「遠慮しないで入って入って」
開けるのは玄関のドアだよね？間違えて、銀行の金庫に来ちゃったんじゃないよね？というような、素晴らしい開錠のあと、
ブラッドは振り返って笑った。お待たせ、と言いそえて。
「それじゃ……お邪魔しまーす」
友人の家の玄関前にたどり着いたというよりも、数々の、セキュリティと言う名のトラップをくぐりぬけてきたパーティの一員といった気分のエリックは
神妙に言った。天下のハリウッドが、世界に誇るセレブリティ、ブラッド・ピット邸に到着したエリックの第一の感想はそれだった。
「誰もいないから大丈夫だよ」
広い玄関の中の、これまたひろーい内部に感嘆の目を向けついでに口も少し開けてしまっているエリックを、
愛しおそうに見つめながらブラッドは言った。
「でもやっぱり、家にも挨拶しときたくならない？」
小首を傾げてそう主張するエリックのことを、食べちゃいたいくらいカワイイ！と内心思っていることなどおくびにも出さずブラッドはすましてこう言った。
「エリックがそう言うのなら、どうぞお好きなだけ」
ご丁寧に手を広げてみせさえした。
「なんなら床にキスでもする？プールもあるけど、飛び込んどく？」
「いくらなんでも、そこまではしないよ」
ブラッドの下心満載の、ジョークとも言えないジョークは、元とはいえ本職のコメディアンに、あっさりと退けられてしまった。
ほんのちょっと残念に思う気持ちと、いやなにまだ１週間あるさ、休暇はまだ、始まったばかりなんだから、と気を取り直した。
「そっか、……残念」
「え？」
しかし、ブラッドの心からの、しかし内緒の呟きはエリックの耳にしっかり届いたようだった。
「いや。部屋に案内するよ、エリック」
気を取り直して、良き友人の顔でブラッドがそう言えば。
「ありがとう。お世話になります」
花がほころぶような笑顔でエリックは答えたのだった。
（かっわいいなぁ、もう……）
ブラッドが鼻血をふきそうな心境になっていることには、当然内緒だった。
「どしたの、ブラッド？」
にやけるあまりによろけそうになったのを、エリックは見逃さなかった。
「どの部屋がいいかなぁ、と思って」
ブラッドはどうにか顔を立て直し、取り繕うのに成功した。
（ああ、俺、役柄の幅が、広がりそう……）
今ならきっと、意中の相手を目の前にしてでもがっつくわけには行かなくて、それでも千載一遇のチャンスに、
踊り出さんばかりのアホな男の役だってイケる！と、実際に後年とても役に立つ体験を、現在進行形でしているブラッドなのだった。
滞在予定は５日間。
共演している映画『トロイ』の撮影の間にほんの少し出来た、すきまのようなオフだった。
もとからの予定だったオフではなくて、トラブルから発した急なオフだったこともあって、降って沸いた休暇をどうすごすかについてエリックは迷っていた。
片付けておきたいことがあるからと、ロスの自宅に戻ることにしたブラッドとは違って、エリックの家は海を隔てたオーストラリアだった。
「うーん」
「どしたの、エリック？」
セット待ちの間、ブラッドはスカートっていいわ〜とかなんとか言いながら、のべっと上半身裸で手足を伸ばし、
アイスを口にくわえて弛緩の見本市のようなありさまでくつろいでいた。パパラッチが見たら、大喜びされそうだなと、
通りすがりのスタッフにからかわれたりしながら。
「今度のオフなんだけど、いい便がないんだよね」
この炎暑に、やわなパソコン様がどこまで我慢出来るか！という耐久レースのようなロケ地だったが、
ちゃんと便利なパソコンのためのバッグがあるので、こうして休憩時間に、帰省するならどのルートが安くて便利♪などという情報を集めることも可能なのだった。
便利な世の中になったもんだね、とうなづきあうアイス片手のブラッドと、パソコンで検索するエリックなのだった。
「帰ろうかと思ってたけど、どうしようかな……」
エリックはパソコン画面を前に組んだ手の上に顎を乗せた。
「どっか旅行にでも行くとか」
「それもいいかな。せっかく戻っても、２日か３日しからいられないんじゃ、ハウスキーピングして終わっちゃいそうだし」
きっとすごいことになってるだろうなと、苦笑しながら言ってエリックはパソコンを閉じた。
「うー、目が疲れる！」
ヘクトルのヘアメイクに上はＴシャツという出で立ちのエリックは目をぎゅっとつぶって思い切り伸びをした。
