「ハッピバースディつーゆー♪」
ラスティは、歌いながらそれを持ってきた。それ、すなわち――――エリックのバースディアイスクリームケーキを。
「……ありがとう、ラスティ」
エリックはちょっとかしこまりつつ、ちょっとあきれつつ、ちょっとよろこびつつ答えた。
ここはラスティのホテルの屋上だった。８月の暑いさなかだというのに「冷たいものを食べるんだから、クーラーのきいたところもいいけど、やっぱ暑い場所だよね」という主張のもと、ごちゃくただったこの場所を、急遽掃除してテーブルセットにパラソルなんかも持ち出して。
それなりの日差しはあるので、日影くらいはないとやっていられなかった。シュワシュワ花火をたくさんさしてあるアイスクリームケーキをエリックの前にうやうやしく置くと、ラスティも向かいの椅子に腰掛けた。向かいといってもごく小さなテーブルなので、うっかりしたりわざとすれば、お互いの足は当たり放題だった。
その席も、エリックはパラソルで日影を作っていたが、ラスティはフリルのパラソルなんぞをおしゃれにさしていた。なんでも楽しむラスティが、サングラスをして、るんたったとパラソルをさしている光景は、ちょっとキモチワルかったけれども。
ちなみに、居ながらにしてビーチでリゾート気分を演出しきっているラスティの前には、さらなる演出の一環で大振りなグラスにフローズンな飲み物が、花火と小さなパラソルつきで置かれていた。
「ささ、どうぞ。俺が作ったんだ♪市販のを固めなおしただけだけど」
ラスティは舌をぺろりと出してそう言った。バースディケーキはしっかりと丸くきれいに縁取られていて、上には花の砂糖漬なんがかセンスよく飾られていて、さらには２段になっていた。すごい、としか言いようがなかった。
しかもそれを、全部エリックに食べろと言うのだ。腹を壊すんじゃないだろうか？と思いつつ、エリックはまずは一口、とフォークを差し入れた。「……クッキー？」
外側は白一色でデコレーションされていたが、切り取った中身には点々と黒いものや茶色いものがちらばっていた。しっとりしているものの、噛み応えはあるそれは紛れもなく。
「そうクッキー。砕いて入れてみたんだ。食感が違ってて面白くないか？」
「うん、美味しい……食べやすいし」
丸いケーキ型で、２段でと、ちょっと腰が引けてしまいそうではあるが、大きさ自体はさほどでもないので、もしかしてこれなら食べられるかもしれない、とエリックは思った。ほむほむと食べていると。
「ついてるぞ」
ごく自然にラスティの手が伸びた。伸びて、そしてエリックの口元についていたクリームを指ですくいとり――――舐めた。
「――――っ！」
エリックは思い切り飛びのいた。「ん？」
しかしラスティは平気の平左で――――さすがアメリカ人は違う、とエリックは訳の分からない納得の仕方で、バクバクしている自分の心臓を落ち着かせようとした。あまり成功しているとは言いがたかったが。
「溶けるぜ？」
ぺろりと舐めて、フローズンドリンクをスプーンでしゃくっているラスティのその、手の動き頬の動き舌の動きなんかに目を取られて、エリックはますます。
「いや……ちょっと……」
不整脈がひどくなる気がしてならなかった。
「エリック？」
ラスティの手が、今度は気づかいのために伸ばされた。その指が届くか届かないかの間に、エリックはびくりと肩をすくませた。「エリック……」
ラスティが今度は、ドリンクをわきに追いやって、テーブルの上に足をかけた。やわなテーブルが悲鳴を上げた。上手くバランスを取りながら、ラスティはエリックに手を伸ばし、そして――――。「」
「誕生日おめでとう、のキスしても、いいか？」
エリックはラスティに顎をつかまれた手に顔を埋めるようにしてうつむいていた。「」
「……どうぞ」
パラソルの影の下で。パラソルに隠れるようにして
天下の大泥棒にしてカードゲームの魔術師は、盗みもせずにめずらしく、お伺いを立てたキスをしたのだった。