「おはよう」
「ああ、おはよう。……早起きだな」
見計らったように、紅茶のいい香りがただよってきた。
「目が覚めてしまってね。ほら、熱いから気をつけて。アーリーモニングティーでも飲んで目を覚ましちゃどうだい？……もう『アーリー』が取れそうな時間だがね」
苦笑しながらティーカップを差し出す男が、もうしっかり服を着て、「さあ朝ですよ！」とばかりに１日を始めてしまっているのが気に入らなかった。こっちはまだハダカだっていうのに！
もうちょっと朝のひとときをベッドでぬくぬくして楽しもうという気がないんだろうか？肌寒くなって、熱い紅茶がおいしい季節になってきたからこそ。
「ありがとう」
カップの中の澄んだ赤を覗き込む。
好みは知られているから、ミルクもレモンも蜂蜜もなしで、砂糖がスプーンに小匙半分。きっかり計ったように入れてあるはずの、赤い熱い液体がくるくるとうずまいている。
じっとのぞきこんでいるうちに。「ショーン」
「なんだい？」
ポットをテーブルに置いて、自分用のカップに口をつけている。さすが英国人というべきか、コーヒーよりも紅茶を好む。特に、朝の１杯はことのほか美味そうに飲む。でも、、それももう終わりだよ、ショーン。
「ミルクが欲しいな」
「え？」
「ミルクをくれないか？」
「ごめん、いつも入れないもんだから……！」
あわてて立ち上がろうとするあんたの袖をつかまえる。
「そうじゃなくて」
「？」
「だからミルク」
意図してにっこり笑ってやる。あんたがこの顔は、好きで嫌いだと言った、アノ顔。
「ねぇショーン、ミルク」
そっとそこに触れば、イヤでも分かるだろう。たちどころにあんたは真っ赤になった。
「な！なっ、ななな何を言い出すんだ！！」
「何か？ショーン？ただ、たまにはミルクティーが飲みたくなっただけだけど？他に何か？」
もう一度、笑う。でも、手は離さない。
少し力を入れてみる。
「ねぇショーン、ミルクをくれないか？」
多分、『アーリー』モーニングティーは、『アフタヌーン』ティーまで持ち越されることになるだろう。きっと。