「――――ただいま」
「おっかえりぃ！おつかれさん、ブルース！」
「お邪魔してまーす」
今日も今日とてバットマン稼業にいそしんできたブルース・ウェインは、すでに我が家同様にしている来客たちに迎えられた。
「来ていたのか」
蝙蝠頭を置くと、中から現れたのは、プレイボーイの大富豪がきれいなねーちゃんたちをへばらせての遊び後などよりも、よほど楽しそうなブルースの笑顔があった。ティムとディックは、仲良しの近所のおにーちゃんか、つきあいのみつな従兄のようなブルースのその様子に、嬉しげに目を細めた。
「こんな時間に良いのか？」
「もう、冬休みだから」
「泊りがけで遊びに来ました！」
びっくりした？びっくりした？とティムはブルースの顔を覗き込んだ。
「知っていたな」
「はい、存じておりました」
帰ったらまずうがいと手洗い、を済ませると、アルフレッド謹製の体の温まる風邪予防も兼ねた飲み物が運ばれてきた。知らないものが見ればそれは、ホット青汁と思うかもしれなかった。
一息にそれを干すブルースを、ティムもディックも賞賛の眼差しで見たのだった。彼らがブルースってすごい！と思うのはそんな時、もあった。
「ちょうどいい」
「え？」
「数が足りてよかった」
「はい？」
「土産だ」
ブルースが隠しから取り出したそれは――――。
「たいやき……」
「大判焼き……」
だった。
「仕舞ってきたのだが……冷めてしまったようだな」
ブルースは心底残念そうにそう言った。
「あたためなおしてまいりましょう。それとも軽く焼きますか？」
ブルースが取り出した紙袋を、アルフレッドはうやうやしく受け取った。
「そうだな……」
「それでは、あたためなおして、それから焼きましょう。そのほうがぱりっといたしますから」
アルフレッドの申し分のない提案に、眉根を寄せて思案していたブルースの顔が、ぱっと輝いた。
「そうしてくれ、アルフレッド」
「かしこまりました」
そう言ってアルフレッドは下がっていった。
この、バットマンの秘密基地にも必要だろうと、簡易キッチンはちゃんと作ってあった。
ブルースにとってそこは、神聖犯すべからざる、アルフレッドの魔法の砦に等しかった。なにしろホットミルクを作ろうとして、爆発させた過去を持つからにして。
「たいやきと大判焼きか」
「嫌いだったか？」
「んーん。ただあんまんがないのが以外だったなと思って」
「あんまんもあったのだが……それはあいつが……」
ブルースはうつむいて言いよどんだ。みるみる頬は赤らんでいった。
「……なんとなく聞きたくなくなってきた」
「ってか買い食いありなの？ここんちって」
「夜中にひもじい思いをしてから、アルフレッドさんが小銭を持たせるようにしたって話だよ。ほら、屋台でカードは使えないから」
「そういう問題じゃないような気がする……」
小声タイム終了。
「お茶いれよっか、ブルース」
「着替えている間に用意しておくよ。緑茶が良いよね？」
「あ、ああ、頼む……」
これ以上、聞きたくない話に突入するのを防ぐと共に、ブルースの物思いタイムも終了させるべく２人は立ち上がった。
「たいやきと大判焼きとあんまんか……」
「どうかした、ティム？」
「それをいったいどこに仕舞っていたんだろう……」
「ウェイン社製品はすごいねぇ！」
「そういう問題じゃない気がする……」
呟く若人２人と、今度は肉まんも買おう！と決意する若者と、ほどよくたいやきと大判焼きをあたためる熟年と。ウェイン邸はあんこの甘い香りで満たされたのだった。