やはり下調べは大事だろうと、ブラッドは考えた。
ある程度見当はつくものの、ここはやはり本職の教えを乞うのが早道だろうと。
そこでブラッドは、イーストエンドではいつなんどきエリックとばったりしてしまうか分からなかったので、河岸を変えることにした。ついでに街に立つ男娼ではそこまでの知識や用意をしていないかもしれないことも考慮に入れて、男性専門の男娼のいる館へ足を伸ばすことにしたのだった。
しかし、うっかり中で話を聞くことにしては、どこでどうまわってどういう誤解を招くか知れたものではないので、連れ出しＯＫの店にベテランを見繕ってもらった。
最初は普通に相手の好む場所で仕事をするのかと思っていたベテランは、ブラッドがほどほどの店に連れて行き、個室というほどではないが人の耳を気にしないで話を出来るところに行って、これこれのことを教えてほしい、と頼まれるに及んで、ちょっとがっかりしつつ、面白がって色々教えてくれた。
「本当になにもしなくていいの？練習とか？手伝うよ〜」
「いやそれは気持ちだけで」
「その人に遠慮して？すっごーい」
何でも頼んでいいといったので、年は若いがベテランは、それじゃあれ、これと食べたいものや食べてみたいものをたくさん注文していた。食べ切れなかったら持って帰ってもいい？と聞いてから。
「うまく行くといいね、おにいさん」
若きベテランに悪気なんてこれっぽっちもなかったのだろう、気のいい奴だったしブラッドにとってはためになる話がたくさん聞けたのだし。ただちょっと、劇的に間が悪かっただけで。店を出てほんのしばらくの間一緒に歩いていた。別れるときに、からめていた腕をほどき、それからベテランは「がんばってね！」と言って、ブラッドの頬にキスしただけだった。
それはお仕事をしないでお金をくれてご馳走してくれた相手への純然たる感謝の気持ちだったし、激励の意味もあった。それだけだった。だからベテランは、笑って手を振り去っていったのだった。ブラッドとは反対の方向に。それは幸いだった。同じ方向を見ていたらとても、スキップせんばかりの足取りで、今日はもうけちゃったな〜♪などと言うことは出来なかったはずだった。
「エリック……」
ブラッドの行く先に、エリックが凍りついたようにして立っていた。あいにくエリックはしっかり見てしまっていたのだった。仲睦まじげに男娼と腕を組み、別れにさいしてはキスしていたところを、それはもうばっちりと。
「エリック……待って！」
ブラッドが声をかけたのが合図だったように、エリックは走り出した。地の利というなら５分と５分だったが、暮れかかる空と、人ごみがエリックに味方した。
「エリック……！」
なんだなんだという顔をしながら、どいてくれたりわざとぶつかったりする通行人をかきわけて。
「エリックっ！！」
ブラッドは胸が破れようとも、との覚悟でエリックを追い続けた。