Ｔシャツを着ていてくれてよかった、とブラッドは思った。そうでなくても布地の１枚や２枚くらいでは、なんの妨げにもなりそうもないのだから。
ブラッドの視線に気付いているのかいないのか、エリックは目頭を揉みながら言った。
「あーあ、バイクでもあれば、オフなんてあっという間なんだけどなぁ」
無理なことは百も承知だった。長短にかかわらず、オフの間に怪我でもしたらどんなことになるか、それも撮影中に。想像するだにとんでもない話だった。
いくら、やんちゃぼうずがそのまま大きくなったような、いたずら小僧のブラッドでも、それだけはおススメ出来なかった。
だから変わりにこう言ってみた。
「……じゃ、じゃあさ、う、うち…に…、来ない、か？」
「え？」
近場にどこかいいとこないかなぁとタウン誌をめくりはじめたエリックに、口から心臓が飛び出しそうになりながらブラッドは提案した。
「うちって、ブラッドの家？ロスの？それともこっちに別荘でもあるの？」
あってもおかしくないのが普請道楽セレブとしてならしたブラッド・ピットだった。
「もしかして実家とか？それはちょっと……申し訳ないなぁ……」
すっかり遊んでいるエリックに、ブラッドも少し気持ちの体勢を整えることが出来た。
「まさか、俺んちだよ。ロスのほう。そりゃエリックが、どうしてもきたいって言うんなら、実家に招待して、両親に紹介してもいいけど？」
笑ってはいたが、ブラッドは背中に額に、かなりいやな感じの汗をかいていた。
「それこそ、まさか！だよ。え……でもいいの？そりゃこっちは助かるけど……このままじゃ、どこにも行かないでホテルでゴロゴロ、とかになりそうだし……」
それはそれで、ちょっと心惹かれる企画だけど、とエリックは続けた。
「フラットと一軒家とどっちのほうがいい？手が入ってるのは家のほうだから、俺としてはそっちのほうが助かるけど」
ここが勝負どころだった。天国のようなオフを手にするか、失意のオフを過ごす羽目になるか。ブラッドの一か八かの大博打だった。
「どっちも豪邸なんだろ？ならブラッドのいいほうでいいよ。でも、本当にいいの？……誰かと会わなくていの？」
これはやっぱりプライベートなことなので、エリックも声を潜め顔を近づけて聞いてきた。その顔がかわいいとか、尖らせた唇に
噛み付きたいとブラッドが思ってることになど、まるきり気付かずに。
「もしそんな相手がいたら」
「うん」
ブラッドの答えや如何？と固唾を呑んで返事を待つエリックににやりと笑いかけながらブラッドは言った。
「うちに来ないかなんて、誘うと思うか？」
それで決まりだった。
「ありがとう、ブラッド。……嬉しいよ」
はにかみながらエリックが礼を言う、そのことだけでもブラッドにとっては最高の喜び、誘った甲斐があるというものだった。
「さて、どこにいく？」
この部屋を使ってとゲストルームに案内され、荷物を置いてリビングへ。
冷たいものでもどう？それともお茶にする？と言われて、２度と立ち上がりたくなくなってしまいそうな、
素晴らしく居心地のいいソファに腰を落ち着けたエリックに、ブラッドはそう尋ねたのだった。
「どこって？」
ブラッドと同じもので、どんな飲み物が好きで、ここではいつも何を飲んでいるのか知りたいから、などと言われれば、もてなす立場として、
ブラッドもよりいっそう張り切らざるを得なかった。
「どこか行かなくちゃダメ？」
そりゃ完全に遊びに来たのなら、行ってみたい所もないことはないけど……と首をかしげるエリックにブラッドは言った。
「出かけるんじゃなくて、この家の探検にさ」
「え？」
カップを持ったまま――――結局飲み物はホットになった。飛行機クルマと移動して来て、冷房にさらされて胃も冷えてるんじゃないかなという
エリック示唆による、ブラッドの配慮だった――――エリックは制止した。この家の維持管理を任せている人が常備しているという、
ブラッドお気に入りのクッキーを手にしながら。
「探検て……探検出来るような秘境なの、ここ？」
秘境探検ルック持って来てないんだけど、帽子貸してもらえる？と真剣な顔をして声を潜めるエリックのことが、やっぱりとても好きだなぁと
思うブラッドだった。このノリ、このテンポ、映画を通して知り合って、その人となりを知って、ブラッドが愛して止まないエリックの麗質だった。
