「いったい何を作ろうとしているんだ、オーリ？」
撮影の合い間に、息抜きをしよう！とオーリがみんなをトレーラーに招待した。
なんでも面白いものを食べさせるから、ということだった。食べ物は用意されているのなら、やはり土産はこれしかないだろう、と、エリックは酒瓶片手にやってきた。部屋の中は狭いからと、テーブルを出してパラソルを広げてオーリは招いた客を待っていた。
「いらっしゃ〜い！」
甲斐甲斐しげにエプロンなぞつけてはいるが、そんな高度な料理が果たして出来るのか？と、コーヒーも上手く落とせない弟役者に不安の隠せないエリックだった。
「やぁ」
先客がいた。これまた共演者のブラッドだった。ショーンもいた。
「まだ準備中だから待っててね〜♪」
折りたたみ式の布椅子に座りながら、どの顔も不安が眉間に表れていた。エリックもその仲間に入ることになったわけだった。
「……それでいったい何を作っているんだって？」
「『たこ焼き』だそうだ」
「『たこ焼き』？」
なんだいそれは？とエリックが聞けば。「日本のジャンクフードなんだ。小麦粉と、蛸で作るゴルフボールくらいの食べ物だ」
「……形状はともかくとしてなんだってそんなのを作ろうと？」
「以前日本に行った時に専用の器具を買ったんだそうだ」
「イタケの紋章がたこなんでそれにちなんでいるそうだ」
苦虫噛み潰し隊の隊員たちが、『これまでのあらすじ』を教えてくれた。
「そ、そうか……とりあえず食べられないものは入っていないわけだな」
はたから見れば俳優陣の優雅なオフを楽しむ風景だった。
オーリはボールを抱えて、楽しそうに何か練っている。
「……だといいがな」
ショーンのその言葉は、たいそう重々しく響いて消えた。幻のトロイの城址を前に。
「びっくりたこ焼きも混ぜておくからね〜。お楽しみに！」
「……いったん部屋に戻ろうかな」
「なんでまた」
結局また来ることになるんだぞ、あんたオーリに懐かれてるんだから、とブラッドが言った。
「胃腸薬を取りに行くのさ」
『……是非っ！』
残り２人はがっしりとエリックの手を掴んだ。「あれエリック帰るの？」
後からやってきたスタッフが、すれ違いざまにエリックに聞いた。
「ちょっと忘れ物を取りに戻るんだよ。君にも分けるから」
「……？ありがとう、エリック」
近未来の脅威を知らない者たちが、どんどんやって来る。
一刻も早く『忘れ物』を取ってこねば！と、エリックはチャーミングでワイルドな拳を握りしめるのだった。