「おめでとう」
「？」
馬の首をなでる手を止めた。さて彼は、何のことを言っているんだろうか？
それを判断するのは、いつも並大抵のことではない。
「あ、ありがとう」
でも何が？ そういう疑問が、顔中にきっとあふれていたことだろう。
彼は、にしゃ、と笑った。その笑顔は、この好天によく映える。
いい天気。うつくしい草の原。きれいな馬。それを大事にしている人。
とてもきれいな光景。
「ラストまで死なない役でオメデトウ！」
悪役って訳でもなかったしな、と彼はにしゃにしゃと笑いながら最新の愛馬にブラシをかける。
「……そりゃ君も一緒だろ……」
思わずしゃがみこんだ。顔まで隠して。
さては見たな。「見るな」といったら成り立たない商売だから、グッと我慢して言わないでしたのに……でもこっちもつい見てしまったが。
「これでやっと安心して見られる映画が増えたな」
人に勧めやすいのもな、とブラシをかける手はあくまで快調だった。
「……ありがトウ」
「そうクサるなって…」
しゃがみこんだままなので、いいこいいこと頭をなでられた。……そろそろ髪を切ろうかなぁ？
ナニかされたからって、いちいち伸ばしていたらきっと。
それこそラプンツェルのようになってしまうから。