごめんごめん」
謝ってはいるものの、起きてくれて嬉しいものだから、謝意はちょっと少なめだったかもしれなかった。
「信じられなーい！……エリック、キスするなら、違うとこにもしてくれ」
「うん。あ、誕生日おめでとう、ラスティ」
「はい、ありがと、エリック」
「ごめん、寝ちゃったみたい……だね」
「そう、運ぶの大変だったぜぇ」
「ゴメンナサイ」
エリックは神妙に謝った。なんだか甘えモードが爆裂していて、ラスティの顎を撫でる手がとまらなかった。
「おまけにおあずけになっちゃったし、せっかくのバースディナイトだったのに」
「ごめん……」
「ごめんとか言いながらドコ触ってるの？」
ラスティの顎を撫でて、少しばかり感じる髭の感触を楽しんでいたエリックの手は、だんだんと下のほうへと向かっていった。
「ラスティ……」
「こら、知らないぞ」
「うん……」
ラスティは枕元の灯かりを、小さいのをひとつつけた。エリックは、それが合図だったように、掛布の中にもぐりこんだ。まるで灯かりを、嫌うように。
「エリック？」
ラスティに手を伸ばしていたエリックがなんだかもぞもぞごそごそしているなぁと思ったら。
「何してる、の？」
「ラスティ……」
ずりさがったエリックは、ラスティのもともとあけっぴろげになっていたバスローブの下の合わせを広げていた。
すると当然顔を出したラスティの分身にしてそのものを、昨夜の鴨肉のようにぱっくりと口にした。
「……エリック……」
「ん……む……」
「エリック……？」
エリックの髪に手を差し入れたのは別に、止めたかったわけではなかった。エリックにもそれは分かったようなので、
掛布をはいで顔を見ても、エリックは手も口も止めなかった。
「エリック？」
「ダメ？」
ちゅぽっと音を立てて口から出すと、途端にそこが冷たくなった。
エリックはその時間を、少しでもなくそうと、すぐに両手でそこを包んだ。そしてしごいた。
「起き抜けで……そんな気になれない？」
「………」
ラスティはぶんぶんと首を振った。吹っ飛ばない程度に、でも懸命に。
「良かった」
エリックは、花がほころぶように笑った。
「……ダメって言っても、借りるつもりだったけど」
ペロリと舌を出して言うエリックは、そのまま身を乗り上げて。
「……ラスティ……お願い……」
ゆれる瞳で懇願して、ラスティの手の指を、うしろへと導いていった。
「……うん」
ごくり、と喉を鳴らしてラスティは要請に従った。
「……こう？」
「あ……」
エリックが喉をそらせた瞬間に、ラスティはようやく気がついた。こうしている場合ではないことに。
気づくや否や行動に移した。自分のバスローブは袖を抜いて、エリックのバスローブは肌蹴させた。
「あ……んん……」
エリックの喉元や胸にくちびるを這わせると、エリックはたまらないというように身悶えた。
そして下肢は、ラスティの指の動きにあわせてリズミカルに弾んでいた。
（サイッコーの誕生日のはじまりかも……）
前言を、撤回したい気になったラスティだった。
「あ……あ……ラス、ティ……あぁ……っ」
ゆっくりと動くエリックはとても艶やかだったし、今日という日はまだはじまったばかりだし、エリックの肌の味は最高だし。
「エリック……も……サイ…コウ……」
いつしか、ラスティの立てた膝も上下にゆっくりリズムを刻みはじめていて。
どちらのその場所も、予感にふるえていた。やがて来る、最高の瞬間の。
ラスティくん誕生日の巻〜♪
ニューヨークのクリスマスとか、リンカーンセンターでの正装デートとかって
ラスティは好きそうだなぁと思いまして。
物であげるとなると、プレゼントって難しいですからねぇ。
シャレなものでＯＫなら、いろいろあるんでしょうけどねぇ（笑）。
いろいろ好みのうるさそうなラスティにプレゼントするのって大変そうだけど
物欲の方向性が全然違いそうなエリックにあげるのだって大変だろうなぁ。
だからこそやりがいがあるんだろうけどさ♪