父親は嫌いだった。ディーンが贔屓するから。
酒場は嫌いだった。ディーンを誘う男たちがいるから。
誘いに乗るような女の子は嫌いだった。ディーンを連れて行ってしまうから。
嫌いなものはたくさんあった。
好きなものはほんの少ししかなかった。
勉強や、調べ物、達成感のあるものは好きだった。それから。
ディーンのことは大好きだった。
「お、すげぇスタイル」
いつものように夕食はパブだった。たまにはディーンを家事から開放しようと思うとコレだった。お酒が好きでにぎやかな場所が好きで、その時その時で意気投合した奴とバカ騒ぎするのが好きで、そんな店に来ていて、声をかけられるのを待っている女の子が好きで。だからいつもサムの、夕食もダイナーで、という案は却下されてしまうのだった。
「ディーン、狩りの最中だろ？」
またディーンの悪い病気が始まった、といった様子でサムは肩をすくめた。
「なんだよ、事実を述べただけだろ。別に声かけたわけじゃなし。これだから真面目なカレッジボーイ君はよぉ……」
ナイスバディな女の子に未練があるのかディーンは明後日の方を向きながらビールを呷った。
「つきあうならきちんとしたほうがいい、って考え方に、学歴は関係ないと思うけどね」
「かわいくねぇなぁ」
再度サムがあきれたように言うと、ディーンもこっちに向き直った。
サムはホッとした。作戦成功。今日のパブにはダーツがあって、ディーンは大喜びだった。たまにはやんなきゃ腕が錆びついちまう、おまえもやるか？ナイフの訓練、とかなんとか言って、食事もそこそこにダーツブースに飛んでいってしまったのだった。
「よっ、俺も入れてくれよ！」
「届くのか？ボーヤ」
何しろディーンは見た目が若い、というか幼い。これでも２６歳というと大抵の人は驚くし、どうかすると飲酒年齢に達しているかどうかを疑われることもある。だからなおさらディーンは、動物のように強く大きく見せるためにもガラッパチになっていくのだった。昔はもう少し品が良かったのに、と思うとサムは自然ため息が出てしまうのだった。
「ふふん、ほえ面かくなよ、おっさん」
「誰がおっさんだ！」
「どう見てもおっさんだよなぁ」
「違いない！」
ダーツブースはオレンジを１個とか、ビールを１杯とかいったささいな賭けが飛び交っていて、ディーンはすっかり土地者にとけこんでいた。
「……だからパブは嫌いなんだ」
サムはひとりパソコンをいじりながらぼやくのだった。
「あれ？これホールか？」
いつものようにキッチンに立っていたディーンがそう言った。
「頼んだのはスライスじゃないか！」
同じくキッチンに立っていたサムが、鬼の首でも取ったように言い募った。
たいした手伝いは出来ないが、ディーン１人で家事をさせるのはしのびなかった。まだ盛り付けや皿を並べること、後片付けなんかはやらせてもらっていたが、調理に関することは野菜洗いや皮むきくらいしかさせてもらえなかったが。目の端でディーンが、また始まったという顔をしたがサムは気にしなかった。
「そうだったか？」
『家業』から帰ってきて、ついでに頼まれた買い物を済ませた彼らの父親は、ソファに座って新聞を広げていた。父親はサムのとんがりを意に介さない、それがサムには余計しゃくにさわるのだった。
「そうだよ！」
「たいした違いじゃあるまい」
そう言って、父親はまた紙面に視線を戻してしまった。どうして親父はそうなんだよ！とサムが癇癪を炸裂させる前に、ディーンが割って入った。
「まあいいよ、これでなんとかするから。逆だとどうしようもないけど、これなら切ればいいからさ」
サムが握り締めている缶を手にとってディーンが言った。
「でも今度は気をつけてくれよ。トマトなんかだと、切りにくいったらないから」
笑いを含んだ声でそうたしなめられて、父親も笑いながら言った。ディーンにしか見せない笑顔だった。
「分かった。次は気をつけよう」
「頼んだぜ、親父」
ディーンは親父を甘やかしすぎた！とサムは喚きたかった。
サムには不満があった。
そりゃあもう、いつでもはじけそうに、風船のようにパンパンに膨らんでいた。
子供扱いしないで欲しかった。父親よりも自分のことを尊重して欲しかった。
誰よりも何よりも１番でありたかった。何度も何度もそう言った。
「子供扱いすんなって言ってるだろ！」
とか。
「サミーって呼ぶな！」
でもしようがなかった。サミーはサミー、ディーンにとってサムはたとえ、１００歳のしわくちゃじじいになろうとも。
「どうした、ハニー？ご機嫌ななめだな」
そう言ってキスする対象、大事なかけがえのない弟なのだから。
ｎａｎａさんリクエスト。
『ＳＰＮで、お兄ちゃんが大好きで
独占欲も強過ぎる弟』
にございます。
独占欲が強いというよりも
癇癪玉な弟になってしまったような？