「ラ、スティ……ど、して……あ、こ、んな……あ、ああっ！」
「どうしてこんなことするのかって？そりゃエリックのこと愛してるからだよ」
決まってるじゃないか、とラスティはのたまった。だからしたいのだと。
エリックもすること自体に否やのあろうはずもなかったが。
「なん、でこんな……変態みたいな……」
ラスティの気持ちを疑ったことはあまりないが、それでもエリックは疑問に思わずにはいられなかった。『愛してる』の名のもとに
どうしてこんなことが出来てしまうのか？エリックは、嫌だと言っているというのに。
「ラス…ティ……こ、んな、の……や、だ…って……っ」
「そそらない？」
「……ないっ！」
後ろからのしかかられ、まだ挿入こそされていないものの、ラスティのモノはエリックの足の間を何度もすりつけながら行き来していて、
エリックはくちびるを噛みながらその感触に耐えていた。
絶対にラスティを喜ばすような声はあげまいと思うのに、苦情を言い立てるために口を開けば自動的にあえぎももれざるを得ず、
どんなにこんなシチュエーションは嫌だと思っていても、触られゆさぶられれば感じもした。エリックはそれが嫌だった。まるで、心ならずもラスティから、
性的暴行を受けているみたいじゃないかこれじゃまるで。自分とラスティはれっきとした……こ、恋人同士だというのに！そう思うと泣けてきた。
「エリック？泣いてるの？」
ラスティにそれを見られるの嫌さに顔を背けても、触れられればバレるし、雫も滴った。下肢の先端から、零れ落ちるもののように。
だいたい、ラスティはずるい。
拒めないのを、どんなに嫌だといおうとも、最終的には自分がラスティを許して受け入れるのを知っている。それが分かっているから、
しょうこりもなくこんなことをするのだ。こんな変態的な倒錯的なことは嫌だと、バレンタインのときにもクリスマスのときにも、あれほどあれほど言ったのに！
それが全部素通りされているのかと思うと悲しかった。いやもしかしたらラスティの脳内では、アレとコレは別のカテゴリとして登録されていて、
今日はハロウィンパーティの仮装で、クリスマスやバレンタインではないからＯＫだとでも思っているのだろうか？
本気でちょっと、別れ……ることは無理でも、きっちり言って……分かってもらえたらどんなにいいだろうと思いながら、
エリックは汗を飛び散らせた。――――バットマンの衣装を視界に捕らえながら。
「え、また仮装するの？」
「だってハロウィンのパーティだから」
エリックの、眉間に寄せた皺も、嫌そうに歪んだ口元をものともせずにラスティはあっけらかんと言った。
確かに、ホテル組合の今月のパーティはハロウィン企画で、エリックも見ただろ？ともう１回見せられた招待状兼通知には確かに
『少し早いハロウィンパーティとしますので、ご出席なさる場合は、いつもと違うステキなコスチュームでお越しください』と書いてあった。小さく。
「……仮装ねぇ……」
「ちゃんと用意してあるから大丈夫だよ」
てっきりスーツか、いいとこタキシード、すごければ燕尾服でいいのだと思っていたエリックの顔は曇ったままだった。
「え？そう、なの……？」
なんだか嫌な予感がしてしまうエリックだった。
「うんそう、今回はコレ！」
じゃじゃーん！とラスティが取り出して見せたのは、アメリカ人ならずとも１度は見たことのあるものだった。
どちらもアメリカコミック界が誇るヒーロー、スーパーマンとバットマンだった。
「あ、それなの……」
前回のように女装のための衣装が飛び出さなかったので、ちょっと胸をなでおろしたエリックだった。
「違うのが良かった？やっぱりマリー・アントワネットにすべきだったか……いやそれよりもシシィ……」
「誰が着るんだ、誰が。そんなのゴメンだぞ」
真面目な顔をしてボケているラスティの頭を、エリックは手にしていた雑誌ですぱこーん！とはたいた。
「やっぱりそういうの考えてた。いくら仮装だからってドレスなんてごめんだぞ。女装するのも、ラスティがじするのも、だ」
腰に手を当てて、エリックがきっぱりと言い切れば、ラスティは肩を落としてため息をついた。
「やっぱりダメか……マリー・アントワネットとポリニャック伯夫人とかいいと思ったんだけどなぁ。シシィとフランツも捨てがたかったけど、
