「よし、出来た！うん、キレイになったぜ、ぴっかぴかだ！」
そう言ってディーンは愛しのインパラのボディをぺしっと叩いた。サムはスーパーへおつかいに、ディーンは久しぶりに愛車を洗車するのに相応しい天気だった。がちゃがちゃと愛車のお手入れグッズを片付けながらディーンは、これまたお気に入りのヘヴィメタを口ずさんでいた。ご機嫌づくしの時間の総仕上げはサムの帰還だった。
「まだかなサムの奴」
腹減った！と叫びながら伸びをした。と、そこへ。
「お待たせ、ディーン」
半開きの窓をノックしたのは、買い物袋を抱えたサムだった。ひょろりと長いその姿も、食べ物を手にしてるとなると話は別だぜ！とディーンは、特別極まりないことに、インパラのドアを開けてやりさえしたのだった。「おかえりサム！」
待っていたぞ、弟よ！と芝居がかって――――ディーンにとってはテレビドラマがかってか――――迎えると。
「はい。ディーンが待ってたのはこっちだろ」
苦笑しながらサムはまだかなり熱々のホットドックと、湯気の立つコーヒーのカップを渡した。
「おお、よく分かってるな弟よ！」
さすが俺の弟だ、とかなんとか言いながら、ディーンはさっそくいい匂いのするホットドックにかぶりついた。舌をやけどしそうなコーヒーをふーふー吹いてディーンは、幸せいっぱいだった。なぜなら。「チリソースついてるよ、ディーン」
袋にたっぷり入っていたナフキンでほっぺたを、サムは笑いながら拭いた。
「ふぉ、サンフュ」
もぐもぐやりがらディーンは律儀に礼を言った。
「すっごいピカピカじゃない？ちゃんと黒くなってたよ」
インパラの天井をこんこんやりながらサムは言った。止むに止まれぬ事情で、ぬかるんだ道をかっ飛ばさざるを得なかったため、ディーンの大切な車は真っ白？になってしまっていたのだった。
「だろ？」
ディーンはそれこそ、こぼれるほどの笑みを見せた。ディーンの愛車キチを、ちょっとばかりからかうつもりだったサムが、面食らってしまうほどの。「食ったら寝るから」
運転ヨロシクなとディーンは、気分よく昼寝宣言をした。なんといってもディーンは兄で、サムは弟なのだ。弟は、兄の言うことを聞くもんだと、相場が決まっていた。
（１人じゃないっていいなぁ）
ディーンはご機嫌でそう考えた。
１人で車を洗い１人で食事して、１人でしゃべって答える者は誰もいない。
そんな暮らしをずっとディーンは送ってきたのだ。
「おまえ何飲んでんの？何また、バニララテ？よくそんな甘いもん飲めるなぁ」
「好きなんだから、いいだろっ」
これでよくこんなに背が高くなったもんだというくらい甘党なサム。それをからかうのも、兄たるディーンの特権だった。