「よっ」
「……またあんたか……」
ローガンはうんざりして言った。何度言っても改めようとしない相手に文句を言い続けるのは疲れるのだった。ここは学校なのだから、仮にもそこに住んでいる人間を訪ねるのなら、正面玄関から来いと言っても、兄を名乗って不埒な真似をするなと言っても。
「何の用だ？」
「ご挨拶だな。土産持ってきたぜ」
冷たく言っても効果なし。もとより冷たくあしらうことなど不可能だった。ローガンがどんなに手ひどくはねつけようと、なんなくかわしてしまう相手だからだった。窓辺にいきなり現れるのは決まっていた。
「また熊か？」
「兎も獲ってきたぜ」
窓枠にしゃがみこみライオンの鬣のような髪をなびかせ、チェシャ猫のように笑っているのはヴィクターだからだった。「……ありがとよ」
今夜は満月だった。いい季節だし、月がよく見えるように窓を開けておいたのが失敗だったとローガンはため息をついたが、窓が閉まっていようが開いていようが、好きなときにやって来るのがヴィクター・クリードだった。ローガンの、兄と名乗っていた。
「今日は素直じゃないか」
窓枠から音もなく下り立つとヴィクターは、もうローガンの目の前にいた。
「何度言っても聞かない奴には無駄だ」
「そうそう、そうやって素直にしてな」
相変わらず噛みあわない会話だった。それでもヴィクターは嬉しそうだったし、ローガンもたわごとを並べて無遠慮に手を伸ばしてくる以外の部分ではヴィクターのことは、そんなに嫌いではなかった。「ところで今日は何だってこんなに明るいんだ？」
すっかりあがりこんで、勝手に定位置にしているローガンのベッドに腰掛け、そこにあったクッキーをぼりぼりやりはじめた。
「甘い」
顔をしかめながらも腹が減っているのか食べ続けていた。
「当たり前だろう、クッキーなんだから」
ローガンは窓を閉めようかどうしようか悩んで、少しだけ閉めることにした。
「今日はハロウィンなんだそうだ」
そう言ってヴィクターの向かいに腰掛け……ようとして引き寄せられた。おまえはここだという主張なのか、ばんばん叩かれたヴィクターの隣の場所に座らされる羽目になった。この後の展開が容易に読めてしまったローガンは、渋い表情だった。
案の定、隣に座った途端に肩を抱き寄せられてどこのお熱い恋人同士やねん！とツッコミが入りそうなくらいぴったりくっつけられた。逃げようにもこれが、おまえに勝つために修行していたと勝手に不在を詫びた相手は万力のようで、さしものローガンもそう簡単にはひきはがせなかった。
やってみてもいいのだが、それには最低でもこの部屋がメチャクチャになる覚悟が必要だった。居候の身でそれは避けたかった。
「ハロウィン？」
「子供の遊びだよ」
ローガンにとってハロウィンとは、なんだか分からないがストームにクッキーを渡され、子供たちが来たら渡すように言われる日だった。
「そうか、それでガキがうろうろしてやがったのか」
納得顔のヴィクターに、ローガンは嫌な予感を覚えた。
「……まさか、何か、やらかして、ないだろう、な？」
どうか何事もありませんようにと、おそるおそる聞いたのに、その願いは叶わなかった。「あん？ガキになんか何もしねーよ」
ガキになんか興味あるか、と言ってヴィクターは意味深長な目でローガンを見た。もちろんローガンはその視線の意味するところを無視した。
「ああ、そういえば」
予感は当たった。およそ当たってほしくない方向に。
「熊を運ぶときなんだがギャーギャーと、やたら騒がしかっ」
「それだ！」
立ち上がった拍子に、ローガンの肘がガコっとヴィクターの顎に決まった。
「あの大騒ぎのもとはおまえか！」
「あぁん？」
ちっともこたえていないヴィクターに、果たしてなんといったものかローガンは途方に暮れた。おそらく子供たちはパニックになったことだろう、どこぞの民族行事のように「悪い子はいねがぁ〜」のノリで熊を担いで現れた大男。考えただけでも恐ろしかった。「熊がどうしたよ」
熊も子供もいらないし関係ないと、またヴィクターに引きずり込まれ。
「少しは大人しくしてろ！ここは学園だぞっ！」
「そうか？」
もちろん聞く耳なぞ持たなくて。菓子を食べさせたのになんだってこんな目にあわなくちゃならないんだ！というローガンの悲痛な叫びは、今日もまた修行の成果に、あっけなく取り押さえられてしまうのだった。
「ハロウィンってななんだ？子供がうるせえ日なのか？」
「知るか！離せこら！」
「よしよし」
「よしよしじゃなーい！」
「まあまあ、熊やるから」
「いるか――――！！」
『ウルヴァリン』のヴィクターから『Ｘ−ＭＥＮ』の
ヴィクターのヴィジュアルへシフトチェンジ？
弟がさすらっていた１５年間、お兄ちゃんが何をしていたのかというと、
アマダンチウムを投入したら自分より強くなってしまったのにショックを受けて
「ジミーより強くなる！」と決意して、山にこもっていたら１５年たってました♪
だったら面白いなぁ、と思いまして。
修行に熱中するあまり野生化していたところをマグニートーにスカウトされ、
「ま、いっか」とつきあっていたら弟と衝撃の再会！
とかだったらアリかなぁ、と（笑）。