ベタなところではロミオとジュリエットなんかも……」
「そのふざけた口を、今すぐ塞いでやろうか、ラスティ？」
雑誌片手にラスティの胸倉を掴んで、返事によってはその丸めた雑誌を口につっこんでやる！の意も強いエリックの眼光は真面目極まりなく、
おっかないことも限りなかった。
「ハーイ」
そう返事をしていても、ラスティがまったくあきらめたわけではなく、いつの日か、チャンスがあれば！と思っているのは明白だった。
今回は、ドレスをあきらめたようなので、エリックもそこで納めることにしたのだった。
「しかし、スーパーマンとバットマンねぇ……バットマンは今年映画やってたから分かるけど、スーパーマンはなんで？」
ラスティのこだわりなのか、どうも２つの衣装は出来合いではないようだった。色もプリントも仕立てもきちんとしていそうで、これはもしかして、
イージオーダーぐらいではあるのかも……とちょっと感心するエリックだった。そして、
同業者の組合パーティに出るんだからこれくらいのことはするのかも、ということで納得した。
「２人は友達なんだよ。本にそう書いてあった」
「へえ、そうなんだ」
だからこの２人なのか、とエリックは思った。しかし。
「ところでこの……スーパーマンの衣装って、全身タイツ、なの……？」
そうなのだ。全身コレ、隠さねばならないようなところなどない！といったようなスーパーマン様の衣装はどうみてもぴちぴちのパチパチのもので、
筋肉はおろか、臀部も局部もぜーんぶ丸見え、よりも下手すると卑猥なのでは？といった代物なのだった。
「……出来たらトランクスで戦って欲しかったよスーパーマン……」
「でもそれじゃきっと、空飛ぶときすーすーするよ」
「それは、そうかも……」
風にトランクスをなびかせて飛ぶスーパーマンの図というのは、あまり、あまり格好よくないかもしれなかった。
「エリックはどっちにする？」
好きなほうでいいよ、とラスティはにっこり笑って言った。ついに来るべきものが来てしまった！といった心境のエリックだった。
仮装はしたくない、、出来たら、あまり。小さい子ならともかく。でも、パーティには出席しなくてはならない、
一応とはいえ、ラスティの居候にして、ホテル業手伝いであるからにして。だとしたら、パーティの趣旨がそうなのだから、仮装しなくてはならない。
気が進もうと進むまいと。でも、アレも嫌コレも嫌と言ったところで、他にいい代案も思いつかない。あるもので何とかするとなると、
せいぜいシーツをかぶっておばけ？くらいのものだった。だからといって、
シーツを被っただけという姿は、とても貧相でパーティを舐めているといわれても弁解のしようがない感じだ。
何しろ友達の気軽な招待、気楽なパーティとかではないのだから、これも仕事の一環なのだから。腹をくくって仮装しなくてはならない。
で、その仮装なのだが、もっと早くから分かっていれば、用意のしようもあっただろうが、なにしろパーティはもう今晩！なのだ。
エリックが、己のうかつさを嘆いてみても、いまさらなのだった。
「………うううっ」
「こっちにする？」
ラスティは笑って、真っ黒くろすけな今風バットマンのスーツを手に取った。昔のバットマンと違って、最近映画化されたバットマンの衣装は、
タイツというよりもプロテクターといった感じで、少しは抵抗感が薄らぐデザインだった。
「……そうさせて、く…ださい、ラスティ……」
「ＯＫ。じゃ、俺はこっちね〜」
髪染めよっかな、とか言いながらラスティはスーパーマンの衣装を引き受けた。
「ごめん……ありがとう……」
「礼には及ばないよ。俺はどっちになってもいいと思ってコレにしたんだし、どっちにしたってヒーローには違いないし？」
気さくに笑いながらそう言うラスティに、すまない気持ちとたのもしい気持ちを抱いて、
エリックはスーパーマンの衣装を当てているラスティを見たのだった。そのときは。
「あーやれやれやっと終わった！」
「おつかれさまでした、ラスティ」
パーティから引き上げたのは、もうすっかり日付も変わった、夜も更け更けの頃だった。
「さすがにずっとこんな格好してると肩こるな〜」
こきこきと首を傾け、ぶんぶん肩を回しながらラスティはぼやいた。
