「作ったものじゃなくてすまないけどね」
そう言ってショーンはヴィゴの前にクリスマス・プディングの乗った皿を置いた。
「え？これ……」
ワイングラスを片手に、テーブルにのべっとなついていたヴィゴは、目を見張って驚いた。
「食べてみたいって、言ってただろ？」
皿を持ったときに手についたベトベトをぺろりと舐めながらショーンは言った。
「まあ食ってみてくれよ、うまいぜこの店のも」
クリスマスだった。今はもう過ぎているけれど。しかし、クリスマスだろうと新年だろうと、仕事は存在するし自分もそのカテゴリ『仕事』に加わらなくてはならないときもあった。今年のヴィゴがそうだった。そうでなくても映画の撮影で１人息子を残し、はるばる海を越えてロンドンまで出稼ぎに来ていた。それでもクリスマスには、ほんのちょっとでも帰れるはずだったのに、それが出来なかったのだった。
撮影が押していたせいもあったし、思いもかけないアクシデントが発生したせいもあったし――――そもそも予想できるアクシデントってなんだ？だったら対応策を練っておくべきだ――――何よりもこれが１番大きくて、当の息子ヘンリーに振られてしまったのだった。「ダッド？忙しいんだろ？無理して帰ってこなくていいから。実は友達と旅行に行こうかって話が出てるんだ。うんそう、車で。うんそう、例の車ついに出来たんだって。それで行こうってことになって……うん、うん……分かってる。気をつけるよ、ダッド。もちろん愛してるよ。じゃ、身体に気をつけてね！メリークリスマス！」
アンドハッピーニューイヤー！と言われてしまっては、父親の出る幕はなかった。
「……ヘンリーに振られた……」
そう肩を落として言うのはいいが、それを現在ただいまの恋人の前でやるというのはどんなものだろうか？しかし、このよく出来た――――ところもある――――恋人のショーンは、ヘンリーの無言のメッセージを読み取り、確かに彼の大事な父親と過ごすクリスマスと新年という、素敵なプレゼントを受け取ったのだった。自分の娘たちも、友人に招待されていたり、母親や祖父母のもとで過ごすことになっていて、自分も１人だから良かったら家に来ないかい？と誘ったのだった。
あいにくクリスマスは過ぎてしまっていたけれど、買ってきたものが多いとはいえ、心ばかりの料理でもってもてなし、宿代とやけ酒代わりにヴィゴが大量に持ち込んだ酒で喉を潤し、酒が入れば弱気になることもあるの例通りに、くよくよしているヴィゴに、ショーンはとっておきを取り出したのだった。「まあこれでも食べようじゃないか」
火をつけるとぽっと炎が灯った。こうしてアルコール分を飛ばしてから食べるプディングはある程度は寝かしておくもので、クリスマスを何日か過ぎてしまったことくらい、全然平気な素晴らしい食べ物なのだった。
「今年もいい年だったじゃないか」
「……そうだな」身体を起こしてヴィゴはそう言った。
「飛び上がるほどすごいことはなかったけど、目も当てられないほどひどいこともなかったし」
「うん……」
座りなおして、小さなプディングを切り分けるショーンを見つめていた。
「さ、おいしいものを食べて元気だそうじゃないか」
「ああ」
「１番大きいのをあげるから」
ヴィゴの前に、プディングの載った皿を置きながらショーンは笑って囁いた。
「ショーン！！」
突然の申し出に、ヴィゴは思わず声を上げた。
『あとで、たっぷりとお返しよろしく』