「あれーアルフレッドさん」
「こんにちは、どうしたんですか？」
「何か調べものでもあるんですか？」
ティムとディックは図書館で調べ物をしている最中だった。
２人の学校のちょうど中間にあるこの公共図書館は専門的な蔵書も多く、デジタル分野での調査だけでは足りないことを調べるのにうってつけだった。
バットマンのアシスタントとして調べものをするときもあったが、たいていの場合ここは、待ち合わせてウェイン邸に来るための集合場所だった。どうやらレポートか何かをやっているようで、机の上に大きな本を広げ、２人ともにそれを書き写しているようだった。
「こんにちは。ちょっと寄ってみたんだよ」
さすがに少しは立ち直り、子供たちに笑顔を見せる余裕も出てきたアルフレッドだった。
「宿題かい？」
アルフレッドがいきなり手元をのぞきこんできたのでティムとディックは大慌てに慌てた。「い、いやこれはちょっと！」
「こ、これからの時代、お、男も料理のひとつも出来たほうがいいと思って！」
ティムとディックは、広げた資料を小さな身体で懸命に隠そうとするものだから、ほんの軽い気持ちで尋ねたアルフレッドは面食らってしまった。
「料理でもするのかい？私に何か手伝えることはないかな？」
アルフレッドは片目をつむりながらちょっとおどけてそう言った。
「そんな、とんでもないっ！」
「忙しいアルフレッドさんにそんな！」
「それに自分で調べないと！」
「そうです！勉強になりませんから！」
ティムもディックもさっき以上に一生懸命だった。
「……そうか……これは余計なお節介を、焼いてしまった、ようだね……」
いつもは年の離れた友人のようなフレンドリーなつきあいをしているつもりだった子供たちからの思いもかけない拒絶に、アルフレッドはかなりショックを受けた。それは自分で思っている以上の大打撃だった。「でも、ありがとうございます、アルフレッドさん」
「分からないところがあったら教えてくださいねっ」
アルフレッドのしょげようを見かねてか、それともとりつくろう余裕が出たのかティムとディックはとりなすように笑って言った。
「腕が上がったら試食してみてください」
「手加減なしで批評してくださいねっ」
重ねられた言葉に、肩の落ちていたアルフレッドにも笑顔がよみがえった。
「もちろん、そうさせてもらうよ。楽しみだ」
とかなんとか言いつつも、ティムとディックはさりげなく手元を隠そうとするのを実行中だった。
「胃薬がいらなくなったら持っていきます」
「そのときはよろしくお願いします！」
元気な子供たちの姿に、幼少の頃の主人の姿を思い出しながらアルフレッドは言った。
「お待ちしてます。いつまでも調べものの邪魔をしてはいけませんね。それでは、これで」
ティムとディックも立ち上がってアルフレッドを、笑顔で見送った。
「……やばかったなディック」
「あぶないとこだったね、ティム……」
そんなささやきを交わしながら。