「サイズ大丈夫でよかったな、ブラッド」
「なにしろ生きたボディスタンがあるようなもんだからな、エリック」
「でも『トロイ』の頃より筋肉落ちちゃったし……」
「どれ？あ、本当だ」
「どーこーを触ってるか！」
「エリックの魅惑的な胸」
ブラッドはちょっと怒ったエリックにしれっと答えた。ニューイヤーカウントダウンパーティ会場でのことだった。
にぎやか好きの友人に招かれた会で、なんでもありの無礼講になるのは分かりきっていたので、ちょっと変わった連中もも連れて来たのだった。どういう理由で現れたかは分からなかったが、他人とは思えないあの古代の英雄たちを。
「………」
「……また見惚れてる」
「だって、かっこいいじゃないか……」
エリックの視線の先では今まさに、ダンスフロアでアキレスがヘクトルを軽々と抱き上げてショーダンスのようにくるくる踊っているところだった。
「……いいけどね、同じ顔だし」
ちょっと不貞腐れながらブラッドは言った。今は撫でたらふこふこそうな頭になっているブラッドが。
「………」
「涎垂れるよ、ブラッド」
「あ？」
こちらに気づいたヘクトルが手を振っていた。アキレスの腕の中で、それはもう、楽しそうで幸せそうなヘクトルが。
「いいけどね、別に」
撮影中は地毛プラスヘアピースだった。もともとヘクトルのような長いくるくる巻き毛はない、それを惜しく思いながらエリックは髪に手をやった。
『伸ばそうかな……』
『えっ！？』
はからずもハモってしまった呟きに、エリックもブラッドも驚いた。驚いて顔を見合わせている間に、音楽は終わり衆目を集めたアキレスとヘクトルのダンスは終わってしまっていた。
「いや別に、エリックはそのくらいの髪でも充分！手を差し入れるのにはちょうどいいし」
「ブラッドはいがぐり頭もかわいいよ……掴んだりは出来ないけど、手触りいいし」
今度もほぼ同時にそう言いあった。どちらも相手の言い分が頭に染み込むと、どちらもそろって照れて下を向いた。
「エリックのこと好きだよ。ヘクトルもいいけどやっぱりエリックだよ……」
「ブラッドもかっこいいよ。アキレスはあれはちょっとわたしの手にはあまるし……」
もじもじしながら下を向いたまま、手を差し出しあって指先を握りあって。ブラッドは思い切って、エリックにきゅっとキスをした。エリックは最初は驚いたが、すぐにえいやっと目をつむっておかえしのキスをした。
「エリック……」
「ブラッド……」
「おーい」
そのまま盛り上がるままに、そこでそのまま？それともどこかへ移動して？と思っていた２人に。
「先戻ってるぞー！」
「え？あ？道分かる、の？」
「覚えた」
声の主はアキレスだった。その腕の中には、当たり前のようにヘクトルがいた。
「さすが……」
そのままアキレスは、誰の注意もひきつけずに窓の外の闇に溶け出すようにして姿を消した。
「ヘクトル大丈夫かな？なんだか気分が悪いみたいだったけど」
「あー、それはだな、きっと……」
「うん」
ヘクトルの不調の理由の見当がついたブラッドは、視線を泳がせながらエリックの疑問に答えた。
「きっと……」
つづく言葉は、エリックの耳の中に注いだ。ついでに耳にもちゅっとキスを送り込んで。
「え、あ……そ、そっか」
聞いてエリックも真っ赤になった。心なしかもぞもぞしている。ついさきほどまでのことを、思い出したのかもしれなかった。
「俺たちも、どう……エリック？」
本式だなぁ、とさっきエリックは羨ましそうな声を出していた。アキレスとヘクトルのそれを見て。
ブラッドはそれを再現すべく、エリックの手を取って誘いかけた。
「え……いいの、かな？失礼じゃない？」
「いつ来てもいつ帰ってもＯＫってのがあいつのやり方だから」
「そ、かな……だったら……」
エリックは恥じらいながら言った。ブラッドはそれを見て、食べちゃいたいほどかわいい、とはどんな気持ちになのかを実体験した。
「それじゃ参りましょうか、エリック」
「うん……」
エリックの手を取ったまま立ち上がって、そのままその手に、手の甲に、ブラッドはうやうやしくキスをした。
「ブラッド！」
驚いて声を上げるもエリックは、見上げるブラッドの視線に射すくめられるようにしてそのあとの言葉を失った。
「行こうか」
「うん……」
こうしてエリックもまた、ブラッドに抱きかかえられるようにして会場を後にしたのだった。
ヘクトルと同じように、自ら望んでその腕の中に。