「ブラッド、お待たせ！」
「や、別に。そんな待っても……」
「いるんだろ？ごめんごめん」
その日の待ち合わせは美術館の前だった。
お弁当を持って公園ピクニック！もどきの予定なのに、カフェだとそこで飲み食いしなくてはならないし、せっかく公園に行くのに人込みの中で待ち合わせるのも嫌だし……ということで、その大きな公園のすぐそばにある美術館入り口近く像のところで待ち合わせることにしたのだった。
「……バレたか」
アブナーが指差す方向には石畳があり、その石畳には待っている間の長さを物語るような、ブラッドが吸ったタバコの吸殻が散らばっていた。
「ごめん、遅くなって。……間際でちょっとバタバタしちゃって」
仲間と少しもめたのだ。すべるように上手く行くときもあれば、まったく停滞しきるようなときもあった。標的に当たるその時よりも、その時間こそが１番のチームの危機だった。
「弁当作るのに手間取ったんだろ？」
早く行こうぜ腹減った、とブラッドは言えないでいるアブナーを責めない笑みを浮かべ、アブナーの手からバスケットを受け取った。
「……ああ」
ブラッドの落としていったタバコの吸殻を素早く拾い集めるてゴミ箱へ。
それからアブナーも、ブラッドの後を追って行ったのだった。
「今日はキッシュにしてみたんだ」
公園のベンチで、バスケットの中身を披露しながらアブナーは、ブラッドにはい、とキッシュを一切れ手渡した。
「すごいな」
かなり家事をこなすと聞いてから、ブラッドはアブナーの腕前を賞味したがった。
店に入って飲み食いするのもいいが、こうして屋外で日を浴びながらいるのも好きなアブナーもそれに賛成したので、最近では昼に会うというとこうして、アブナーが弁当やお菓子を用意していくようになっていた。
この日のメニューはキッシュとピクルスとバケット、それからフルーツだった。
お茶はブラッドが、公園の売店で買ったものだった。
「面白いチーズをもらったんでな」
感嘆の声をもらすブラッドに、作ってみてよかった、とアブナーは嬉しかった。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
そう言って、２人一緒にキッシュを頬張った。まだほのかにあたたかいそれは、チーズのいい匂いとほうれんそうとベーコンの食感がいい感じに仕上がっていた。「確かに面白い感じだな」
あっという間に一切れ食べ、もぐもぐと二切れ目を食べながらブラッドは言った。
「ああ。もらいものなんだが、ロワーヌのチーズなんだそうだ」
「ふむ。キッシュ・ロレーヌをロワーヌのチーズで作ったわけか」
「洒落みたいだな」
自分で言って、自分で笑いながらアブナーは言った。
「うまけりゃいいだろ、どんなチーズでも」
「そうだな。口に合ってよかった」
「うまいからな」
アブナーがありがとう、と言おうとする前に、ブラッドがつづけた。
「あんたが作るものは何でも」
「……ブラッド……」
「あんたもうまいがな」
ピクルスの入った容器を持ったアブナーの、指先にキスしてブラッドは言った。
もちろん頬を赤らめるアブナーの顔を、意味深長な目で見上げるのを忘れずに。