「……わたしは掃除は苦手なんだが……」
ロスのモーテンセン家のリビングに掃除機をかけながらショーンがぼやいた。
「ショーンが来ると家の中がキレイになって助かるよ〜」
キッチンでワインたっぷりのミートソースをこさえていたヴィゴは陽気にそう答えた。
「それなのにどうして……？」
掃除機をかけ終えたら次はモップかけ、そのモップに腕をかけながらショーンは首をひねった。
「役者稼業が嫌になったら、家政夫でも食っていけるよ、うんうん」
ミートソースの味に満足のいったヴィゴは鍋を火から下ろした。
「まあ宿代がわりだと思えばいいんだろうけどね……」
「掃除が終わったらお茶にしようぜ〜焼き栗があるんだ♪」
「そりゃ楽しみだ」
掃除をする手にも、料理の作りおきをする手にも、やがて来る『お茶の時間』はよく効いたのだった。「栗うまいなぁ」
「このお茶もなんともはや」
ぱりぱりぽりぽりぽりといい音を立てながら、２人はプールサイドに並んで座りながら栗とお茶を楽しんでいた。
「しょっぱいものもあるんだ」
「へぇ」
「甘い物を食べるとしょっぱいものが欲しくなるだろ？」
目の前には見事な夕陽が落ちようとしていたが、そんなものは口を動かすのに忙しい２人の目にはあまり入らなかった。もぐもぐしているときに、少しは見れていたが。
「じゃーん！ジンジャーブレット！！」
「……また面白いものを」
「いやイギリスで食べてから癖になっちゃって……似たのがないから作ってみたんだ」
ささ食べて食べてとヴィゴは勧めた。
「この前キッチンからやたらショウガの匂いがすると思ったのはこれか」
そう言ってショーンは母国で見たのとよく似たジンジャーブレッドをひとつつまんだ。「あ、本当だ」
「え？」
「本当に国のと同じ味がする」
「やったー！成功！！」
一口食べてそう言ったショーンに、ヴィゴはバンザイして喜んだ。
「このお茶とも合うよな。これ好きなんだ。ショーンのおみやげの」
「向こうじゃスーパーにも売ってるのだけどね」
「でもこれが好きなんだ。袋に入っているからポットを洗うときにも手間がかからなくていいし」
「それで人気があるみたいだけどね。気に入ってくれて嬉しいよ」
しょっちゅうのことだし、しゃっちょこばったおみやげは好かないから、いつもスーパーでも売っているような、土地の者が飲み食いするようなものばかりを持ってきていた。またそれを、ヴィゴが喜ぶものだから。
「明日は俺がこっちの美味いもの紹介するよ。アイスクリームの美味いスタンドと、タコスの美味い店があるんだ」
「それは楽しみだ」
宿代がわりの労働と代価と、２人はいつもそれを楽しんでいた。
いつも、２人で。