「着なれてないから」
エリックは笑いながらバットマンのマントを取りながら言った。
「スーパーマンはいつもコレ着て仕事してるんだよな、すごいなぁ」
「何かあったらすぐに出られるように、スーツの下にも着てるんだっけ」
「そう。……もしかして、パジャマの下にもコレ着ているんだろうか？」
夜の生活はどうしてるんだ？確かスーパーマンには彼女さんが……とかぶつぶつ言い出したラスティに、エリックは言った。
「ベッドルームのシャワー使うだろ？あっちのシャワールームを………ラスティ！？」
バットマンのスーツはシャワールームに入る前に脱ごうと思って、バスローブやタオルを持って行こうとしたエリックを、ラスティが引き止めた。
「なに、ラスティ？あっちのシャワールーム使いたかったの？」
でもあっちは狭いぞ、と言うエリックに、ラスティは景気よくカクテルを開けていた、すなわち酒臭い息を吹きかけた。
自分もきっと、酒臭いだろうからおあいこかな、と思いつつ、自分のほうは息をつめがちに、するときも出来るだけ、直接吹きかけないよう注意していた。
「ラスティ？」
「エリック、もうだめ……」
その声その顔、その挙動、エリックはざわざわと嫌な予感が這い登ってくるのを感じていた。
「ラスティ、まさか……」
「その衣装、すごく似合ってる」
「それはどうもありがとう……ラスティ！」
ラスティは巧妙で、きっとエリックがボードの前に立つのを待っていたのだ。ベッドルームとかで了解済みならともかく、
それ以外の変な場所で、変なシチュエーションを好む趣味は、エリックにはまったくなかった。
「ラスティったら！やめろ！」
馬鹿よせはなせ！何を考えているんだ、汗臭いんだぞ！シャワー浴びてもう寝たいんだから！！と叫ぶエリックの声はきっと、
ラスティにとっては妙なる楽の音に聞こえているに違いなかった。でなければこんな風に、柳に風と聞き流せるわけがなかった。
「ラースティ！」
「エリック、させて……」
じたばたあばれていても、相手がラスティと思うとどうも本当の本気で抵抗出来なくて、抗う手を取られて利用されて、ラスティに背を向ける格好になってしまった。
「ラスティ、よせ……やめてくれ……」
同意がないと、夫婦間といえどレイプが成立するんだぞ、しかもこれは……と涙声で訴えるエリックの声が、
聞こえないのか聞こえないふりをしているのか、ラスティはどんどん手を進めていった。ちょうど背中を向けたものだから、バットマンスーツの背中のファスナーを下ろし始めた。
その音は、本来なら、聞こえるかどうかといったかすかなものなのに、このときエリックの耳にはやけに大きく響いていた。
スーツには、フロントにもファスナーがあった。用足しをするときのものなのだが、ありえないことに、ラスティはそこにも手を伸ばしてきた。
「ラスティ！」
「エリック…、エリック……」
エリックがこんなに泣いているのに、ラスティはやめようとはしなかった。
エリックにおかまいなしで、どんどん進めていって、エリックを取り残して身体をはやらせていって、エリックを、おてけぼりにして。
「ラースティ、今すぐ止めないと……」
「エリック……」
なんだって自分だって生まれついての男なのに、世の怒れる女性のように、『男なんて！』とか思わなくてはならないのか。情けないにもほどがあった。
「倒すぞ」
「……ダメ？」
「ダメ」
エリックが倒すといったら倒すのだ。なにしろ相手は元とはいえ体術を極めた警察官で、母親の影響もあって様々な格闘技だって極めていて、
それはもちろんラスティも、それ相応の、必要な体術は収めていたが、エリックのそれとは意味合いが違っていた。
ラスティのは、逃げたりかわしたりするためのもの。エリックのものは、倒したり身を守ったりするもの。
用途がまったく違うのだった。
「何が、したい……の、ラスティ、は……」
息がなかなか整わない。こんなになってもラスティが、未練たらしくというか性懲りもなく、エリックのあちこちに触っているからだった。
「ああ、バットマンプレイの夢が……」
さめざめと泣き出した真似をするラスティの、鳩尾にエリックは肘を決めた。
「ぐっ……」
「そう言うことを言うのはどの口かな？」
それでも、エリックを腕から逃さないのは流石だった。
