「今度は何を縫っているんだ？」
「これか？今度仮面舞踏会をやるっていうんでな。その衣装だ」
オペラ座の復旧工事の間は、時ならぬ休暇のようになってしまった。
それでは暮らしが成り立たないものたちは、あちこちに短期間の仕事を求めていたが、エリックはブラッドに招待されて地下の住居にいた。
いつもの下宿屋にいると、子爵がうるさいというのもあった。誰にもわずらわされずにいるには、このオペラ座の地下は最適の場所だった。
それに、いつでも一緒にいられるし。
「それを新しいオペラ座の柿落としにするらしい」
「やっと出来たか」
「何でも新しいシャンデリアがまたすごいらしくて」
明かりさえつけばどうでもいいと思うんだがな、とエリックは赤い衣装に針を入れた。
「何の仮装をするんだ？」
「これか？赤死病の仮面」
「そりゃまたブラックな……」
「ブラッドが着るんだぞ」
「俺が！？」
パイプオルガンの前で、作曲の詰めの作業をしていたブラッドは驚いてそう言った。
「そのくらいしないと、あの支配人たちはとてもブラッドの楽曲をやろうなんて思わないぞ？どーんとやらないと」
「エリックも大胆になったな……」
「誰かの影響でね」
ほら、と衣装を見せながら、エリックが笑うものだから、ブラッドはオルガンのイスから降りて、ゆっくりとエリックに近づいた。「誰だそれは。けしからんな」
クッションを敷き詰めた場所に座るエリックの襟首に指を当てながらブラッドは言った。くすくす笑いながら。
「けしからんだろう？今度会ったらびしっと言っておいてくれ」
「ああ、分かった」
そのまま頤を持って、ブラッドはエリックを上向かせた。大人しく上を向いたエリックは降りてくるブラッドの顔をぎりぎりまで見ていると、そっと目を閉じた。
「……仮面舞踏会なら、踊らなきゃならないかな？」
「踊れるのか？」
「言ったな。驚いて腰抜かすなよ」
「そこまで言うなら、お手並み拝見といこうか」
エリックが立ち上がると、その両手は、ブラッドによってしっかりとホールドされていた。
「音楽がないのが残念だな」
「じゃあ歌おうか」
「歌に気を取られてステップを間違うなよ」
「それはどうかな？」
どちらもくすくす笑いながらのダンスとなった。
笑いながら歌いながら。オペラ座地下の、巨大な湖だけなのがもったいないくらいの。
それはダンスであり歌だった。