「どうしてブラッドも一緒に日本に行かなかったの？」
少しでも夏を涼しくすごそう！キャンペーンの一環として、午後は２人してプールサイドにデッキチェアを出していた。
プールといってもこじんまりしたサイズだったし、どちらかというと水辺でのんびり出来るように作ったものなので、木陰なんかもあってフルシーズン憩いの場として使っていた。
「この季節にあの蒸し暑い日本に行けっての？そいつはひどいな、エリック」
ブラッドはエリックの差し出す器を笑いながら受け取った。
「行けなんて言ってないじゃないか、行かないでよかったの？って聞いただけで」
ブラッドも本気でエリックの不人情を責めているわけではないので、エリックも安心して恨みがましいことを言った。
「まさかわたしが、ブラッドのことを好き好んで仕事に出してると思ってるわけじゃないだろう？」
仕事柄お互いに、長いことを留守をするのはしょっちゅうだった。どちらもそれを咎め立てするつもりはなかったが、それでもいつでも淋しく思うことは止められなかった。仕事も好きだし仕事がないのも困る、でも一緒にいる時間も何よりも大事だった。もしもどちらかが仕事を止めたとしても、ずっとくっついているわけにもいかないし。
「もちろん！エリックが俺のことを愛しているのを、疑ったことなんて一度もないよスイートハート！」ブラッドはエリックの艶な恨み言にオーバーに驚いてみせた。エリックは、ブラッドが広げた両手の中というエリックのための場所に身を任せ、待っていたブラッドの腕に抱きしめられ、頬にくちびるにその他の、ありとあらゆるくすぐったい場所へのキスを受けとった。ビーチパラソルもいいが、背の低いところまで枝を伸ばした木陰はこんなときに最高に役立った。もしも空から狙うパパラッチがいても、ちょうどいい目隠しになるからだった。
ひとしきりじゃれあって２人の間にある愛を、満足のいくまで確かめ合ったブラッドとエリックは、１人淋しく真夏の日本まで新作映画の営業に行ってきたジョージの、ありがたいお土産を賞味することにしたのだった。
「カキゴオリ？」
エリックが持ってきたのは透明な皿に盛られたかき氷だった。氷には抹茶が練乳がかけられていて、小豆と白玉がトッピングされていた。
「そう。今度は食べ過ぎておなか壊すなよ、ブラッド」
その昔、一緒に日本に行ったとき、冷やしたり冷たいものの食べすぎでおなかを壊した経験のあるブラッドを、エリックはからかった。
「もちろんさ。日本土産のカキゴオリ製造マシーンで食べ過ぎて腹壊したなんて言ったら、ジョージになんて言われることか！」
１人淋しく出稼ぎに行ってきたジョージの日本土産は、かき氷セットだった。かけて楽しむ食材つきという、大変ありがたいもの産だった。ブラッドのところにかき氷セットを買ってきたのは絶対に、いつまでもおアツいお２人さんへ、というジョージのやっかみに違いないというのがブラッドの主張だった。エリックの意見はごく単純に、美味しくて面白いものをありがとう、ジョージ、だったが。２人してのんびりとかき氷をしょりしょり食べた。
会話らしい会話はなかったが、にこにこしながらおいしい気持ちを共有していた。
日差しはきつかったが、木陰のおかげで大分和らいでいた。気持ちのいい風に吹かれながら食べる、冷たくて甘い物はとてもおいしかった。
「うまかったな、これ」
テーブルに皿を置くと満足のため息をつきながらブラッドは言った。腹をさすっているのはやはり、腹痛を警戒してのことかもしれなかった。
「うん、おいしかったね。日本の氷もいいね」
エリックもまったく同意見だった。白玉が小豆が、今度はこんなのをやってみようなどとひとしきり話が弾んだあと、ブラッドはぽつりともらした。
「でもやっぱり、特別においしく感じたのは、一緒に食べる人がいいからかな」
「……」
冗談だったり、からかいまじりのスイートトークではないことは、まったくの真面目な表情で分かった。だからエリックも、なおさら赤くならざるを得なかった。「うん……おいしかった、ね」
そう言うとエリックは、イスから降りてブラッドの隣に立った。頭をかき抱いて、そしてキスした。
「……やっぱり、エリックはなおさらおいしい」
ひとしきり情熱的なキスをむさぼりあった後、ブラッドはそう感想をもらした。
「何言ってんだか」
キスを求めに来た割には照れて、顔を赤くしながらもエリックはブラッドを抱きしめる手を、ゆるめようとはしなかった。そのまま軽いものからしっかりしっとりしたものまで何回もキスをくりかえしているうちに、だんだんとのっぴきならない様子になってきた。
「……エリック」
「う、ん……」
いつの間にかエリックの片足は軽く持ち上げられていてブラッドに支えられるような格好になっていた。支えながらブラッドは、エリックの腿から尻にかけてを、ゆっくりと撫でさすっていたし、エリックのほうもまたブラッドに胸をすりつけるように動かしていた。
「中、はいろ、っか…？」
「うん……」
