「あげる」
「………………」
「ブラッド？」
目の前でがっくりと膝を突く共演者に、エリックは慌てて駆け寄った。
「ブラーッド？どうした？立ちくらみか？気分でも悪いのか？ああ、なんでもいいから横になれ！」
床だけどいいよな、と言っているエリック・バナさんは、現在撮影中の『トロイ』の中の人々のような格好で、つまりはノーパンなのだった。そりゃあなた、風呂に入っていればねぇ。借りてたＣＤを忘れないうちに返しておこうと、お隣さんなトレーラーハウスに入ってみたらば当のエリックの姿はなくて。
でもバスルームを使っている音がしたので、風呂かな？と思いつつ待たせてもらっていた。そういうことは良くあった。今日みたいに、鍵もかかっていないこともあったし。
鍵が開いているときは、つまりはウェルカムオールフフレンドリーピープルの証ということになっていたし。
だからソファに座って雑誌をパラパラめくったりして。どうせならバスルームから出てくるとき、ちょっとびっくりさせるべきなんだろうか？人として、なんて。
その時はそんな余裕もあったというのに！「あれ？ブラッド、来てたのか」
声かけてくれよー、とかなんとか言いながら、ほかほかエリックは湯気を立てながら顔を出した。
「いや別に急ぐ用でもなかったし、あんたの風呂は早いし」
笑いながらそう言った。実際エリックの入浴時間は、自分らに比べると半分にも満たない。
「ちゃんとその立派なニクタイを洗えてるのかい？」
「もちろん。しっかり洗ったさ♪」
えーと、着替えはー、とエリックは、一人暮らしの気安さで、腰にタオルを巻いただけの格好で着替えを見繕っていた。「あ、そうだ。ブラッド」
「うん？」
着替え終わってからでいいだろうと、まだ雑誌を見ていた。どこかの国のどこかのニュース。
「あげる」
「は？」
「ブラッドにあげる」
イッタイゼンタイ、ナンノコトヲオッシャッテイルノデショウ？
こっちを見る、エリックの目も顔も怖いくらいに真剣だった。だからつい、くらりときてしまったのだった。「医者を呼ぼうか？病院に行くか？」
エリックは甲斐甲斐しく世話を焼いていた。タオルひとつで。
「いや……大丈夫、水をもらえるか？」
「分かった、楽にしてろよ。ああ、これ置いとくよ。気が向いたら持ってってくれ。この前言っていたレーサーのTシャツ」
………………Tシャツですか、そうですか。
お言葉に甘えて、もう一度床に沈むブラッドだった。今日の天井は、やけに目に染みるゼ。とかなんとか思いながら。