「誕生日とクリスマスと、それから新年と……」
ブラッドは指折り数えてそう言った。
「…………」
エリックはうなだれて楽しそうに数え上げるブラッドを見上げていた。
顔は伏せていた。しかし伏せすぎないよう気をつけていた。
真下を見てしまうと、あまり見たくもないものまで見えてしまうからだった。
「そんなにいろいろ踏みつけにされたんだから、当然だよな？」
ブラッドは朗らかに笑いながらそう言った。
踏みつけにしたつもりなんてないとか、急な仕事が入ったからだとか、ブラッドはそういった言い訳を受け付けたりはしないと、
よく分かっているからだった。要するにブラッドはおしおきと称して、エリックをいじめるのが好きなのだ。エリックが
恥ずかしくて泣き叫ぶようなことをするのが大好きなのだ。始末の悪いことには、エリックも
ブラッドに恥ずかしいことをされるのが大好きなのだった。
お互いに自分が、異性をするセックスよりも同性との関係の方が好きなのは分かっていた。しかし、そういうことまで好むとは
ブラッドはともかくエリックは知らなかった。ブラッドにそうされるまでは。
「エリック？」
返事をしないのに焦れて、ブラッドはエリックの顔を下から覗き込んだ。
ブラッドは瀟洒なディナージャケットをしっかり着込んでいた。
エリックはブラッドからの昇任祝いのタキシードの、上だけを着て立っていた。立たされていた。
この部屋に、ブラッドの部屋に連れ込まれて声も出せないほどに翻弄されるのはいつものことだったが、今日は違っていた。
今日のブラッドは昇任祝いとブラッドの誕生日から続くエリックの不義理について、
心ゆくまで憂さを晴らすことに決めているようだった。
下半身を露出しながらもエリックは、ブラッドの言いつけで靴と靴下は履いていた。それでもともすれば、
ブラッドが見ているだけで顕著な反応を見せてしまう部分が、仕立てのいいシャツの狭間から見え隠れしそうで、それはもう
いたたまれない気分を味わっていた。ブラッドは容赦がなかった。
誕生日にもクリスマスにも、ニューイヤーにも何も出来なかったのをたいそう残念に思っているらしかった。
それはエリックも同じなのだったが。
「エリーック？」
「ブラッド……」
エリックは震える声でそう言うのが精一杯だった。
「……あ……は…ぁ……ぁっ…」
ブラッドは声を出せとも出すなとも言わなかった。
ブラッドはあまり要求しない。ただ受け入れること以外は。
エリックがブラッドのすることを受け入れていれば、それで満足のようだった。
「あ……ん…んん……んぁっ…！あ……」
だからエリックは声も何もかも、ギリギリまで我慢して涙することもあったし、感じるままに奔放な声を出すこともあった。どちらでも
ブラッドは喜んだ。ブラッドが嫌がるのはただ、意に染まないことなのに
それをはっきり言わずにエリックが我慢することだった。エリックが何も言わずに涙を流した時
ブラッドはそれはもう大変な騒ぎだったのだ。それから約束をした。これだけはどうしても、ということは、
絶対に口にすること、ということを。固く、固く。
「あ……あぁ……ブラッ…ドォ……ァ…」
うつぶせてベッドに伏してもうどれくらいになるだろう。
ブラッドがエリックの尻を、ねぶるように愛し始めてもうどれくらいになるだろう。
正確に測ったことこそないが、いつもどおりたいした時間になっているはずだった。
ブラッドはそこを丹念に愛するのが殊の外好きで、それで今までいいパートナーに巡り合えなかったのだと言っていた。
それはそうだろう、こんな風に、一方的に愛撫を受けるだけみたいなのを好む者が、そういるとは思えなかった。
すると自分は、たいした物好きということなのか？
そう思うと自然とエリックの口元に笑みが上ってきた。
「……エリック？」
笑った拍子に腹が震えて、それでブラッドにも分かったらしい、ブラッドがご執心のエリックの中心から顔を上げ
身体をずり上げて聞いてきた。
「ブラッド」
そのブラッドの頬に手を当てて、反対のほっぺたにキスをした。
「エリック？」