中に入ってこのつづきをしようというブラッドの提案に、エリックはこっくりとうなづいた。
プールからはすぐに家の中に入れたので、外にいる間はどうにか手をつなぐだけで我慢することが出来た。
自宅にいたのにセキュリティもちゃんとしているのに、それでも撮られてしまうときは撮られてしまうのが、人気商売のつらいところなわけで。
テラスから部屋の中に入ると、かすかにあった遠慮とか人の目を気にする気持ちはあっという間に吹き飛んだ。
「ブラッ、ド……」
「……エリック……っ」
この部屋ではまだいけないということは分かっているのだが部屋の奥まできたら駄目だった。
せめて次の部屋に入ってからと分かっているのにもうどうしようもなく２人の身体はからみあって、くちはキスをするかお互いの名前以外呼ぶ以外のことをしなくなってしまった。それでもどうにかベッドルームにまでたどりつくことが出来たのは奇跡のようだった。
着替えのための部屋は寝室に続いていたから、着替えてすぐにプールに飛び込めるように設計しておいて良かったと、この家の設計にも関与した、普請道楽のブラッドは自分の先見の明に感謝した。図面を引いた頃にはまだ、エリックとこうなるとは思ってもいなかったが。
もつれるようにしてベッドに倒れたときにはもう我慢の限界だった。エリックはブラッドのシャツを剥いでいたし、ブラッドはエリックのジーンズを蹴り落とさんばかりの勢いで脱がせていった。もしもこの服の製作者たちが見ていたら、まるきり自分たちが悪者になってしまったように思ったことだろう、それくらい２人の形相はすさまじかった。
「エリック……？」
「ブラッド、早く……」
２人を隔てるものが、布切れ一枚もなくなってやっと安心することが出来た。触れ合うのは布地ではなくお互いの皮膚で、どちらも火がついたように熱くなっていた。きっとあとになれば、昼日中からたいしたきっかけもなしにこんなにさかってしまったことを恥ずかしくも思うかもしれなかったが、それはすべてあとでのことだった。今はただ、目の前にある恋人を貪りつくりたい欲望があるだけだった。
「ブラッド、あ……ブラッド……」
それでもエリックの目元にはまだ恥らうような照れたような色があったし。
「エリック……う、ぁ……」
ブラッドも急ぐあまりに何度も取り落としそうになったその為のローションをエリックに塗りつけるのは性急にすぎるのではないかというためらいがあった。ただお互いに、とても相手が欲しくて焦っているのは同じだった。
だから欲と焦りに彩られた目が偶然に合って、２人は思わず吹き出してしまったのだった。
「なんだか懐かしくないか？」
「トロイの撮影のとき？」
ブラッドの肩に手を回したエリックが見上げながら言えば、確かに今となっては懐かしい思い出だ、とブラッドがしたり顔でうなづいた。
「なにしろ気持ちに余裕がなかったもんな」
エリックを鼻でぐりぐりとやりながらブラッドが言うものだから。
「時間もだよ」
エリックはくすぐったそうに笑いながら答えた。
「うーん、あの頃は若かったからなぁ」
ほんの数年前の出来事を、ブラッドが我慢のきかないハイティーンの頃のことように言うものだから、エリックはますます笑ってしまった。気が急くままに余計な力の入っていた身体がそれで、リラックスしたようだった。
「あ……っ」
その機を逃さず、ブラッドは一気に身体を進めた。
「あ……ブラッド……」
「うん、大丈夫、エリック？」
そんなことは、エリックの陶然とした表情を見れば一目瞭然だったが、ブラッドは違う意味も込めて訊ねた。「うっとりするには……まだ早いくないか？」
くすくす笑いながら言ったブラッドだったが。
「だって……っ」
エリックはなかなか動こうとはしないブラッドにじれて、ゆるやかに足を動かした。さらにエリックははにかみながらも少し笑ってもいたので、意識して食いしめられさらには絶妙の動きを味わったブラッドは、まったくの不意打ちを食らうはめになった。
「あの時はいつも時間がなかったし……」
「思い出したらたまらなくなった？」
「なった……あ…んぁ……」
「あの時と今とどっちがいい？」
「……ぁ……と……」
「ん？」
エリックの言葉にならない言葉を聞き取ろうとブラッドは耳を寄せた。
「と、しよりくさいこと、言う…な……それとも…、言っていい、のか？」
「……そうだな、今が最高、以外は聞きたくないな」
そう言ってブラッドは笑った。笑いながら、律動を再開したのだった。
ひとしきり汗をかいて、冷房を入れていなかった部屋の中にこのままいたら蒸し焼きになってしまうんじゃないかというほどお互いを貪って、ようやく２人は満足のため息をついたした。
心身ともに熱い時間をすごした後の気だるさに心地よく身を浸していたが、ベッドルームに来る前も差していた日が、変わらず降り注いでいるのを見ると、少々決まりが悪かった。
「……やっぱり撮影中を思い出すよ」
シーツで顔を隠すようにしながらエリックは言った。
