「いいところだな」
エリックがそう言ったのは、ブラッドが足元をあやうくする波に、少し足を取られかけたときだった。
「だろう？」
おっとっととなってよろけたブラッドを、エリックがつないだ手越しに支えた。
「大丈夫か？」
「ちょっと油断した」
ブラッドは笑ってそう言った。
引く波は、足元の砂を、狙い済ましたように持っていく。素足で歩くには、よほどの用心が必要だった。
「まあいっそ、このまま泳ぐのもいいか」
エリックは、日差しがまぶしくて手をかざして前を見つめた。
あたりに人影はなかった。どこまでつづくのか見当もつかないような、長い長い砂浜だった。砂の色は白く、海は青く、ときどき現れては消える雲も白く、世の中の、人間以外の色はみんな、白と青しかないんじゃないだろうか錯覚しそうだった。
「このまま？服着たまま？」
そういった突飛なことをしたがるのは、エリックよりもブラッドの役割だったはずなのに。「どうせもう濡れてるし」
確かに、半ズボンなブラッドと違って、ジーパンのエリックは、すでに裾が濡れ放題で、とっくに色が変わっていた。
「でも、着替えがないな」
ぶらぶらと、手をつなぎながら歩いていた。歩いた先に、何があるのかも分からずに。
「着替えなんて……この日差しだすぐ乾く」
「それで塩をふくのか？」
それはちょっと願い下げだな、とエリックは足先で来た波をすくって、ブラッドの足に引っ掛けた。
「やったな！」
「やったがどうした！」
手はつないだままだったので、ひとしきり足で水を掛け合った。
手はつないだままだったので、それ以上離れることは出来なかった。「ここちょっと、『トロイ』の浜辺に似てるな」
「あああの、ギリシャ軍が船で来たあそこか？」
２人はまた、海と砂を蹴立てて歩いた。こうしていると足腰が丈夫になるかな？とかなんとか言いながら。
「そう。それであっちに、アポロンの神殿があれば……あるな」
「何の址だろう。相当古そうだな。何かの土台の址かな？」
「行ってみようか？」
まだちょっと、距離はありそうだったが、急ぐなにかがあるわけではなかったので。
日はまだ、充分に高かったので。
「そうだな。探検してみようか」
エリックはにっこり笑ってそう言った。
「もしかしたら、お宝でもあるかな？」
「何か遺物でも残っているかも？」
異次元への扉が、いや宇宙人の秘密基地がと、２人の楽しい想像はずっとつづいた。
いつでも、いつまでもずっと。