「……という訳なのよ、ブ……じゃなかったバットマン」
「そうか。するとこうなるのか？」
「ええ、確かよ。それでブ……じゃなかったバットマン今後のことなんだけどね」
「……ドーズ検事補」
「あら水臭い、レイチェルと呼んでちょうだい」
「いちいち訂正するのはやめてくれないか？」
「まあ、そんな失礼なことは出来ないわ！名前はきちんと正確に呼ばないと！」
「なら呼び間違うのは止めてくれないか？」
「努力するわ。ブ……じゃなかったバットマン」
ドーズ検事補にはまだ一人の部屋は与えられてはいなかった。
だからみんなが引き上げたあとの閑散としたオフィスが、バットマンとの連絡を取り合う場所となっていた。紆余屈折の末、警察のみならず検事局にも仲間を得たのは喜ばしいことだったが、好評活躍中の美人検事補にあっては、さしものバットマンもかたなしだった。「仕事の話は以上！夜食にしましょう！」
差し入れがあるのよ、とレイチェルはデスクの引出しから、ごそごそと紙袋を取り出した。
「いや……わたしは……」
「なぁに、家に帰るとおいしい夜食が待っているの？いいわねぇ」
でも私はこれが夕食なの！つきあいなさい！と言われれば、弟のようなものであるバットマンの中身はもう、姉のようなレイチェルに逆らいようもなかった。
「私のはこっち。あなたのはこっちよ」
「これは……」
バットマンの手に押し付けられたのはベーグルサンドだった。なにやら甘い匂いがした。
「ベーグルサンドよ」
「それは見れば分かるが……まさか君が？」
「安心しなさい、差し入れだから」
失礼ねぇ、と笑いいながらレイチェルは言った。「検事局の、あなたのファンからよ」
「ファン？」
「そう。今度会ったら渡しておいて、って」
悪くならないうちに会えてよかったわ、と言いながらレイチェルは自分の分のレタスののぞいたベーグルサンドにかぶりついた。
「あなたのはチョコバナナサンドとハニークリームパイナップル味よ」
だから安心して食べなさい、ミルク飲む？と聞くレイチェルに。
「どうしてそんな……」
「私が言ったのよ。きっとバットマンなんてやっていたらくたびれるだろうから、甘いものが嬉しいんじゃない、って」
「……ありがとう……」
はいミルク、冷たいけどと差し出した、１リットルパックそのままから、レイチェルは豪快に一口飲んだ。「甘いものって本当にいいわよねぇ。この間つくづくそう思ったわ」
「この間？」
「あなたに途中まで送ってもらったときよ」
「……ああ」
「家まで送り届けてくれたアルフレッドさんが、目が覚めたらおあがんなさいって、キッチンにクッキーを置いていってくださったの。アンプルを届けたあと帰ってから気づいたんだけど、甘いものが疲れた身体に染みたわ。特に屋根の上で夜明かしした身体には効いたわね」
「その節はどうも……」
「あら！助けておいてもらって恨み言なんて言いやしないわよ！降りる時にはものすごく苦労しただなんてそんな恩知らずな！」
「いやその……」
しどろもどろのバットマンに、レイチェルは牛乳パックを押しやった。
「さ、これ飲まないと返さないわよ。誰かさんのいれた、砂糖入りホトｔミルクには負けるでしょうけどね」
にっこりと、姉のように笑いながら。