歯を、噛み折るのではないかというほど踏ん張った。
盾を、渾身の力で押す。押すほどのつもりでなければ、相手の力に押し負けてしまっていただろう。
全身の力を込めて、肩も折れよとばかりに盾を支えた。
この盾は命の盾。この盾を突破されれば、憎き敵、麗しの母なるトロイを蹂躙せんとする、悪しき輩に利することになる。
かの城壁に、１歩近づけることとなる。
そうはさせじと歯を食いしばる。
隣も、その隣もさらに隣も、皆同じ顔をして、悪鬼のような顔をして盾を支えている。
この誉れ高き前衛兵としての役割を、果たさでおくものか。ヘクトル様は言われたという。
『我らが母たるトロイを守れ』と。
トロイを守る、ヘクトル様の御力になる。
あの壁を守る、家を守る、妻を守る、子を守る――――守る。
１歩たりとも退かじ。
半歩と謂えど。
この後ろは、断崖と思って踏みとどまった。当り負けなどしてなるものか。この身の後ろには多くの同朋。
多くの町人。
多くの家族。
多くの命。歯が砕ける音がした。
安いものだ、歯の１本で贖えるのなら。
渾身の力で盾を支える。
すべての敵を弾き返してみせる！
この盾ひとつに。
すべてを賭ける。