「……君が先に行くってのはどうだい？」
「エリック……そんな肝っ玉の小さいことでどうする？そんなじゃとてもカジノで勝ちは拾えないぞ？」
「別にカジノに遊びに来たんじゃないから構わないさ……なぁ、だってわたしは……」
「そんな昔のことにいつまでもこだわって、仕事仲間に紹介させてくれない気か？俺は見せびらかしたくてたまらないんだがな」
「ラスティ……」
「さあさあ、度胸決めて行こうぜ」
そう言って、カジノのプライヴェートルームのドアの前で逡巡しているエリックにキスをした。
もちろん、『恋人』の。
「ん……」
「エリック？」
「うん……」
「それとも……また部屋に戻るか？さっきの続きといくか？」
含みを持たせて言うと、エリックはいっぺんに赤くなった。
面白い発見だった。こちらが驚くほど積極的で物に動じないかと思うと、こんなことで？というところで足踏みする。
まったくもって面白い。「……今晩はもういい」
胸を軽く押し返された。あくまでも軽く。
なので、こちらもあくまでも軽く、よろけたふりをした。
「じゃあ昨夜は？満足した？」
「〜〜〜〜〜っ」
「エリック……？」
「行くっ、もう！」
「もう？」
「……ラスティ」
「ハイ」
ガン！と思い切り、足を踏まれた。しかもエリックはあかんべえをして。
ノックをひとつして部屋に消えていった。
部屋の中で、困惑と驚きの入り混じったざわめきが起こっているのが聞こえた。
無理もない、今日は作戦成功の祝勝会をかねた懇親慰労会なのだ。「ラスティこの野郎！」
「びっくりしただろこんちくしょう！」
「驚いたか！このちゃっかり者！」
「こうしてやるえいえいっ！」
ドアを開けると、クラッカーとスプレー攻めだった。エリックまでもが加わっていた。
「協力を頼まれてね」
とすまして言うエリックの首を抱え込んだ。
「パートナーのエリックだ」
「ハジメマシテ、よろしく」
「式はいつだ？」
「ラスベガスだここで挙げちまえ！」
やんやの喝采の中で。
金を賭けないカードを繰り広げ。
どのいかさまが成功したのか。
ポイントだけが加算されていった。「……あれ？もうコインがないや」
じゃあもう降りると言うエリックに、黙ってコインを押しやった。
「ラスティそりゃいかんよ」
「フェアじゃない」
「やるとは言わない、貸すだけだ」
「貸す？」
「もちろん取り立てるぜ？そりゃあもう、何年かけようと……」
カード越しに見たエリックの顔は、今まで見た中でも最高に。
「あーもうやってろよ！」
「つきあってらんねぇよ！」
イカしていた。