「ほらヘクトル、星がきれいだぞ」
「ん……」
「寒くないか？」
「大丈夫……アキレスがくるんでくれてるから……」
「そか」
なら、いいとアキレスは笑った。夜の夜中の、場所もトロイの王宮の、１番高い建物の、そのまた上にアキレスはヘクトルを連れてきた。またぞろ、自傷偉い人たちにひどい言葉を投げつけられて、刃で刺されたように心に傷を負ったヘクトルを、アキレスはさらうようにして連れてきたのだった。
「ここから見る星はいいな」
「うん……」
アキレスの持ってきた衣で腕で抱きすくまれて、ヘクトルは小さな子供のようになった気分を味わっていた。そこはとても幸せでとても安心出来る場所だった。
灯火はなかったが、星の明りだけで、充分にものを見ることが出来た。抱きしめてぬくもらせてくれているアキレスの顔も、だんだんとほどけていくようにして悲しげな顔から笑みを浮かべた顔に変わっていくヘクトルも。
「もっとあたたまることをしに行くか？」
「……ああ……」
ヘクトルの肩に顔を埋めるようにしてそう言ったアキレスに、嫁でも分かるほどに全身を朱に染めてヘクトルは答えたのだった。
「ほらエリック星がきれいだぞー」
「はいはいはい」
「エリック美人だぞー」
「そりゃどうもありがとう」
よっこらしょ、と色気の少なめな声を出しながらエリックは、肩を貸さなければ歩けそうもない酔っ払いを運んでいた。
「エリック、あいしてるよー」
「はいはい。俺も愛してるよ、ブラッド」
「やっぱりー？」
ブラッドは、えへへ、と嬉しそうに笑った。
言ったほうがなんだか、いいことをしてやったような気になる照れ喜びだった。
「エリック、捨てないでー」
「だったらもうちょっと一生懸命歩いてくれ」
よっと、言いながらエリックは、ずるずるしていくブラッドの腕を担ぎなおした。「エリックーずっと一緒にいようなー」
「はいはいはい。そうだといいねー」
そりゃもちろんがんばるけどさ、とエリック心の中で呟いていると。
「エリック……家に帰ったら、しような……」
いつ間にか肩の重みが消えた原因が、エリックの耳元でそう囁いた。
「ぶっ！」
「自分で歩けるなら歩いてくださーい」
囁く勢いのまま頬にキスしようとした似非よっぱらいの顔をベしっとやると、エリックはブラッドをおいてすたすたと歩き始めた。
「待ってーエリックー」
「早く来ないと入れてやんないぞ」
「え？何、エリックのな……ぶっ。……ヒドイ、エリック！バッグ投げることないじゃないか！家に入れてやんないぞ！」
「鍵と財布はこっちだ！」
「なんだとー！」
まあそんな、いつものじゃれあいと、いつもの意思表示で。