きっと無人島に２人きりになっても、エリックとだったら笑い飛ばして毎日楽しく過ごせそうだとブラッドが思う所以だった。
「そうじゃなくてさ」
ひとしきり、腹を抱えて笑った後、ブラッドは涙をぬぐいながらこう言った。
「友達のうちに行ったら、まずは家の中を探検するもんだろう？」
「ああ、その探検！」
クッキーを食べ、カップの中身を飲み干してからおもむろにエリックは、ぽん、と手を打って納得の意を表した。
自分のことを『トモダチ』と表現することに、かなりドキドキしていたブラッドの胸の鼓動までは、聞こえなかったようだった。
「行きたい行きたい！」
幸いエリックはブラッドの提案に乗ってきた。
「どこから行く？今は淋しい独り身なんていないってのを確認するために、ベッドルームからにするか？」
笑っていたが、これもかなりドキドキものの発言だった。ガールフレンドも恋人もいないけど、ボーイフレンドは今熱烈に欲しいんだ。
そしてそれは、目の前で笑っているあんたなんだけどと、思い切って言ってしまおうかという発作が、波のようにやって来た。これをこらえるには、
相当な胆力が要った。何しろその波はもれなく性欲をも連れて来てしまうので、ブラッドがそんなことを考えているとは夢想だにしていないだろうエリックに
飛び掛らないよう、ものすごい精神力が必要だった。十中八九返り討ちに合うだろうとかいうことは、まったく別の問題だった。
「いやそれはさすがに……あ、えーとアレが見たいな」
「アレというと？やばいコレクションルームとか？」
緊張のあまり、ついおちゃらけてしまうブラッドだった。
「無難なところで屋根裏、地下室……」
えーと後はと、一般的家屋における探検したい場所を、指折り数えてしまうブラッドは、汗をかきながら相当にやばい想念に捕らわれないために、
いつも以上におしゃべりになっていた。
「それも楽しそうだけど」
テンパってるブラッドに苦笑しながらエリックは言った。
「映画コレクションを見せて欲しいな」
「えい、が？」
思いもかけないことを言われた人の常で、さしものブラッドも目を丸くして問い返した。
そんな名前が出てくるとは、まったくちっとも思っていなかったのだった。
「そう。すごいんだろう？コレクションも、それを見るための部屋も」
ブラッドの映画好きは業界では知れわたっていた。
よく知ってるな！という懐かしい映画のタイトルが手に入らないかと持ちかけられなかった映画会社のお偉方はいなかったし、
一緒に仕事をした監督のお宝コレクションに涎をたらしていたとか、共演者やスタッフと賭けをすることがあると必ず賞品は
相手の持っている映画コレクションになるというのは有名な話だった。
「あ、まあ確かに……好きだから、イロイロ集めてるけど……それが見たいの？」
「是非」
そんなものでいいの？というブラッドに、大真面目にうなずくエリックだった。エリックがあまりにも真剣そのものなので、
ブラッドの頬に自然と笑みが浮かんでいた。自分も大概書痴ならぬ映画痴だけど、その自分の収集品を見たいと言うとは。
しかもこれだけの家に来て、コレクションに興味を持った者もいたが、それは大抵家に圧倒されてからのことだった。
ブラッドは笑いながら言った。
「ＯＫ、じゃさっそく行ってみようか」
腰を浮かせたブラッドは笑みを浮かべたままだった。喜色満面となったエリックは、嬉しくもほほえましく、そして好もしかった。
あせることはない、時間はまだまだあるはずだから。あせってはいけない、絶対にダメだと、自分に言い聞かせながら。
「…うぁ……あ……あ…ぁ……」
「エリック……」
ブラッドにまたがって、華麗な舞のように身をくねらせるエリックは、たとえようもなく艶めかしかった。
「…ブラッド……あ、ぁ……ブラッ……あ……、も、……」
強弱をつけて、途切れることのないブラッドの突き上げに、エリックは心細がっている子供のような表情を浮かべながら、
玉のような汗を飛び散らせていた。
「もう……？」
ここを、というようにつきだされたエリックの胸の飾りをブラッドは、望みどおりに啄ばんだ。
赤い実のようなそれに舌を這わせ舐め転がすとエリックはさらに身をよじらせた。
「あ……あっ！……あぁ……」
「エリック、もう、なの、か……？」