「そうだな、撮影の合間にもやっちゃったことあったしな」
シーツのはじからのぞいているエリックのくるくるの濃い色の巻き毛にキスしながらブラッドは言った。
「……あったねそんなことも」
思い出せばますます身の置き所のない気持ちになるのか、エリックはますます深くシーツの海にダイブしていった。
「エリック？おーい？」
こんなこともあろうかと、ホテルのように部屋に用意してある冷蔵庫から飲み物を取ってきたブラッドは、頭のてっぺんまでもぐってしまう前にとエリックのおでこにアイスミルクティーをこつんとぶつけた。
「冷たっ」
「水分補給しようぜ」
「う、ん……」
ようやくでももそもそと身体を起こしたところをみると、エリックもやはり喉が渇いていたようだった。確かに水分の補給は必要なようだった。「何か食べるか？」
「まだいい……」
ぼーっとしながらミルクティーをこくりこくりと飲むエリックを、ブラッドはなんｔかわいらしいんだろうとうっとししながら目を細めて眺めていた。
「なあ」
「うん？」
だからブラッドはびっくりした。何しろかわいい事後のぼんやりした姿という、自分しか見ることの出来ないエリックの姿を飽きることなく堪能するのに忙しかったものだから。
「どうした？」
「イザベルとラスティってもうダメなの？」
そしてまた、エリックが聞いてきたことがあんまり思いがけなかったものだから、ブラッドはそれはもう驚いてしまったのだった。
エリックはものうげに髪をかきあげるという、ブラッドの視線を釘付けにする行動を取りながら気づかず言った。
「倦怠期なんだろ？」
なんかの雑誌に書いてあった、とエリックはぽつりと呟いた。
「え……いや俺は違うと思ってた、けど？」
エリックが、何を気にしてそんなことを言い出したのかは分からなかったが、エリックは真面目に言っていて、ならば自分も真剣に答えなくてはいけないのだ、ということは分かった。「違うの？」
エリックはブラッドの大好きな――――ちなみに嫌いなところは何もなかった――――濃い色の瞳でブラッドをまっすぐに見つめて言った。
「ああ。少なくとも俺は、２人はちょっとしたケンかをしただけのつもりで演ってたけど？」
「そうなの？」
「イザベルは出てこなくて、脚本はこうなってて、ってことしか分からなかったから勝手に想像したんだけどね」
ブラッドの考えはこうだった。スケジュールの都合やストーリーの都合で、今回のオーシャンズの映画にはイザベルもテスも出てこなかった。でもだからって一足飛びに関係の危機というのはどんなものかと。ラスティもダニエルも、あれだけ大騒ぎしてふたたびくっついたってのに。
だからきっとイザベルとラスティは、ちょっとしたケンカをしているだけなのだ、と。
ケンカのあんまり他愛なさ過ぎて、人に話すのもためらわれるくらいのことで、だからこそどちらかから謝って修復できるようなものでもなくて、２人に必要なのはただきっかけだけで。
「じゃあ仲直りするの？」
「俺はそう思ってる。映画には出てこないけど、きっとラスティはこっそりイザベルに電話している。カッコつけてるから人前ではそんなことおくびにも出さないけど。『おみやげ買っていくけど何がいい？』とか聞いてるに決まってる」
ブラッドはあたりまえのことのようにそう言った。「俺だったらきっとそうする。だからラスティもきっとする」
自信満々だった。
「そうなんだ……」
「そう。だからあの２人は絶対に別れない。俺たちみたいにな」
「……ばれちゃった？」
恥ずかしそうにそう言ったエリックの、鼻に今度は啄ばむようなキスをした。
「当前。３年くらいで、そんなもったいない」
「なら……よかった……」
ちょっとじんわりしながらエリックが言った。
「当たり前だって、まだ今年の誕生日も祝ってないんだぞ」
もうすぐエリックの誕生日だった。
「今年は誕生日も一緒にいような。もちろんプレゼントも用意してあるし。２人だけがいいからパーティはナシな。それともエリックはにぎやかにやりたいか？」
「いい……２人で」
しようがないなとか、ちょっと心細くなったんだなとか、かわいいやつめとか、いとしいなあとか、すいったものが全部詰まった目でブラッドはエリックを見つめた。
プレゼント楽しみになとキスをするブラッドに、ブラッドがいてくれればそれだけで最高のギフトだよ、とエリックが答えた。
それが何十回目かのキスのはじまりで、カウント出来ないほどの愛情の交歓の始まりの合図でもあった。
目標は、海１３ジャパンプレミアに触れていて
海１３の内容に触れていて
トロイの撮影時の思い出話が出てくるかもで
しかもえりりんのお誕生日話
というこれでもか！な感じ、だったのですが
……どうにかクリア出来たかな？
ちーさんはきっと海１３のジャパンプレミアに来るだろうから
それがらみで書こうと思っていたのに（涙）。
でも海１３におけるイザベル見解が書けて幸せです♪
えりりん！誕生日おめでとう！
３０代最期の年をどうか満足の行くように
過ごしてください♪