「パリス……？」
どうしてここでパリスの名前が出てくるのか、ヘクトルにはまったくわからなかった。
「パリスがどうかしたのか？」
だからこんな風に、あっけらかんと聞くことが出来たのだった。アキレスはそれがかえって、取り返しのつかないことになっているのだと思われた。だから、本当はこんなことを聞きたくはなかった。
「愛……しているん、だろう？」
今ここにいるヘクトルを抱きしめて、出来ればかっさらって、出来れば……しかしそのアキレスの小暗い物思いを消したのは、他ならぬヘクトルだった。
「パリスを？そりゃ、弟だから嫌いではないが……」
「はぁっ！？」
「どうした、アキレス？」
傷の手当てをしてもらっていたヘクトルは、耳元で叫ばれたにもかかわらず、反対にアキレスに問い返した。「パリスが弟ってそりゃいったい……」
どういう冗談なんだ？とアキレスは言いたかった。髪が黒くて巻き毛だとか、目がふたつだとか、口が一つとかいったところ以外は、全然似ていないじゃないか！とアキレスは言いたかった。ヘクトルがじっと見つめていなければ。
「うん、最近分かったんだが……えーとその、ダースベイダーになる前にわたしたちを設けたらしくて……それが知れたら危険だからと、亡き父たちが実子として別々に引き取ったということなんだ」
今明かされる衝撃の事実に、アキレスは心底ビックリしていた。
「そうだったのか……」
「で、パリスがどうしたんだ？」
かわいらしく小首を傾げるヘクトルは、アキレスの返事を聞くことは出来なかった。
喜色満面のアキレスに、今度こそ思い切り抱きしめたからだった。
「アキレス……」
その夜は銀河全体の大まつりのようだった。
頭の上にのっかった、特大サイズの漬物石のような帝国の最後を喜ばないものはおらず、全世界を挙げての大祝賀会も同然だった。
アキレスたち地上部隊の作戦における最大の功労者たるイウォーク族たちが会場を提供した。高い木の住まいまで登るのも、風がすーすーするのも気にならなかった。彼らが振舞う精製されていない酒も、今までに飲んだどの酒よりも美味かった。パリスたち要塞部隊はまだ帰還していなかった。
あちこちの星からの喜びのニュースが、光よりも早く星々をめぐっているのに、ぶつからないといいのだが。そんなことを考えて、酒瓶ひとつを抱えて天を見上げたアキレスは、消え入りそうな声がヘクトルのものであることに気づくと、すぐにそちらを向いて言った。
「どうした、ヘクトル。飲んでるか？」
アキレスが機嫌よく声をかけても、ヘクトルはなかなか姿を現さなかった。やっと明るい場所に出てきたヘクトルは、濃い青の、オルデランの正装のような衣を身にまとっていた。イウォーク族にもたいそう気に入られたヘクトルにと、とりあえずの着替えとして渡されたものだった。アキレスたちは着替えなど不要と断ったのだが、皆が皆、ヘクトルが着替えることには大賛成したからだった。
「よく似合う」
アキレスが酔いのまわって赤らんだ目元をさらにほころばせて言えば、ヘクトルは安堵したように微笑んだ。しかし、来い来いと誘うアキレスの隣には座ろうとはしなかった。
「どうした？」
「アキレス、あの……」
ヘクトルはほころばせた表情をまた曇らせて口ごもった。何かあったのかと、アキレスも立ち上がってヘクトルのそばに行った。
「どうした、ヘクトル？」
「あの、アキレス、その……」
アキレスはヘクトルが口を開くのを、辛抱強く待っていた。
「パリスたちがやってくるのは、もうしばらくあとになりそうなんだ……」
「そうか」パリスがヘクトルの弟だと分かり、それ以上のものとは思っていないことを知った今は、パリスの名を聞いても、以前ほどは眉間に皺を寄せなくなっているアキレスだった。しかし、そんなことをわざわざ言うとは、心配なのだろうか、とアキレスは考えた。
「お祝いの乾杯も済んで、みな好きにやっているし……」
「そうだな。楽しんでいるようだ」
アキレスはあたりを見渡してそう言った。
「だから、その……それまでに戻ってくればいいと思うんだ……」
「ヘクトル……」
「パリスたちが戻ってくるまでに。だから……」
ヘクトルの意を悟ったアキレスは、皆まで言わせなかった。アキレスたちのいる場所が、騒がしさを嫌ってはずれた場所にひっこんでいたのをいいことに、ヘクトルを抱き寄せ、そして――――。
「……いいのか？」まだ息がかかるほどの距離のまま、アキレスはヘクトルに念を押した。しかし、もしここで『やっぱり駄目だ』と言われても、引き下がることなど出来るだろうか、とも思った。それでも確かめておきたかったのだ。
「……アキレスになら……」
ヘクトルは頬を赤らめてうなずいた。その姿を見るアキレスの、頭の中には鐘が鳴っていた。
全銀河が解放されたことを祝う鐘よりも、もっと強く激しく打ち鳴らす鐘の音が。
「わっ！」
「どこにいく？どこでもいいぞ」
「ア、アキレス…あぶ…、あぶない……いや重い……」
「落とすものかよ、あんたを！さあ、ヘクトル、行くぞ！」
そう言ってアキレスは、イウォークの住まいを飛び降りた。
その腕にはどんな多額の報酬よりも得難い、全銀河よりも貴重なものをしっかりと抱いていた。
ここであのテーマ曲を思い出してください（笑）。
（出てくる人たち）
アキレス……ハン・ソロ
ヘクトル……レイア
パリス……ルーク
オデュッセウス……ランド・カルリジアン
エウドロスとパトロクロス……チューバッカ（出てこない人たち）
プリアモス……ダースベイダー、ってことになるんでしょうねぇ。
アガメムノン……皇帝、これしかあるまい！
テクトン……ベイル・オーガナ、なのだろうかやっぱり。