「いい天気だ、出かけようぜ！」
ディーンがそういったとき、サムは深く静かに落ち込んで、まっくろくろすけのようになっているところだった。
これ以上はないという落ち込みには訳があった。
パソコンがウィルスにやられたとか、ディーンに強烈ないたずらをされたとか、荒っぽい運転をしてインパラを何より大事に思っているディーンに怒られたとか、おなかが減ってひもじいとか、そういったことではなかった。
「……どこへ……？」
もう次の町に行くの？と尋ねるサムは半分ゾンビのようだった。テレビ映画の、それもホラーや特撮は大好きなディーンだが、実の弟がフレッシュなゾンビになるのはいただけなかった。
「天気がいいって理由で出かけるんだ、決まってっだろ？」
ディーンは片目をつむり、親指を立てて陽気に言った。「……洗濯……？」
どんよりしながらパソコンをいじっていたサムの手をディーンは、問答無用でひっつかんだ。
「ピクニックに決まってるだろ！」
さぁ行こう！とディーンは天気とは裏腹にどんよりしたサムを連れ出したのだった。
「ピクニックなんて、どこへ行くのさ？」
ランチの用意をしなくちゃな、と主張するディーンは、いつものダイナーでもパブでもなく、スーパーに寄ろうと言った。そこで、およそピクニックに行く子供が思いつくものすべてを買い込んだ。
サンドイッチにバーガーにホットドック、ピザはちょっとやめにしといてチョコレートバー、それからアイスクリーム――――溶けるといけないからと言って、これはディーンが歩きながら食べていた――――キャンディ、アップルパイにラズベリーパイ、それからそれから。
「ん？シナモンロールも欲しかったか？」
大きな紙袋を両手で抱えたように持つサムをお供に、１歩先をいくディーンはご機嫌だった。めずらしくインパラではなく歩いていくくらいだから、どうせたいした距離歩くはずなかった。「これ以上食べられないよ」
のけぞるようにして振り向くディーンは子供のような顔をしていた。それを見てサムもつい笑ってしまった。いつだってそうだった。もう２度と、笑うことも怒ることも、楽しむことももうないだろうと思うことがあっても、ディーンがいつも呼び覚ましてくれるのだった。
「ディーン、アイスがこぼれるよ」
「おっと」
昔からディーンはアイスを食べるのが下手で、よくコーンにたらしていたものだった。大人になってもそれは変わらなかったらしい。そういえばこんな風に、夜でビールで女の子がいるバーではなくて、昼の光の下でランチを用意してピクニックなんて、ずいぶん久しぶりのことだった。
「街外れにでっかい公園があって、小さい子を連れてよくママさんたちが遊びに行くんだそうだ」
「……それで？」
まさかヤングミセス目当てじゃなかろうな、とサムの目がちょっと冷たくなった。
「なんとそこには動物園もあるっていうから驚きさっ！」
「どーぶつえん？」何故いま動物園？そこに何か超常現象でも起こっていて、子供が怖がって近づけないとかなのか？サムの目は完璧にいつもの４分の１くらいの細目になってしまった。
「さ、着いたぞサム！」
目の前に広がるのは、どこにでもある光景だった。ひろがる芝生、花壇に噴水、遠くに動物園のゲートと音楽、そして子供たちの楽しそうな声、母親の呼ぶやわらかい声だった。
「ディーン、ここ……」
「さっ、あの辺でメシにしようぜっ！」
ディーンは呆然と立ち尽くすサムを引っ張って噴水を見下ろせる斜面へ向かった。サンドイッチにはマスタードたっぷり、ポテトにホットドック、熱いコーヒーにオレンジジュース、りんごにオレンジ。驚いたことにサムはそれらを全部平らげた。
さすがにお腹がはち切れそうだったが、それでも食べた。自分がこんなに飢えていただなんて、びっくりだった。目を細めて犬と遊んでいる美人親娘を見ている隣のディーンは、最後のりんごを齧っていた。気のせいか、ディーンも腹が少し出ていた。
「あー食った食った！」食べ終わるとディーンは芝生の上に寝転んだので、サムもそれに習った。そういえば日光浴もずいぶんでしていなかった。少し太陽の光を、浴びておく必要があるかもしれなかった。いつだって自分たちのいる世界は闇と暴力と、血と悪意ばかりあふれていたから。
「いーい天気だなっ！」
ディーンがまた言った。太陽を見ていたらまぶしくて、いつしかサムは両腕で目を覆っていた。
「なぁおい、サム」
「うん？」
「どっかにフォックスいないかな？」
「へ？」
「いやスローンでもいいんだけどさ」
「は？」
何を言い出したんだ？とディーンのほうを向くと、ディーンは大真面目な顔をして空行く雲を眺めていた。
「どっかにそういう組織あるといいなぁ。１を殺して１０００を生かすのをモットーにしてる組織」
「ディーン……」「そしたら、何もかもうまくいったかもしれないな」
「………」
「まぁでもいっか！俺たちがやるしかないもんな！」
メシも食ったしがんばるぞー！デイーンがそう雄叫びを上げたものだから、呼ばれたと思ったのか犬も唱和した。わんっ！
「さっ、行くぞ、サム！」
「へ？行くってどこへ……」
ピクニックにはもう来たし、モーテルに帰って昼寝なのだろうか？
「決まってるだろ！動物園だ！」
行かずになるものか！とディーンは、元気いっぱいに宣言した。ディーンは、動物園が呼んでいる♪と、面白い節をつけて歌い、サムはあたりを片付けた。
「行くぞ、サム！」
「待ってよ、ディーン！」
いつに変わらぬ言葉をくり返して。
シーズン３の、ヘンリクセンさん再出場の回を見たらば
どーしても書きたくなって。
ちなみにフォックスさんやスローンさんは、
アンジェ姐さん出演の暗殺組織映画
の人たちにございます。
ＣＭでしか知らないんだけど。