「ど、……したんだエリック、それ？」
「いただいたんだ」
いつものアルバイトを終えて帰ってきたエリックは、抱えきれないほどの野菜を持っていた。しかも、どう見てもそこいら辺のスーパーマーケットなんかで買ったものではなくて、形のいびつさから考えても市場ものですらなく、家庭菜園か何かで作ったような不揃いさだった。
「うまそうだろ？」
しかしそれだけに熟れててからもがれたような野菜たちはとてもピチピチしていて、味も濃そうでどれひとつとっても美味そうだった。
「あ、ああ……」
エリックが嬉しそうにかざして見せたのは真っ赤によく熟したトマトで、ラスティとしてはトマトとエリックｔどちらに喉を鳴らしたらいいのか分からないほどだった。
「今日娘さんが来てさ、豊作過ぎて食べきれないからって置いてったんだ」
「なるほど」
エリックがテーブルの上に転がしたのは、トマトやじゃがいもそれからきゅうりといったそういつまでも取っておけるというものではないものばかりだった。じゃがいもはまだしも。
「店ででも使えばいいんだけどさ、何しろたくさんあって、車でどっさり運び込んだんだ」
「豊作過ぎるのも考えものだな」
形は悪いけれど、強烈な匂いを放つトマトを手にとってラスティは言った。
「そうなんだ。同じ菜園で作ってる人と交換したりもしたそうなんだけど……」
「似たような物を作っているからそれにも限りがある、ってか？」
「そうなんだ」
ラスティの鋭い指摘に、エリックは自分の不手際のようにすまなそうに言った。
なんでもかんでも自分のせいのような顔をしてしまうのは、エリックの悪い癖、そしてチャーミングな癖だった。
「乾燥トマトとか保存する方法を教えたら、こっちにまでおすそわけくれちゃって……いいって言ったんだけどな」
「……それはそうとエリック」
「うん？」
「その、髪にさしているのも『おすそわけ』なのか？」
ラスティは聞きたくてしようがなかったことをとうとう聞いた。
「え？あ……これ？」
エリックは耳の上にさしてある花に手をやった。取ろうとするのをおしとどめてラスティは言った。
「どこの花の精がやってきたのかと思った」
いとしげに、エリックの髪を梳きながら。
「何言ってるんだか」
取り合わずにエリックは笑った。まさかラスティが、１００％本気で言っているとは思わずに。
「菜園で一緒に作っている花だって。首のとこで取れたもんだから、こんな大の男にさしたって、しゃれにならないに決まってるのにねぇ」
いいやそれどころか、そのセンスのいい娘さんに乾杯だ！と思ったラスティだったが、賢明にも口を閉ざしていた。エリックにそれが、受け入れられるわけがないからだった。
「ラスティ？」
「かわいいな」
「ああ、この花？そうだな、ちゃんとしたのはお店に飾ってきたけど」
「うん、すごくかわいい」
「今度伝えておくよ。褒めてたって」
エリックはそう言って笑った。ラスティも笑った。
笑いの中身は、ちょっぴり違っていたけれども。