キスは嬉しいが……と呟きながらブラッドは訳がわからないお手上げだ、と呟きながらエリックに首を抱きしめられた。
「タキシードをありがとう、ブラッド」
「よく似合ってた」
抱きしめられたブラッドは、エリックの耳朶に囁き声と共に、熱い息を吐きかけ舌をすべらせた。
「今度……あ……脱がせて……」
「ああ、必ず脱がせてやる」
さすがにもらったばかりではもったいなくて、問題のタキシードは２人の痴態を見下ろすような位置に吊るされていた。
今日のところはエリックも、ブラッドの前で着て見せただけだった。でも、わざわざブラッドがタキシードをプレゼントしてくれたのはなにも
００７就任のお祝いだけではないはずだった。これを着たところを見たいし、これを着たエリックを陵辱するように
蹂躙したいと思っているに違いなかった。何故ならエリック自身がそうだれたいと熱く願っているのだから。
「ぜった……ん……」
「そろそろここに」
「んぁ……ぁっ……あっ」
「挿れたいと思うんだが、エリックはどうかな？」
エリックの、とろかされきっている場所に軽く指を突き立てて、ブラッドはわざとエリックにお伺いを立てた。
エリックはもう、眉根を寄せて期待に満ちた手つきでブラッドの腕を引き寄せているというのに、溺れる者が息を求めるようにブラッドのキスを求めているというのに
エリックのそこはブラッドを待ち望んで熱く打ち震えているというのに、エリックの足も腰もどうしようもないほどブラッドを求めているというのに
それでもブラッドは聞きたがった。エリックの求める言葉を。
「……れて……ブラッド……あ……はや、く……」
「うん？どうなのかな？」
そう言いながらもブラッドが、先端をあてがい軽くつくようなそぶりを見せるものだから、エリックはもう恥も外聞もなく
求める言葉を口にしてブラッドの腰を引き寄せようと足をからめさえするのだった。
「来て……挿れて……あ……ブラッドで、いっぱいにして、ぇ……ぁ……」
ブラッドは満足そうに笑うと、欲しくて欲しくてかわいそうなくらいに震えているエリックの頬にキスをすると、
いよいよエリックの足を抱えなおし、猛りきっている灼熱の剛直をゆっくりとエリックの中に埋め込んでいった。
「………っ！」
声にならないその悦びを、エリックはブラッドを抱き寄せる手指の力で表した。ブラッドとこうできて、とても嬉しいということを、
余すところなく伝えるために。
「……気、……気は、済んだ、の…か……？」
エリックは起き上がる気力もないままにそう尋ねた。
「うん？」
対するブラッドはごきげんで、用意してあったものの、すっかりぬるくなったシャンパンで喉を潤していた。
「エリック？そりゃあもう、今日もステキだったよ」
ベッドにうつ伏せているエリックの、肩に手を置き髪の生え際、うなじの感じる部分に息を吹きかけるようにしてブラッドは囁いた。
「そ、…か………」
ブラッドが満足したんなら良かった、とエリックは安堵の息を吐いた。
「エリックは？まだ足りない？」
そう言ってブラッドは、するりとエリックの前に手を差し入れると、本人同様うなだれているものに指を絡めた。
「もう無理だって、ブラッド……ぁ……」
「本当に？……こんなになってるのに？」
からかっているだけなのか本当に再戦を期すつもりなのか、ブラッドは笑みを含んだ荒い息でエリックの鼓膜をも刺激した。
「あ…ぅ……ぁ……」
もう枯れはてたと思っていても、触られればそれなりに反応はする。本当に指１本動かせないほど消耗したわけではないのだから。
それにエリックはダブルオーの名を冠しているのだから。いざとなったときに、腰が立ちませんでした、ではお話にならない仕事をしているだった。
「ここも……尖ってる……」
「ブラッドが抓むからじゃないか……あ…ん……バ、カ……ぁ…」
背後からはブラッドの重みと体温と熱い息、そして言葉。前からはブラッドの手と指とそれから。
「お願い……もう、…も…う……許して……」
「本当にもうダメ？」
エリックは言葉もなくコクコクとうなずいた。
「それじゃあ、しょうがない」
