「エリック！こここれはいつたいっ！？」
驚きのあまりブラッドの声は裏返ってひねってスライディングまでしているようだった。そのときどきでとんでもない声が出ているのだった。
「ああ、それ。……見たの？」
ブラッドが手にしている雑誌をちらりと見るとエリックは苦笑いしながら言った。ロスのブラッドの隠れ家で、ちょっと出てくると買い物に行ったブラッドが、あっという間に帰ってきたと思ったらその雑誌を手にしていたのだった。
「見たとも！本屋の中で見たから、叫ぶわけにもいかなくてそりゃあ苦しかった！でも吹いた！」
わなわなと震えるブラッドの手の力で、やわな雑誌はかわりしわしわになっていた。あーあ、とため息をつきながらエリックは言った。せっかくないしょにしていたのに。
「そりゃお気の毒に」
まわりに人いなかった？と冷静に心配するエリックにつめよってブラッドは言った。まるで決定的な浮気の現場を見てしまった配偶者のような剣幕だった。「どういうことなんだ、エリィックっ！？」
エリックはブラッドの持っている雑誌を受け取り問題のページを開いて見た。ちなみに２９８ページ。
「ハリウッドで仕事してる俳優の、セクシー写真って企画なんだって」
それなのにどうしてブラッドにはお声がかからなかったんだろう？スケジュールがあわなかったのかな？と首をひねっているエリックの、胸倉をつかみかねない勢いでブラッドは言った。アップで見てみたら、思いつめたような目は血走っていた。
「そんなこたぁどうでもいい！なんだこの……卑猥な写真は……」
卑猥と来たかっ！と思うと笑ってしまいそうだったが、それはあんまりに気の毒な気がしたので、エリックはぐっとこらえた。しかし仮にも人の水着姿をわいせつ物扱いするというのはいかがなものだろうか？そりゃ確かにちょっと、出来上がり写真を見て、某プレイボーイ？のおとなしめ？みたいだなぁとは思ったが。
「卑猥って……そんなにひどい？」
「ちがう！誰にも見せたくないだけだ！！」「へ？」
かなりまぬけな声を出してしまったと思う、それから顔も。でも反射的にそうなってしまったんだからしかたがない。
「……どしてそうなるの、ブラッド？……だって『トロイ』のときも『ミュンヘン』のときも、『ハルク』のときだって」
脱いでたのに。結構あっちだってセミヌードだったけど？ミニスカートまで履いちゃったしと言うとブラッドは。
「それもイヤっ！！」
イヤってブラッドさん、現役のちびっ子じゃあるまいし……とエリックが口をあんぐりしていると、ブラッドはそんなエリックをゆるく抱きしめた。
「なあ、褒めてくれよエリック……」
「ナニを？」
今のあなたの、いったいどこを堂褒めろと？
「こんなの見て、暴れたりしないなんて……俺ってなんてこなれた大人なんだろう……」
エリックの肩口に顔をうずめて、ブラッドは情けなさそうにつぶやいた。何言ってるんだこのハリウッドセレブ様は、と思いつつもエリックは、ブラッドの後ろ頭をぽんぽん撫でた。「あーえらいえらい。ブラッドは大人だなー」
「大人ってツライ……」
くすんくすんと泣きながらブラッドは、よりエリックに鼻先をもぞもぞとくっつけると。
「こーら、どこに鼻突っ込んでるんだ、ブラッド」
「エリックなぐさめて……」
なんだかなぁ。きっかけの口実にされただけ？と思いながらもエリックも。
「もーしょうがないなぁブラッドはぁ」
「うん、しょーがないんだ、俺……」
とかなんとか。
「ブラッドの甘えん坊」
「うん……」
どうにかこうにか。