「甘いな」
「そう？」
飽きることなくキスを繰り返しているところだったので、ショーンがそう呟いたのは、ヴィゴのくちびるから５センチも離れていない場所だった。
「食べたものの味かな？」
「じゃあチョコレート味？」
くすくす笑いながらヴィゴが答えた。
笑っている理由は、キスの途中に突然そんなことを言い出したからだけではなく、ショーンが脱がせるのももどかしく、青いシャツの中に忍び込ませた手の動きのせいもあった。
「チョコレート……なのかな？」
考えながらショーンはキスの場所をくちびるから耳にうつした。そこから耳の後ろへ、さらには首筋へとたどるためだった。
「……くすぐったい」
ヴィゴは甘えた様子でそう言った。
甘い夜。甘いものやおいしいもの、ちょっとしたものを買い込んで、のんびりしよう遅くなったけど短い間だけど、バカンスしようととったホテルの一室でのことだった。
「くすぐったい？どこが？ここ？」
ショーンはそう訊ねながら気合いを入れてヴィゴの肌に触れた。
「そこじゃなくて……ココ」
ヴィゴはショーンの手を取って、まだ二重に布に包まれたままの場所へ導いた。「おや、それは大変」
そう言って目元にしたショーンのキスを、ヴィゴはくすぐったそうに受け止めた。キスするショーンも、キスされるヴィゴもずっとくすくす笑いっぱなしだった。
やわらかい白を基調とした部屋は無機質でそれでいて誰でもウェルカムで、でも２人が足を踏み入れた瞬間にそこは、２人の部屋になった。ベッドとソファセット、ローチェストにバーカウンターも兼ねたようなコーナーにはテレビがあって、人が住んでいればおよそこんなにキレイに片付いているわけはないモデルルームのようだった場所も、今は２人のための部屋だった。
「なあ……ビール、まだあったっけ？」
ちらり、と冷蔵庫のほうを見ながらヴィゴが言った。
「……あったと、思うよ……」
後頭部にインプットした記憶を引っ張り出しながらショーンは答えた。答えながらもショーンは、とりあえずボタンを全部はずすことに成功したシャツの奥にくちびるを這わせるのに忙しかった。
「なら……いいか……」
そう答えるとヴィゴはうっとりと目を閉じてショーンの頭をかき抱いた。
甘い甘い一夜は、こうして更けていったのだった。