「この口……エリック、ダメ？脱いでもダメ？今日はもうダメ？」
こんなにびんびんにしたものを、人の股間に遠慮会釈なく押し付けているくせによく言うよ、とエリックは呆れ半分感心半分だった。
「なんだってこんな格好したまましたいの？」
情けないけどエリックは聞いた。聞かないことには、自分には一生分からない。そして、ラスティのことなら、たとえさっぱり理解できなくても、
エリックは知りたいのだった。
「確認、したいの、……かなぁ？」
自信なさげにラスティは言った。そのあいまにも、ねーねーダメぇ？としつこく聞いてくるのをやめなかった。だから、
背中にのしかかったり、押し当てたり擦りつけるのやめなさいってのに！とエリックは思っていた。でないとちょっと
こっちも引きずられそうになるじゃないか、と。今後のためにも、断じてここで流されてしまってはならなかった。
「確認？」
「エリックのことを。こんなだけど俺のこと好きでいてくれるのか」
「ラスティ……」
「ハイ」
「今すごく呆れてるの分かる？」
「それとなく……」
「ああもうまったくもう」
「エリック？」
「脱いでからなら、……つきあう」
「エリック？」
「少しは寝たいんだからな。だからって、昼まで寝てるなんてのはごめんなんだからな！」
「エリック……」
「もう……おかしいよ、こんな……」
「エリック……」
「ラスティがしたがるなら、それでもいいかなんて思うなんてまったくもう……」
「俺は、ラッキー、だけど？エリックは、アンラッキー？」
「知らん、もう、このイカサマ師め……ああもう、まったくもう……」
「エリック……」
「脱がせたいとか言うのもナシだからな！」
シャワーも浴びてくるからな！それじゃイヤだなんて言ったら寝るぞ！とエリックがつきつけると。
「そんなに行いがいいとも思えないんだけど……」
「ナニ？」
とりあえずこの手を離せコンチクショウ！とぶつぶつ言っているエリックと向き合って、ラスティはしみじみとそう言った。
「どうしてこんなにいい目を見るんだろう？」
「知らん、もう……シャワー浴びてくる……言っとくけど、１人ではいるからな！」
シャワーを一緒にとか言ったら張りたおすからな！と言うエリックは、まるきり怒れるダークナイトのようで。
「今度一緒に入ろうな♪」
とか言ったりするラスティは、それでも充分幸せなのだった。
「どの口が言うかな！」
「いででででででっ」
なんてたって、大好きな憧れの夜の騎士様が。
「エリックーありがとー」
「シャワー浴びてる間に、寝てていいぞ！」
ラスティのためだけにここにいるのだから。
本当に、シャワーを浴びている間に、あの酔っ払いが寝ててくれればいいのになぁ、という、エリックの儚い望みはかなわなかった。
ラスティは言いつけどおりにスーパーマンではなくなって、白いバスローブを着たやんちゃ坊主、いつものラスティになっていて
それでベッドの上であぐらをかいてエリックを待っていたのだった。
肩を落としてがっくりして、それでも自分から言ったことだしとベッドに行けば、喜色満面のラスティに迎えられ、
それがまた、まんざらでもないから腹が立って。つい引掻いたり抓ったり、挙句の果てには噛み付いて。
「いててててっ！エリックったら、もう、はげしいなぁ♪」
ラスティを喜ばす羽目になってしまって。
「あ……んん、……んぁ！」
それでまた、さんざんに翻弄されて感じてしまって。
「ラ…スティ……ラス、ティ……っ」
「エリック……すご、い……サイ…コ…ウ……」
それでとっても幸せだなんて。
「い、やぁ……っっ」
「も、すこ…し……エリック……」
世紀のヒーローも、きっと。
「やだやだやだっ！ラスティ……はなれ、……ない、で……」
ご存知ないに違いなかった。
コスプレプレイだと一段と燃えるとは……
ラスティ・ライアン、困った奴（笑）。
ハロウィンの仮装はおっかない格好をして
悪霊を追っ払うというんだから、ダークナイト様たちも
ベリーグーなのではと思いまして。
マリー・アントワネットとポリニャック伯夫人とか
オスカル様とロザリーの格好でプレイなさっていたら
倒錯的でさぞかしエリックが嫌がったことだろうなぁ（笑）。
ちょっと見てみたい気もするけども（笑）。