エリックはブラッドから離れようという素振りを見せたが、そんなことを許すブラッドではなかった。
まだこの陶然とした心地を、味わっていたかった。やっと得たこのセックスの心地よさは、言葉ではとても言い表せなかった。
それほどまでにエリックの中は熱く蕩けていた。エリックの内部は、ブラッドを燃えるように熱く、どこまでもやわらかく迎え入れていた。
それだけでもうブラッドは、天の国にでもいるような気分だった。
エリックがブラッドのことを、心ばかりか身体でまで受け入れてくれたのだった。
「…あ……い、ぃ……い……ブラ、…ッドォ……あ……」
ブラッドの、ほんのわずかな身じろぎにも、エリックは感じていた。
どこからどこまでが自分の身体か分からなくなるほどの快楽が、そこにはあった。
もっと、とお互いがお互いを求め合い、どうにかなりそうだと何度も考えた。
「……ひっ……ぁ……」
１度や２度ではとても終えることは出来なかった。何度も何度も求め合い、幾度も幾度も与えあった。
「エリ…ック……」
エリックが息だけで喘げば、ブラッドは濡れた声でエリックの名を呼んだ。互いのモノを咥え合いしゃぶりあい、あますところなく触れ、
くちづけるだけでは飽き足らず、くすぐったがるエリックの、身体中を舐めまわしさえした。自分のどこに、
そんな変態じみた趣向が潜んでいたのかと、たじろぐほどの欲望だった。
「エリック……あ……すご……い、ぃ……」
静かな夜の部屋であるはずのブラッドのベッドルームの温度は上がる一方だった。
２人の熱はまるで、とどまるところを知らぬかのようだった。
「………っ！！」
ブラッドは汗びっしょりになって跳ね起きた。
目に映るのは確かに自分の部屋だった。ベッドにいるのはブラッド１人だった。それでもブラッドは
こわごわシーツをめくってみずにはいられなかった。もちろん誰の姿もなかった。昨夜の名残りも色濃いエリックが、
しどけない格好で寝入っている、などということは決してなかった。しかし、あまりにも生々しい記憶に頭をぐるぐるさせながらブラッドは、
昨日の出来事をたどっていった。
まずはエリックにキッチンなどの必要な場所に案内して、それからご要望のシアタールームへと招待した。
本当に、映画を見るためだけの部屋だったから、エリックはまず、わざわざそんな部屋を作ったことに感心していた。
次に感嘆の声を上げたのはやはり、圧巻のコレクションで、棚に並んだビデオやＤＶＤやフィルムのタイトルを見ては歓声をあげていた。
「あれ……もしかして……」
その中の１本に、自分の出演作を発見して、しかもそれが、ブラッドがインタビューで『相手役としてのエリック・バナ』について聞かれるたびに、
きっかけとして答えていたとある殺人鬼の映画だった。
「えっと……ブラッド、これって……」
「あ、それ……？」
「いや……、そう、だよね、見たって言ってたもんね……」
「う、うん……良かったよ、すっごく……」
「あ、ありがとう……ブラッドにそう言ってもらえて……う、嬉しいよ……」
「い、や……俺なんてそんな……」
どうしてそこまでしどろもどろになって、しかも赤くならなくてはならないのかは分からなかった。ただ２人とも、
幼いうぶな恋人同士がついに初デートするときのように、てれまくってしまったのだった。
「な、なんか、見る、か……？」
「う、うん……もうちょっと……コレクション、見せてもらってから……」
もうすっかり、そんな感じだった。とにかくもう、お互いの顔もろくに見られないほどてれまくっていた。
何がそんなに恥ずかしかったのか。まるで、ずっと自分ひとりの秘密にしていた恥部が、思いもかけずあからさまにされてしまったようだった。
「あれにあてられたか……？」
ブラッドはボリボリ頭をかきながらそう言った。アキレス用に伸ばしている髪だから、この驚天動地の夢のせいで、すっかり湿ってしまっていた。
それからもエリックと一緒にあちこち見て回った。
「これで屋根裏があったら絶対探検するね！絶対だね！」
エリックは興奮気味に力説した。そんなエリックを、ほほえましい思いで見つめながら、ブラッドはわざと手をわしゃわしゃさせて言った。
「そうだな、これで地下室があったら、あんたを閉じ込めちゃうのに！」
小さい子供にするように、おどけ口調で言った。
「キャーやめてー！」
