「あ、あああああああぁ〜」
その日、ラスティは朝から暑苦しく苦悩していた。
正確には昼と言ってもさしつかえのない時間のことで、大きな大きなダブルベッドの上でのことだった。昨夜はラスティと一緒にパーティに出席して遅くなったので、エリックも目は覚めていたものの、まだ半分以上ボケボケしていた。しかし、同じくらいもしくはそれ以上に酒を飲み、大暴れをし、昨夜は帰るなり住まいのベッドに撃沈したにしては、余裕ある嘆き方だった。
「……どうしたのラスティ」
昨夜のパーティは親しい友人だけが集まる、気軽でとても楽しいパーティだった。だからついラスティもエリックもはしゃぎすぎて、あやうくうちに帰れなくなるところだった。気のいい主催者は泊まっていけば〜と言ってくれたが、すでにパーティ会場にはつぶれた客にして友人の轟沈した姿だらけとあってはさすがに気が引けて、ラスティとエリックは、どうにか肩を貸し合って帰途につくことが出来たのだった。フランクなタクシーの運転手は、酔っ払い２人をとてもデリケートに運んでくれた。そのパーティについて、何かあったのか？するはずだった趣向を披露するのを忘れたとか？それとも見られたら困るような忘れ物でも？とエリックは、寝ぼけてはいても昔取ったなんとやらで、脳みその皺を駆使して考えた。しかし答えは見つからなかった。ので、直接本人に聞いてみることにした。
「財布でも落としたの？」
そう尋ねながらも、まだ寝足りないと身体は、正直極まりなくあくびという身体表現をした。
「ちがう……」
ラスティはまだ打ちのめされたままだった。それは悲壮なその様子では、落とした財布には向こう１０年のおいしい食事をする権利でも入っていたかのようだった。
「それじゃ、なに？」
いったい何が起こったの？とエリックは、嘆きのラスティに近寄った。昨夜はとても着替えるだけの余力が残っていなかったので、どちらも上着だけを脱いだ下着姿だった。いつものラスティなら、元気いっぱいにナニかを仕掛けてきそうなものだったが、今日はそれどころではなさそうだった。「……寝ちまった……」
アナタ地獄行ネ、ソレも最も深イ地獄、と宣告されても、ここまで暗くはならないんじゃないだろうかというほどの、ラスティの真っ暗具合だった。
「寝ちゃまずかったのか？見たい番組とかあったのか？そてとも、録画しそこねたとか」
以前ラスティが頭を抱えて叫びだしたときの理由を列挙してみた。ラスティはそのどれにも首を振った。
「昨日は……イヴだったっていうのに……寝ちまったん、だ……」
それだけ言うとラスティは、また「ああああああぁっ！！」と叫びながら頭を抱えて突っ伏した。エリックにはその嘆きの意味が良く分からなかった。
「そうだね、昨日はクリスマスイヴだったね。それがどうかした？」
打ちひしがれるラスティの背中や肩口をやさしく撫でさすりながらエリックは尋ねた。
「だって……クリスマスイヴだよ？そりゃパーティには出たけど、帰ってからエリックとゆっくりしっぽりって決めてたのにもう……！！」
ゆっくりはともかくしっぽりとはなんじゃい、と思いながらもエリックは言ってやった。
「でもラスティ、クリスマス本番は今日だよ？」
「そうだけど……」
どうやらイヴを恋人とロマンチックに決めたかったらしいラスティはまだぐすぐすしていた。「クリスマスの正餐て言えば今日じゃないか。何か作るよ。一緒に買いに行ってもいいし……そうだ！ラスティが食べたがってたクリスマス・プディング作ろうか！」
「プディング……？」
「本当は寝かしたほうがいいんだけど、食べられないことはないと思うよ。なんだったらパネトーネか何かを買ってきてもいいし……」
「作って！」
エリックの申し出に、ラスティは跳ね起きた。
「エリックのが食べたい！！」
そしてその顔には、さっきまでの悲嘆のかけらもなかった。
食べ物で機嫌が直るなんて、子供みたい、というエリックの認識を新たにしたのだった。
「とびっきりのを作るよ。ラスティのために」
エリックがラスティの鼻にかじりつくようにキスする頃には、部屋は穏やかな冬の日になった。