「朝だな」
「ああ……もう朝か……」
そう言いながらバットマンはあくびをした。
「おいおい朝からあくびか？」
「バットマンは夜型なんだ……」
ちなみにいつもならもうとっくにベッドの住人だった。
油断をするとこっくりこっくりしてしまいそうなのに、高層ビルの突端に彫像のように立っていても決して落ちたりしないのはやはり、あのヒマラヤでの厳しい修行の賜物だった。髭のおぢさんありがとう。
「わたしは昼型なんだおいこら起きろー！バットマンだろー！」
「……関係……むにゃむにゃ……はっ！」
「やっと起きたか」
ふーっと汗を拭いながら、昼型超人は安堵のため息をついた。
超人の手には水筒とセットの、小さなカップが握られていた。中には、湯気を立てているほかほかの。「これでも飲んで血糖値を上げろ。ほら、火傷するなよ」
甲斐甲斐しく持たせてやって、口をつけるとその熱さ甘さに、バットマンも少しは目が覚めたようだった。
「あー目が覚めるー」
「……そりゃそんな歯の浮きそうなココアを飲めばな……」
「何か言ったか？」
「いや」
払暁の中、守護神たちが目覚めようとする街を見下ろしていた。
「怪我の具合はどうだ？」
「このまえのか？もうすっかりいい」
「どうだか」
苦笑してまぜっかえす超人に、バットマンはカップを差し向けた。超人は丁寧にそれを謝辞した。うっかりそんなものを飲もうものなら、今はもうない星までも、飛んでいってしまいそうだったからだった。「怪我はもう、アルフレッドもあきらめている」
「そうか」
「でも死んだりしないようには気をつけている」
「当たり前だ」
「死は、ある日突然やってくることがある」
「……ブ……」
「考えもしなかったタイミングで」
「……」
「失うことなど考えてもみなかった人でも」
「……そうか」
「ああ。だからわたしは死なない。『バットマン』は死なないんだ」
「そうだな……」
しかしそのためには早く帰って寝ろ、と言うとこれを飲んでしまってからにする、という答えが返ってきた。
払暁の街の、高層ビルの突端で。