ブラッドのおふざけに、エリックもノリよく返した。
ブラッドがまさか本当でそうしてもいいと思っているとは考えていないからこそだった。
ブラッドもたいそう努力していたが、エリックもちょっとやそっとのことでは動じなかった。だからブラッドも、きわどいジョークのふりをして、
切ない胸のうちを、ちょっとばかり吐き出すことが出来たのだった。
「夕食どうする？」
ひとしきり家の中を案内し終えるとブラッドがそう尋ねた。
「何か作ろうっていうんなら、買出しにでないといけないけど」
朝食になりそうなものは用意しておいてもらうよう手配していたが、夕食を作るとなると心もとなかった。
ブラッドの問いにエリックは、ブラッドがエリックの仕草の中で１、２を争ってチャーミングだと思っている、
眉間にほんの少し皺を寄せた状態で言った。真剣に何かを考えるあまり、厳しい表情になってしまうエリックは何てかわいいんだろうと、
常日頃ブラッドは思っていた。
「作るのも面倒だし、食べに行かないか？」
もちろんブラッドが面倒でなければ、だけど、とエリックは付け加えた。
「いいね」
ブラッドが同意すると、これも気になったのかエリックは続けた。
「予定とか、ないよね？」
誰かと会うとか約束があったら遠慮なくどうぞだからねと言うエリックに、ブラッドは笑って言った。
「ないよもちろん。そんなのがあったら言ってるよ」
もしも本当にそんな約束があったら、きっとエリックのことも誘っていただろう。エリックといられるせっかくの機会だし、そうでなくても、
少しでもエリックと一緒にいたかった。
「ならいいんだけど」
基本的にエリックも、こうして欲しいとか頼みごとがあるときは、はっきり口にしていたが、初めて家に招かれたということで、
ちょっと気になったのだろう、エリックは気を回しすぎたことにてれを見せていた。
（ああ、かわいいったら……）
はにかんだようなその笑顔がまた、恋するブラッドのハートを直撃するわけだった。
「いいところがあるんだ。今夜はそこにしとかないか？シーフード大丈夫だよな？」
食べに行くならどこがいい？と聞くとエリックは、ブラッドのオススメの場所へ連れてって欲しいと答えた。
だからブラッドはオススメというよりも、是非エリックにも食べてほしいシーフードの店を提案した。
「いいね」
平日のその店は、すきすぎてもおらず混みすぎてもなく、あらかじめ連絡しておいたブラッドたちを、奥まった静かな席に案内してくれた。
「うん、うまい」
アミューズからして目が覚めるような旨いものを食べさせてくれる店だった。
果たしてエリックが気に入ってくれるかと、内心ドキドキしていたブラッドはやっと安心してフォークを口に運ぶことが出来た。
「オーストラリアのとどっちが旨い？」
「うーん、難しいね。でも今はこれが１番！」
そんなささいなことを論じ合い笑いあって、それから買い込んだ酒とつまみをゆっくり楽しみ、日付が変わった頃に部屋に引き上げたのだった。
とても楽しい一日だった。
それはもう、言葉にしつくせないほどに。
エリックと一日を過ごすのがこんなに楽しくて居心地がいいなんて、本当のことなのかといぶかしむほど、満たされた一日だった。
「だからなのか……？」
答えは出そうもなかった。
理由は簡単でも、結果はなかなか難しくて。
「……う……どうしたらいいんだ……？」
ブラッドは頭を抱え込んだ。
どこからかいい匂いがし始めた。エリックが朝食を作ると言っていたからその匂いだろう。
「どうすりゃいいんだよ、ちくしょう……」
とりあえずは、シャワーを浴びにいくしかないことは、よく分かってはいたけれど。
「好きだぞ、エリック……」
そう口に出しても、少しも満足出来なかった。
「どうしよう、エリック……」
聞かれてもきっと、エリックも困る。それくらいは分かる。
「……ちくしょう……」
どうすれば心が安らぎに満たされるかも、よく分かっているというのに。
そういえばこの２人のまったく馴れ初めって
書いたことあったかしら？です。
初恋のようなブラッドいとあはれ。
エリックは一体どう思っているのか？
滞在中に進展したいブラッドの野望は？
とかそういうことをまた書けるといいですねぇ。
いやもちろん、くっつくに決まってますけど、
その前にすったもんだあるに決まってますから！（笑）