今日も今日とて映画の鑑賞会だった。
エリックも映画のプロモーションがひと段落ついて、次の作品に向けて脚本を読んでいる段階だったし、ブラッドのプロモーションはラストの日本でやっと終わり、もしも新年からはじまるさまざまな賞にノミネートされたらまた忙しくなるかもなという谷間の時期だった。
休みといえば、演じてきた役柄のイメージとは裏腹に、インドアも好きだけど、どちらかというとアウトドア派かなぁ、のエリックと、アウトドアも好きだよもちろん、でもインドアも捨てがたいよね、派のブラッド寄りのどちらかで過ごすと相場が決まっていた。
独りなら、すべての時間を自分のためだけに使えたが、誰かと一緒に休日を過ごすのも悪くないもんだなと思えたことが、もしかしたら一緒に暮らすようになって、最大の発見かもしれなかった。この間の休日はエリックの希望でオフロードを走ったので、今日はブラッドの希望で映画鑑賞会と相成った。
それも、ただの鑑賞会ではなかった。お互いの出演作を見せ合おうの会という、ある意味とてもこわい鑑賞会だった。
「これだけで１本のドラマになりそうだね」
映画鑑賞ならやっぱりこれだろうということで、バケツのように大きい容器に入ったポップコーンを頬張りながらエリックは言った。
「そうそう、何の映画が始まったのかと思ったよ、俺も」
牛乳パックのようなカップに入ったコーラを早くもずずずっとすすりながらブラッドは答えた。
「ねぇ、ブラッド」
「な、何かなエリック？」
ついドキドキしてしまうのは何も、いくらラブソファだからって、そんなにくっついてたら窮屈なんじゃない？というほど近くに座り、手を握り合っているからだけではなかった。「あの首の傷跡って何かあるの？」
「いやー監督曰く、それだけで映画が１本撮れるくらいの訳があるそうだけど、この映画では出て来ない。よく知らないけど」
「ふーん。それと、このナイフなんだけどさ」
「何なに？」
ことほど左様に、お互いの映画に１番詳しい者が２人集まっているわけだから。
「なるほどこうなるわけね。ナンタケット島かぁ。確かに憧れるよなぁ」
「え、じゃあ今度行ってみる？別荘持ってる友達いるよ？」
「さすが天下のブラッド・ピットだねぇ。友達もセレブ揃いだ」
笑いながらエリックは言った。実際、友達の別荘を渡り歩けば、世界一周だって出来ちゃうかも？と思いながらブラッドは言った。
「そんなことないよ。がんばって稼いでるだけさ」「それもそうか。ナンタケットじゃなくてもいいから、そのうちどこかに行きたいなぁ。海があって、のんびり出来るとこ」
「いいねぇ、行こう行こう！海でも山でも」
海でも山でも、それが相手と一緒なら。
相談は、あっという間にまとまった。あとはスケジュールをあわせて、予定を組んで、うるさいマスコミをまいて行って帰って来るばかりだった。なかなか実現しないからこそ楽しい計画というのもあって、これもそのうちのひとつだった。
「それじゃ、今度はこれな」
ひとしきり旅行の計画でもりあがって、手を握る以上のことなんかもちょっとして、〆めには少し長めのキスをして、それからブラッドがセットしたのはエリック主演のラブストーリーだった。
「あ！」
「……なんだよ」
「いえいえ別に。あぁあ……っ」
「……うるさいよ、ブラッド」エリックのオールヌードに思わず声を上げ、奇抜かつチャーミングな衣装に歓声を上げ、やきもきしながら見ているうちに、ついにラストシーンにたどり着いた。
「俺なら待つな」
「ブラッド？」
「エリックは？」
待つと言って欲しいのは百も承知で、エリックはよくよく考えてから言った。
「待つっていうか……忘れないと思うよ？」
「エリック……」
「あとは再会出来たとき考える」
「それまでは？」
「そのときフリーだったら……ううん、気持ちがまだ相手の方を向いてたら……抱きついちゃうかも」
「いない時間が長すぎるよな」
「好きでいなくなるわけじゃないけどね」
エリックの微笑みは、ヘンリーのことを思い出すような笑みだった。「そうだよな、どっちも……つらいよな……」
「おはなしだよ、ブラッド」
「うん……俺は、いなくならないようがんばるよ！」
「なんだい、それ」
ふざけたように言ってはいるが、それは紛れもない真実だった。
「裸に自信ないしな！」
「なんだいそれは」
笑って笑いあって。
仕事で、ほんの少し離れている間も会いたいというのに。
「彼女、辛抱強いよなぁ……」
「同感」
同意の証はキスひとつ。