あきらめよう、とブラッドはエリックを嬲っていた手を引っ込めた。変わりに、いたわるようにあちこち撫でさすることはやめなかったが。
「……ん……ぁ……」
そう言いつつまだブラッドは、エリックの膝裏といった弱い場所を愛撫するような手つきで触ったり、膝や腿でエリックの後ろの狭間を
まるで突き入れようとする準備のように刺激するのはやめようとしなかったが。
「ブラッドの、あんぽんたん……」
どうせもう、勃ったりしないクセに、とエリックはかわいらしく毒づいた。
「おや、エリックはこのすごい奴の性能を信じていないな」
「信じてる、信じてるよ！でももう今日は無理……」
このままうつ伏せていたら、役に立たないソレのかわりと称して、何を突っ込まれるか分からない、という恐れがあるのでエリックは
寝返りを打ってブラッドと相対した。満面の笑みを浮かべていたブラッドは、たちまちエリックを抱きしめると、情熱的なキスをした。
「はい……」
「うん？」
キスが終わった後、手さぐりで見つけた小箱を、エリックはぽいぽいとブラッドに投げて寄越した。
「なに、これ？俺に？」
「そう、プレゼント……」
お願いちょっと休ませてと言って、エリックは掛布にくるまってごろんと横を向いた。いいかげん気味ではあったが後始末をして
ほっぽいておかれたパジャマを着て。でも、横を向いたのは、休みたいの半分、照れくさいのが半分だった。
「プレゼントならもう、エリックを充分堪能させてもらったんだけどな」
そう言いながらブラッドは包み紙をバリバリ開けた。エリックに乗っていたままだったのを、おしくらまんじゅう勝負をしかけるかのようにして
ぎゅうぎゅうにひっつきながら。
最初の箱に入っていたのはゼリービーンズだった。カードを添えて。
カードの言葉は、極簡単にして普遍的な愛の言葉だった。
「なになに？……俺も！」
ブラッドが体重のことは考慮に入れずに飛びついてきたものだから、エリックは不意をつかれてちょっとぐえっとなった。
「ありがとう、エリック！」
最初に開けた箱にはハッピーバースディ、と書いてあった。それでは次はクリスマスということに。
「どれどれ」
エリックはもう見てもいられなかったし、正直聞きたくもなかったが、さっきまでよりも顔を赤くして目を閉じていた。
「あ、こっちにもカードあった」
今度のプレゼントは靴下だった。スーツの時に履くようなものではなく、家でくつろぐときのためのような、ゆるゆるのあたたかそうな。
「えーと」
実はプレゼントの靴下は、ブラッドとおそろいで自分用のもあるのだった。
「エリック――――！」
「うわっ」
今度はブラッドは、抱きつくだけでは満足せず、頭突いたままぐりぐりした。はっきり言って痛かった。
「な、なに、ブラッド……」
「エリック――――っ」
どうやらブラッドはたいそう感激しているようで、言葉にならないらしかった。
そんなにすごいこと書いたかなぁ、とエリックは首をひねりながら泣き出さんばかりになってエリックの胸に抱かれているブラッドを
しっかりあやすために起き上がった。腰にはちょっと響いたけれど、枕に寄りかかってしまえば何とかなかった。
（クリスマスプレゼントに書いたのは確か……）
「エリック――――っ！」
（『この靴下おそろいで持ってるから、今度脱がしてね♪』、とかだったような気がするけど……）
ほんのジョークのつもりだった。もしかすると挿入よりも、下半身を愛撫することのほうが好きなのかもしれない恋人への
ちょっとしたリップサービスのつもりだった。
（なんか、ものすごーく喜ばれているような気がするけど……）
「エリック――――っ！！」
どうやらエリックは、恋人が１番喜んでくれるプレゼントを贈ることが出来たようだった。
ハイ、ってな訳でなんちゃって英国情報部
血襟編でございました〜。
ちょっとフェチなちーさんに、
それでも構わないＭ風味のえりりんでした♪
『カジノロワイヤル』な話を
なんちゃって英国情報部血襟編で
ダニエル氏を交えて書いてみたいなぁ〜
と思っていますので、
上手く書けたらまた見てください〜。