「実はこれが１番好きで」
「……写真を見せに来たのか？わざわざルームメイドのふりまでして」
「ふりなんていていないよ、ラスティ。『Ｉｔ’ｓ ｍｅ』と言っただけだ。開けたのは君だろう？ああ、これだ『アイスを食べるラスティ』」
そう言って見せた写真は、ストーカーよろしくエリックの家の前にいるときのものだった。確かにアイスを食べていた。
「下手なタイトルだ」
「そう？君だったらなんてつける？」
「…………いでて！」
「歩きながら物を食わないほうがいいぞ、ラスティ。子供じゃないんだから」
「……子供じゃ！」
「子供じゃないなら、ストーカー。人の家の前に、素人が張り込みよろしくいると、今の世の中ではそう言うよ」
「……カーテンくらい閉めろ。中が見通しだ」
「閉める前から見ていた奴が何を言う」
笑われて、赤くなった。なんだってこう、エリックの前だと。
仲間はみんな、この一室に潜んでいるのだということは全部消し飛んだ。（おやまあ。ラスティがかわいらしいことだ）
（誰あれ？警察官なんだろう？ラスティの知り合い？）
（あーまあそういうことになるのかな？昔のルームメイトだそうだ）
（ルームメイト？ルームメイトに母親みたいな説教されて赤くなる詐欺師なんて聞いたことないぞ？）
（おめでとう！今はじめて聞いたな！）
（ルームメイトだなんて……学生時代の話？）
（でもなさそうだぞ、ほら……）「買い食いはほどほどにな、ラスティ」
「……はい」
「それと水道代もな」
「払う……」
「今はいい。……母の墓に花をありがとう」
「エ……！」
唇に、というか鼻の斜め下にキスされた。
そのまま鼻をつままれた。
「……急にいなくなるから」
「エリック……」
「……どれだけ心配したか」
「……すまなかった……」「それじゃ仕事に行くか」
最後に鼻をもうひとつまみされた。エリックはその鼻にもキスをした。背ならエリックのほうが少し高いのだ。
「今は何を追っているんだ？」
「泥棒全般」
エリックはにっこり笑ってそう言った。
「でも今は『狐』かな？」
「フォックス？」
「性悪狐がいるんだ。金目ものもがあったら、気をつけるよう忠告するところだ、ラスティ」
最後にキスをもうひとつ。……今度は唇に。
「アイスの食いすぎで、腹壊すなよ。いくら『ローマの休日』が好きだからって」（……そうなの？）
（そういえば奴のホテルのテレビはやたら立派だった……）
（あれって映画を見るため？）
（オールドムービーにやたら詳しいのはもしかして？）
（アクションコメディ以外も見てたのか……）「グッバイ、ラスティ。貸しは４つだ忘れるな」
１本残して指を立て、エリックは出て行った。
今度はこっちがおいていかれた。
「４つって……あとひとつは……」
ドアを開けてみてももう。
階段を下りる後姿に黒い髪。
それだけだった。
「水道代と朝食とモーニングコールと……あとは何だってんだ？」