なかなかいい休暇だった。
愛しのヘンリーにはふられてしまったが、その代わりショーンが家に招待してくれたのでほんの少しの休暇だったが、ゆっくりのんびり過ごすことが出来た。
「娘さんたちにも何かプレゼントしないとな」
今日は撮影前に、宣伝のためのスチール撮影だった。今撮影しているのがどんな映画なのかの紹介も兼ねているので、撮影現場の片隅で行うことになっていた。だから格好はすっかり『ニコライ』だった。こそばゆいが気を利かせてくれたのだ。自分の父が男の恋人と過ごすのに、自分たちがいては具合が悪かろうと。
「特に、ショーンには良かったよな、きっと」
酷薄そうなマフィアなヴィゴは、思い出してくすくす笑った。自分のことと照らし合わせてみても、相手の家に行くのには度胸が必要だが、自分の家で過ごすほうが根性だ。ヘンリーはもう知っているからいいけれど、はじめのうちは招くヴィゴもそりゃあ緊張したものだった。
別に、再婚して一緒に住もうと行っているわけではなかったし、ベタベタに仲良くなって欲しいわけでもなかったが、自意識過剰なのかなと思いつつもどちらも好きな人間だ、上手くいってくれるに越したことはなかった。「今度お礼かたがたうまいもんでも送るか」
自分のアイデアにうんうん頷きながらヴィゴは結論づけた。
楽しい休暇だったのだ。
愛欲に溺れきった、濃密な一晩をすごした後、一日ベッドの中でごろごろしつつ睦みつつ、互いにちょっとしたいたずらを仕掛けたりもした。楽しい休日だったのだ。休暇を終えて、さてまたがんばろうか！と思えるほどに。
「そろそろいいかな？」
カメラの準備が出来たプレスから声がかかり、ヴィゴはスチール撮影のためのブースへ移動した。今度はどんな役？とか、撮影現場はどう？とか、近況やファンへのメッセージをひとしきり答えた後に、カメラマンが言った。
「うーん……」
「どうかしたのかい？」
もう何度も撮ってくれている馴染みのカメラマンなので、気心も知れている。いつもとてもリラックスした、いい写真を撮ってくれるので、ヴィゴもスチールを撮るとき指名することもあるくらいだった。
「なんか、当たり前というか、面白味にかけるんだよなぁ……うーん」
「脱いでみるか？」
いたずらっぽく笑ってヴィゴは、ジャケットを脱ぐふりをした。インタビュアーは笑いながら言った。「個人的には大歓迎だけど、記事にはそぐわないわよ。近頃のマフィアはストリッパーも兼業なの？」
「俺もそういうゲージュツ的なのはちょっとね……」
キャップ帽を直していたカメラマンに天啓がひらめいたらしかった。
「ヴィゴ！そうだ！靴脱いでくれるかい？」
「え？」
「裸足で撮ろう。そうだよ！裸足にダークスーツ！実に君っぽくていいじゃないか！！」
「え、あ……はだ、し？」
「ダメかい？寒い？」
「いや……その……」
窮屈だったり気が向くと、どこでもぽいぽい脱いでしまうヴィゴが、もたくさしているのには訳があった。
（うーん、ちょっとばっかり、困ったなぁ……おい、どうしてくれる、ショーン？）
裸足になれないわけを靴下の上からヴィゴは撫でた。
休暇中にお互いにしたいたずら、それは。
足の裏に油性マジックで書いた互いの名前とアイラブユーの文字だった。