「エイプリルフールフェア？なんでもありなんだな」
オニオンたっぷりのバーガーにかぶりつきながらディーンは言った。
サムのオーダーに、最近やっとおまえも覚えてきたな、とご機嫌だった。だからって何も、オニオンリングフライまで頼まなくてもいいんじゃないかと思わないでもないサムだった。海の近くの町の、国道沿いのダイナーという、いつものパターンで食事に入った店だったが、味も居心地もなかなかだった。
「ウェイトレスもかわいいしな！」
ディーンのご機嫌の理由はたくさんあってしかもシンプルだった。
「店主は髭オヤジだけどね」
熊のような体格の、熊よりすごい顎髭の持ち主で、赤いチェックのシャツを着て、お馴染みさんに豪快に笑いかける明るい店主だった。なんだかちょっと、父親を思わせるような容貌だった。
お馴染みさんらしき保安官が入ってきたときはびっくりしたが、今は何をしているわけでもなかったし、ここに立ち寄ったのはなにかがあったわけでもなしと、そのまま食事に専念することにした。窓から見える、のどかな風景が好もしかった。「なんでもいいよ、メシがうまけりゃさ」
バーガーにレタスとにんじんのサラダ、オニオンとポテトのフライ、それからなんとトマトオムレツまでついてる豪華なプレートを前に、ディーンはご満悦だった。
「確かに、このクラムチャウダーも絶品だしね」
ディーンの前にはミネストローネがあった。よそ者だというのに、腹が減った！と叫びながら入ってきて、細いくせに大量に頼んだディーンのことを気に入ったらしい店主からのサービスだった。何でも今はエイプリルフールフェアだそうで、びっくり企画実施中なのだそうだった。
「デザートに、このびっくりアイスっての頼んでみたらどうだ？おまえアイス好きだろ？」
食事中だというのにディーンは、この世で一番楽しい読書を続行中だった。
「いつの時代の話してるのさ。ディーンこそ、このアップルシードケーキでも頼めば」
「げろげろげっ」
食事中のマナーについて厳格なルールはただひとつ、物があるうちに、食べられるだけ食べておけ、という育ち方をしたディーンは、上品に食べるのにはあまり向いていなかったが、ダイナーにいた客をなごませる効果はあった。「ほら……ディーンが大きな声出すから……みんな見てるよ」
店主と比べても遜色のない体型のサムでも満足しそうなボリュームのサンドイッチの山に隠れるようにしてサムは言った。
「見たい奴には見せとけよ」
どこの無作法なよそ者だ？という顔をしてこちらを見ていた年配の太っちょの保安官に、ディーンはにっこり笑って手を振った。人懐こく笑いかけられて、いまどきの若者も色々だと思ったのか、保安官も笑みを返して店主との会話に戻っていった。
「まぁいいけど。でもディーン、忘れないでよ」
「ひゃひふぉ？」
「バーガーにかぶりつきながらしゃべるなって……ああもう、ソースついてるよ、ディーン」
いつもの癖で、ディーンの口元についたソースをサムが指でぬぐい、しかもそれを舐めたものだから、店内はさきほどまでとは違う意味で雰囲気がざわついた。
「あー……、しまった、かも」
舐めてから、サムも気がついた。これではまるで、自分たちはゲイカップルで〜す♪と言っているようなものだということに。「どうかしたか？ソースが喉に詰まったか？」
はたからどう見えようと、自分たちは兄弟だという自信があるので、ディーンはそういう視線には無頓着だった。天地がひっくり返って、天使が悪魔に、悪魔が天使に職換えしようとも、自分たちが兄弟であることはゆらがない、と思っているのだった。
「……まぁ……いつものことか」
こっそりそう呟いてサムは、改めてディーンにきっぱりと言った。
「うちは、エイプリルフールはなしだからね！分かってるよね、ディーン！」
これだけは、しっかりはっきり確認しておかなければならなかった。
「あ？あーあー、ＯＫＯＫ、分かってるって」
一瞬なんのことだか考えて、それからディーンは手を振って了承の意を示した。
「エイプリルフールくらいは、心穏やかに過ごそうぜ」
「だよね」
それにどうせ、エイプリルフール以外だっていつでも、いつなんどき騙しあい合戦が始まってしまうか分からないのが、ウィンチェスターボーイズだった。